俺の実家は、下町の小さな音楽事務所。
ヒット曲の下書を制作している!
『この数年の不景気で、レコード売れないし、皆ギリギリの生活を強いられています。それにこの作品は、何というか、品がないと言いますか、下衆いといいますか、制作料を支払う気になれませんね』
そんなバカな!絶対にヒットしますよ。私だってプライドがあります。そんな安い作品は作ってない!と、親父が強く言っても、それでは今後の取引はなしにしましょう。あなたがいなくても我々は困りませんので。いや、あなたのプライドを満たすために、使ってやってもいいんですよ。勿論、報酬はなしで。ボランティアですね。
そう言って、当然のように金も支払わず帰っていく。
テレビではタレントいや、ミュージシャンが派手な私生活を曝け出している。俺たちの音楽をしっかり自分のものにしているようだ。そう、誰も信じてくれないだろうが、これが事実です。
俺は親父なようにはなるまい。母さんにどんだけ苦労かけてるかわかってんのか。
俺は、こんな反面教師のおかげで、真っ当な会社に就職できた。
小さな幸せを手に入れたと思っていたのに、上司に裏切られ、横領の罪を着せられ職を失った。警察沙汰にはしないからとクビになったのだ。
俺は、懐かしいけど戻りたくもない音楽事務所に引き戻されたのだ。
追記:結局、親父と同じ金にならない商売をやることになり、本当は俺たちがおおかた制作した音楽動画へのコメントを読むのが日課となる。