中には”リックの死”に対して重たくて辛い部分も出て来ます。
最愛の恋人を突然失ってしまったティナの悲痛な想いも、客観的に優しい目で見守っていて頂ければ…と思います。
「……ねぇ…久遠……。」
ティナは…とても緊張した小さな声で…彼の名前を呼んだ。
…自分の…声と…手が震える――…。
落ち着いて…私……! 今…ちゃんと…久遠に自分の気持ちを伝えないと――…!
「…………………………。久遠………。今まで…貴方は…本当に…どれだけ辛い思いをして…いえ……私が……させてしまった部分もあるのよね――…。」
リック……。下手な言葉でも…私の想いがちゃんと久遠に届くように…貴方も祈っていて――…?
「………。本当に…ごめんなさい……私…謝っても……許されないくらいに…酷い言葉を…貴方に……。」
「事故だったのに……っ その後もリックを失った…悲しみのあまり…現実を受け入れる事が…どうしても出来なかった…っ。」
…ティナの瞳から…涙が溢れ出し……頬を伝っては…また新たな涙が瞳に溢れていく――…。
「…10年くらい…ずっと…ずっと…謝罪の言葉を…っ色々と……考えていたけれど…やっぱり……改めて実際会うと…うまく言葉には出来な…い………。」
「………あの時…“久遠“という…存在が……消えてしまう…くらいに…っわたし…は…っ…貴方を…追い…詰めて…っしまっ……」
“リックの代わりにアンタが死になさいよ…!人殺し…!”
私が言ってしまった言葉は…久遠の心を殺してしまったようなものだった――…。
「…ごめっ…」
「………ごめん…なさっ……っ」
…本当に…今まで…ごめんなさい…久遠――…!
ティナは…不器用で拙い言葉ながらも…心の底から必死に久遠に謝った――…。
* * *
…まさか…こんな日が…来るとは思ってもみなかった…。ティナの…ティナの方から俺に謝ってくるなんて――…。
「………………………。いや…ティナが…謝る必要は…全く無いんだよ……俺が…俺が悪かったんだ――…!」
「…俺が…リックの忠告を無視せずに…あの時…ちゃんと聞いて…いれば…リックは死なずに…済んだんだ…」
…ティナ……。
君から“最愛の人”を奪ってしまった…罪深い俺……。
…更に生まれる前のリッキーからも“父親”を奪ってしまった――…。
「…ごめん…ティナ……。俺の方こそ…謝って許される事では無いけれど――…。」
久遠の瞳から…エメラルド色の涙が零れ落ちる…。
「俺の方こそ…ずっと…君には……心から…心の底から…謝りたい…と……そう…思って………」
その言葉を聞いたティナは…久遠の頬に伝う涙をそっと拭い…優しく彼を抱き締めた――…。
そして…久遠の耳元で静かに囁いた…。
――ありがとう…久遠…許してくれて―――…。
「………………………。それは…俺の方が言うべき…言葉だよ…ティナ――…。」
そう言いながら久遠は優しく…そっとティナを抱き締め返し…また…キョーコも泣きながら2人の様子を温かく見守っていた…。
13年――…。
13年という長い年月を経て…漸く…深くすれ違ってしまっていた2人が…和解した瞬間だった――…。
“ふぅ~!お前ら…やっと仲直り出来たのかよ………。今回はすっごく時間掛かったじゃねーか…全く…。心配ばっかりかけやがって…!”
“………………………。これでもう…大丈夫だな…? 久遠…ティナ――…。”
頭のどこかで…リックがそう言ってくれているような気がした――…。
その後…暫くして2人とも気持ちが落ち着いた頃…太陽はゆっくりと西の空へと姿を消していこうとしていた。
「あのね…リッキーが小学生になった頃に…当時の事故をもう一度振り返って…色々と考えてみたの――…。」
* *
流れ出す血――…。
止まらない…血――…。
結局…出血多量で…救急車が到着した時には既に手遅れだったリック…。
もし…あの時に…私が落ち着いてちゃんと止血をしていたら…?
もしかして…今とは…違う未来があったかもしれない…?
可能性は…低いかもしれないけれど…リックはまだ死なずに…病院まで持ったかもしれない――…。
そして…病院まで持ちさえすれば…更に緊急的な延命措置が…出来たのかもしれない――…。
久遠の事を”人殺し”って言うのなら…止血をしようともせずに…ただひたすら嘆き悲しんでいた…私も…同じじゃないの――…?
* *
「…そう考えて…私と同じ…悲しい思いをする人が…この先1人でも減ればいいな…って思って今は…“救急救命士”をしているの――…。」
「そう!!!母さんは凄いんだよ…!母さんのお蔭で…今まで沢山の人の命が救われて来たんだ!!」
リッキーがユリアと手を繋いで…隣の部屋からリビングの方へと戻って来た。
「…あ…ごめん母さん…大切なお話中に……。でもさ…ちょっと喉渇いちゃって」
「あ…もう…こんな時間か――…。」
久遠は腕時計で時間を確認すると…リックのお墓でティナと再会した時の2時13分頃から…3時間ほど経過し
リックの形見である腕時計の針は…確実に未来へと時間を刻み続けていた――…。
そして子供達がジュースを飲み終えた頃…ティナはユリアの髪に赤いハート型の可愛い髪飾りが付いているのに気が付いた。
「………………………。リッキー……その飾り付きのゴムって…もしかして――…!」
* *
“よし!!ティナ! …じゃあ…今から買い物に出掛けよう…!!赤ちゃんグッズ揃えに行こう!”
“え…?えぇーー?!午後からの授業は…?”
“パス!パス!…今日は俺達にとって運命的な特別の日だから…”
“…あ……!ティナ…見て!この髪飾りなんかとても可愛いなぁ…!”
“………………………。ねぇ リック…男の子だったら…どうするの…?”
“うーん…大丈夫…!何だか…女の子のような気がするんだ――…。”
* *
「あぁ…これ?…うん…。そうだよ……父さんが…死ぬ前に…お腹にいた俺にって…買ってくれたやつ。」
「みてみてーー!!かわいーでしょ? リッキーにぃにが くれたのーー!!ゆり、これとっても すきーー!」
ユリアは満面の笑みを浮かべながら…リビングにある鏡を見て…可愛い髪飾りを触り出した。
そして…その様子を見た久遠はキョーコと視線を一度合わせた後に…リッキーに声を掛ける。
「リッキー…そんな大切な物を…ユリに…!」
「そうよ…!ちゃんと…大事にしまっておいた方が…!あれは…リックさんの形見になるんでしょう…?」
リッキーはコクンと頷いた後に…少し複雑そうな表情を浮かべた。
「…それはそうなんだけど…オレ…男だし…//// 何だか…オレが持っているより…ユリアが着けている方が良いような気がして――…。」
「だって…クオンって…父さんの親友だったんでしょ…?」
「………………………。親友の…娘なら…“父さんの娘”でもあるんじゃない…?」
リッキーは自分のポケットから…彼らの“親友の証”であるアイオライトの石を取り出して久遠に見せた。
「…それに…オレの父さん…女の子…欲しがってたみたい…だし…?」
そう言うと…リッキーは少し嫉妬したような表情を見せた後に…照れながら笑った――…。
そんなリッキーの様子を見たティナは…クスクスと笑いながら彼を優しく抱き締めた。
「リッキー、お父さんは…“女の子のような気がする”っていう“勘”が外れただけで…別に女の子を欲しがってた訳じゃなかったのよ…?」
「…ふぅん…?なら…いいけどね…/////」
「でも…その髪飾りは…私もユリアに使って欲しいって思う……。リッキーの言う通り…久遠の娘なら…リックの娘でもあるようなものだと思うから――…。」
ティナはユリアの前に行き屈んで彼女と目線を合わせ、優しく話掛けた。
「ユリア…そのハートの髪飾りは…リッキーのパパが買ってくれたとても大事な宝物なの。…だから…大切に…大切に…使ってくれる…?」
「…うん!!たいせつにするーー!!」
ユリアは屈託のない笑顔でそう返事をしたが、横にいたキョーコは…少し躊躇った。
「…え…でも…ティナさん……リックさんの大切な形見…本当にいいんですか…?」
「うん…。だって…ユリアは…リックの親友の久遠の娘だから特別なの…。それに…リックもその方が喜ぶと思うし――…。」
…ティナの優しい言葉に…久遠は感動をし、心の底から…幸せそうな微笑みを浮かべた――…。
「…ありがとう…ティナ――…。」
良かった…。良かったね…久遠さん――…。
そして…久遠の笑顔を見たキョーコは心の中で…そう思いながら彼に優しく微笑み返した。
実は…キョーコ自身も“久遠を支えないと…”とは思いながらも…ティナに会う事には大きな不安があり、今まで…必死にそれを彼に気付かれないように振舞っていたのだ。
キョーコは…今まで培って来た“演技力”に感謝しながらも…心のつかえが取れた事にとても安心をした――…。
久遠の未来への時計の針は…“役者”として
そして…ティナの時計の針は…“救急救命士”として
これからも未来に向かって時を刻んでゆく――…。
新たに誕生した “命”の存在と共に―――…。
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