この夏は島根の友人が送ってくれたカワラケツメイという草茶で、暑気あたりを免れた気がする。身体の水回りにも効くようで、年中の耳鳴りが軽くなった。

訪ねてきた人にしょっちゅう、さぁ、と出しているうちにもらったひと袋をきれいに飲んでしまい、あらためて注文しようと店のサイトを開くと、その草茶以外にも様々な品が紹介されている。甘味は得手な方ではないけれど、気になる茶請けがひとつあった。

白餡と寒天を練った羊羹に蕎麦の実を混ぜたもので、蕎麦の実のプチプチした食感を想うと、雑穀好きの食指がたまらなくくすぐられる。

山陰の山肌で永く造り酒屋をしていた友人の家を初めて訪れたのは、２０歳あたりの話。

長屋門のある旧家で、学校仲間数人と合宿の真似事して何日かをそこで過ごした。漆黒の夜は、田んぼの畦にそってゲンジボタルが明々と明滅していた。今思えば、贅沢な「合宿」だった。

風呂は正真正銘の五右衛門風呂で、外の焚口で『万延元年のフットボール』について喧々諤々する仲間に、弥次喜多のようにゲス板ではなく厠の下駄で風呂に入ったらどうだろう、と風呂場の内から騒いだら、ひんしゅくをかった。オオエケンも冗談も真剣で、みんな若かった。

次にその家を訪れたのは、長屋門の階上にある蔵の整理を手伝うことになった時だ。幕末の宗旨変えの際にひらいた宴席のつど、当主が買いもとめた道具類を友人と整理する合間に、この地域の産物を買いにでかけた場で、初めて蕎麦の実と出会った。幼いころに使っていた枕のソバ殻の中身がこれだったのだと、伝わる食文化もない地域育ちの私は、蕎麦の実を見てとても感動した。

いくらかの野菜が入った汁に蕎麦の実を加え煮ると雑炊ができると説明書きにある。蕎麦の実が入った小袋を目にすると、友人のお母さんは「まぁ、なんでそんなまずいものを買ってきたの」と大声で呆れた。戦前戦中の食料が潤沢ではなかったころ、この地域では米の代用に嫌というほど食べたから、もう見るのも嫌だと、お母さんは身をすくめていった。