部活も終わり、足腰がクタクタの俺は、気力を振り絞ってなんとか自転車置き場まで歩いて行った。さすがに部活終わりまで、あいつがいるわけないよな。不安と期待が入り混じった、不安定な感情が押し寄せていた。自分の自転車に着くと、鍵をつけ、これでもかというくらいのスピードで家へと向かった。
 無事家へと着き、なんだか気分的に楽になった。こんな気持ちが続くのかと思うと、上田裕美との関わり合いだけは最小限にしようと心に決めた。

 何事もなく1週間が過ぎた。初日の出来事からして、毎日のように絡まれる日が続くのかと思ったが、思い過ごしのようだった。
教室に着くと、俺の机の周りに人だかりが出来ていた。嫌な予感を感じつつ、
「おぅ、おはよう。どうかしたか?」
「おはよう、真人来たか。」にやけた顔の
 放課後、部活があったので、そそくさと教室を後にし、部室へと消えた。俺はバレー部に入っていて、噂によると上田は・・・
「よっ。元気してた?」
 出た。ひょこっと体育館の扉から上田が顔を出してきた。
「・・・さっきまで教室で一緒だっただろ」
「そっか、そっか。その話し方からすると、あんまり真人君は私と仲良くしたくないのかな」
 ピンポ~ン。分かってるならどこかに行ってほしいんだけどな。
「そんなことないよ。今日、同じクラスになったばかりだから、緊張して話せないだけだよ」
 なぜか、言葉として出てきたのは、自分の本心とは違った答えだった。
「へぇ~、そんなことないんだ。じゃあ、手伝ってよ。」「・・・なにを?」
「コートにネット張りたいんだけど、まだ誰も来てなくて、一人で張るの大変なんだよ。」
 待てばいいだろと思いつつ、
「分かった、いいよ。」
 上田が入っている部はテニス部で、体育館の横扉を開けると目の前にある。そこから、上田は顔をひょこっと出したのだ。
 上田の後をついて行き、テニス部の物置小屋からネットを取り出して、コートのポールに取り付けた。
「ありがとう、助かった。」「うん、じゃあ俺は戻るね。」
 そう言って、また、上田と関わってしまった事に少し危機感を感じながら、バレーコートのある体育館へと戻って行った。
 始業式が終わり、みんなでぞろぞろと歩いて教室へと向かった。新しいクラスになったばかりなのに、もう少人数のグループがちらほら出来上がっていた。
俺は敏明と話ながら教室へと入って行った。すると、
「敏明じゃん。今年も同じクラスなんだ、よろしくね。」 透き通った元気な声がした。
「おう、初日から遅刻したな~。」
「来る途中、足挫いちゃってさぁ、大変だったんだよ。」
そう、さっきのあの娘だったんです。
「さっきは、ありがとうね。真人君って言うんだ。」
軽く会釈をして言った。
「なんだ、真人。お前の『ちょっと』ってこの事か?」
「な~に?『ちょっと』って?」
その娘が割って入ってきた。
「真人が始業式遅れた理由が、一発芸をやってたからだって言うんだよ」
「だ、誰が、私のキスが一発芸よ」
その娘がなぜか勘違いをしながら怒り出した。止めるのが面倒くさいと思いながら、
「違うから。その娘の手当てしてただけだから」
静かに伝えると、その娘も理解した様子で、急に自分の言葉に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめた。
「えっ、なになに?キスって」
「ち、違うよ、キスじゃなくて傷(きず)だよ。敏明、聞き間違えるなよ」
「・・・そうだったか?」
敏明は首を傾(かし)げていたが、その場はなんとかやり過ごせた。
「・・・それより、敏明と仲いいんだ?」
「あれ?もしかして名前すら知らなかった?」
「・・・うん。」
「この娘の名前は上田裕美。去年一緒のクラスでよく話していたんだ。」
「真人君、よろしくね~」
 ・・・げっ、こいつが“あの上田裕美”か。初日から面倒な子と絡んじゃったなぁ。確かに噂に通りと言えば、その通りかも。1年も学校に通って、今日初めて見る俺も珍しいだろうけど、出会った時に名前聞くべきだったなと深く反省した。
「・・・よろしくね」
 精一杯の笑い顔を作って答えた。まぁ、クラスが同じだけだし、これから先関わりがあるかも分からないし、大丈夫だろう。そんな事を自分に投げ掛けて、説得した。