ACT 1【食事】
俺達はペンション《エデンの園》に入った、
そこで俺達は別の宿泊客と出会い、意気投合したので
一緒に食事をとっていた。
《食堂》
「へぇ、大学生?」
「はい、桜庭芸術音楽大学の4回生、バンドサークルのメンバーです」
[青山哲也・サックス担当]
「私達、卒業記念にライブをやる事になって、その合宿にここに来たの」
[山口恵子・ベース担当]
「まぁ、合宿のノルマはもう終えたんで、後の時間はノンビリやろうぜ、って話してたんスけどね」
[船木高史・ギター担当]
「フン…」
[石橋英二・ドラムス担当]
「あれ?健介、どうしたの?元気ないんじゃない?」
[鈴木琴美・キーボード担当]
「あ…いや、そうだ、みんなゴメン、僕、作詞の途中だったから、先に部屋に戻るよ」
[阿部健介・ボーカル担当]
「オウ、分かったぜ、夕食には集まれよ」
「うん、それじゃ皆さん、ごゆっくり、お先に失礼します。」
阿部健介は、俺達に軽く会釈をして、食堂を出ていった。
「…ねぇ、チョッチ変じゃなかった?健介。」
健介の姿が見えなくなり、少しの沈黙の後に、音大生の一人、山口恵子がポツリと呟く
「アイツはいつも変だろが…」
と、音大生の中で一番、愛想のない男、石橋英二が、あきれたように言った。
それを聞いた船木英二が勢い良く椅子から立ち上がる
「英二、オメェ何でそういつも俺達に突っかかりやがる!」
船木の怒鳴り声が食堂に響いた、だが、石橋は何事も無かったかの様にゆっくりと立ち上がる
「あー下んねぇ、俺も部屋に戻るわ、付き合ってらんねぇや。」
石橋は、船木の言うことを全く気にせず
すたすたと食堂を出ていった。
「英二、待てっつの!」
石橋の姿が無くなった頃、可奈子が口を開いた
「なにアイツ、すごい感じ悪くない?」
可奈子が怒るのも無理は無い、俺だって
同じ事を思っていた
あと1歩遅かったら、ぶっ飛ばしモンだ。
それを見ていた音大生の一人、青山哲也が、俺達に頭を下げる
「すいません、英二は昔からあぁなんです…」
「じゃあ、周りのみんなとも折り合いが悪いんじゃない?」
涼子も彼の態度に不満を感じていた、いや、みんなそうなのだろう。
「あぁ、ブアイソっつーか、周りに馴染まないっつーか」
船木もそう言った。
「じゃああんな奴、とっととクビにしちゃえばいいじゃん」
可奈子がなんの物怖じもせずにそう言い放つ
「ち、ちょっと可奈子さん…」
可奈子の、ド直球ド真中の発言に
危機感を感じたのか、涼子が言った
「所がそうも行かないんです、彼、ドラムの腕前は超一流でしてね、手放すには…」
「惜しい人材って訳?」
礼子が割って入る様にそう言った
「ま、そんなトコです」
《阿部健介の部屋》
そこには、机に向かい、神妙な面持ちでいる
健介の姿があった
「僕は、これからどうしたらいいんだろう、みんなに話せば必ず迷惑がかかってしまう
…僕はこのままでいいのかな…」
《食堂》
「私立…探偵?」
琴美が驚いたように言った
「えぇ、私達はみんな、新宿の西城探偵事務所って所のメンバーなの」
可奈子が、驚いている
学生たちにそう応える
「あ、僕聞いたことありますよ、なんでも新宿には、スゴ腕の探偵がいるとか、確か西城…」
「西城洸獅狼、あそこでうつむいてる彼がその人よ」
俺は、阿部君という青年が
何故か気になっていた。
俺が考え込んでいたおかげで
暫くの沈黙が続いた、
俺は気になっていた事を
彼らに聞いてみようと思った、それは…
「なぁ、あの健介って彼、前に足にケガしてないか?しかもかなりヘビーなヤツを…」
それを聞いた船木が
驚きの声をあげる
「あ、あんた…どうしてその事を知ってんだ?」
「いや、食堂出る時に足を引きずってたからな、今でも(太もも)の辺りに大きなアザが残ってるだろ?」
「ウソだろ?そんな感じには見えなかったはずだ」
音大生のみんなは
俺の突然の言葉に驚きを隠せずにいた
「まぁ、普通なら分からんレベルだよ、とくに君達には…」
「それ、どういう意味ですか?」
琴美が疑問を感じ、俺に聞いてきた。
「あ、スマン、言い方が悪かったか、君達は彼とは付き合いが長いんだろ?」
音大生のみんなは
驚きのあまり、目を丸くしている
「あ、あぁ…」
「つまりはそういう事なんだよ」
音大生のみんなは頭を傾げる
俺の言葉の意味を
理解している者はいないようだ
「付き合いが長ければ長いほど、真実が隠れちまう事だってあるのさ」
音大生のほとんどが首をかしげる。
「あのー、イマイチよく分かんねっスけど…」
船木がゆっくり手をあげながら言った。
「つまり、彼の今の歩き方に、今の君達の眼が慣れ過ぎちまってるって事さ。」
「あっ!そうか!!」
彼らは、ここではじめて
俺の言葉の意味を理解した。
「そう、今の彼の歩き方が君達にとっては、普通に見えちまってるって事さ。
その分、俺は初対面な訳だから、すぐに解ったがね。」
彼らは、俺の考えていた事に、ただただ驚嘆していた。
これは俺で言う所の職業病みたいなもんだ。
「す、すげぇ…」
船木が、似合わない小さな声でそういった、
それを見ていた涼子達が、ヒソヒソと会話する
「里美さん、気付きました?彼の歩き方なんて…」
「ううん、私には全然…」
里美と涼子がただ驚いているのに対し
微かに微笑み、うなずいている礼子の姿があった。
「さすが…洸さん…」
俺達はそれから少しの間、談笑し、それぞれの部屋に戻った。
