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岩手に住む日常のブログ

東北岩手に住む私の身の回りについて書いています

わたくしといふ現象は、

仮定された有機交流電燈の、

ひとつの青い証明です。

病の床の中で

白い業の吐息を吐きながら

ほのじろく青く震えている

えにしのともしびです。

こうして熱にほてった耳を

枕に押しつけていると

とほい山の雪解けが、

大地の心音のやうに聴こえてきます。

畑や庭にもまだ雪はのこっているけれど

おもてはへんに明るくて

風の中をエーテルの微粒子が

きらきらとふりそそいでいるようです。

わたくしは、障子を開け放ち、野ウサギのやうに鼻をひくつかせて、

風景のにほひを嗅いでいるのです。

  とどいてくるのは、松のにほひや雪のにほひ。

  ああ。

イギリス海岸のあたりでは、ぬかるみのかけた水が、

新第三紀の泥岩の岩盤を、ひたひたと洗っていることでせう。

新しいバタクルミの化石や鹿の足あとの化石が、

不思議な表情で顔を出しているかもしれません。

この喉やらで鳴いている木枯らしを、

きれいさつぱり吐き出して、

わたくしは横ぞつぽうの明るい冷たい風の中へとび出してゆきたい。

濡れた畑の土へ両手を突つ込んで、

わたくしが今年はどれだけ働けるかを、

わたくしはわたくし自身に問いかけてみたいのです。

ぎちぎちと鳴る、泥で濡れた黒い手が、

ほんたうのわたくしの手です。

蒲団の中で、つめたくさむしく振るへているのは、

わたくしの手ではありません。

新しい肥料の設計や、みんなのための花壇を造るために、

南から、また東から、ぬるんだ風が吹きはじめるまへに、

わたくしはこの蒲団から立ち上がらなくてはなりません。

ああ、このままわたくしが逝かなければならないのなら、

わたくしに、あの松のにほひのする雪をとつてきてください。

わたくしが、けなげないもうとのためにさうしてあげたやうに、

わたくしにあの雪をたべさせてください。

松のむかふの瑠璃の空を、大きな雲がはしつてゆきます。

わたくしの心象のはいいろはがねから、

するするとあけびのつるは雲にからまり、

くるほしくのたうちます。

野薔薇のやぶや、糸杉に静かに風が吹いております。

わたくしの頬から熱を奪へ。

わくしの喉から木枯らしを奪へ。

わたくしの胸から嵐を奪へ。