私が所属している州立医療機関のサポートチームは、Assertive Community Treatment (ACT) チームと言います。


世界的に有効性が証明されたサポートモデルで、医師、看護師、カウンセラー、サポートワーカー、警察官、保護観察官など、様々な職業のプロフェッショナルでチームを組み、クライアントに多角的にアプローチするチームです。


クライアントは重篤な精神疾患(主に統合失調症)と依存症を持つ人達が主になります。


このACTチームの目的は、「地域の中の壁のない病院」の機能を果たす事。重篤な精神疾患や依存症をもつ人が、いかに入院することなく、地域の中で普通の生活を送るサポートをするか、という事。


そのために一人のクライアントに色々な職業のプロが話し合い治療に取り組みます。私はその中でメンタルヘルスワーカーとして役割を果たしています。


日本には馴染みのないこのチームですが、世界的には有名な治療モデルで、エビデンスでその有効性が証明されています。


と言っても具体的に何をするかわかりにくいですよね。以前の記事にも例を挙げましたが、以下は私のチームのクライアントの具体例になります。


特定の個人ではなく、様々なクライアントの状況から作った架空の人物です。つまりある意味、典型的でよくあるケースだと考えてください。


そのクライアントは、重いヘロイン依存症を持っています。彼はホームレスであり、幼児期から過酷な体験を繰り返し、壮絶なトラウマを抱え、家族からのサポートは一切ありません。統合失調症を持っていて、幻聴や幻覚が常にあります。頻繁にオーバードースと入院を繰り返し、暴力などの犯罪歴もあります。


この場合、本人の力で回復しようという気持ちになるのは非常に難しいでしょう。ティーンの頃から薬物だけが、彼が生き延びる救いとなってきた。様々な要因が彼の依存症の原因になっています。


私達のチームはそれを多角的にサポートします。シェルターへ連携し、最低限の衣食住の確保、ピアサポート、それから、チームのスタッフとの、一切批判や偏見のない人としての関わり。医師との連携と適切な投薬。私達のチームには警察官もいます。彼らは依存症に理解があり、そういう警察官との温かい人間同士の関わりも、犯罪を繰り返して司法というものに恐怖を抱いてきた彼には、非常にポジティブな影響をもたらします。


人によっては、同じ体験を共有する仲間とつながることが回復の糸口になることもある。仕事やボランティアに生きがいを感じる場合もある。身体的な病気の治療で依存症の治療にも前向きになる場合もある。統合失調症の症状を適切な投薬で抑えることで、薬物依存が減る場合もある。長期的なトリートメントセンターへの入院が、劇的な回復をもたらすこともあるし、犯罪後に保護観察官に繋がることで、治療に前向きになることもある。


色々な分野のプロフェッショナルが協力してそのクライアントにベストな方法を考えてアプローチします。


ACTチームのサポートで、入退院を繰り返していた人が自立して何年も暮らせたり、依存症を克服したり、様々な成果を上げています。


本当に正直な、現場の現実的な話をすると、クライアントの全員が、依存症や精神疾患から回復するわけではありません。ずっと何年も薬物をやめていても、また使い始める人もいる。ずっとやめない選択をする人も多い。犯罪で逮捕されたり、オーバードースで亡くなってしまうクライアントも度々います。薬を拒否して幻覚や幻聴に常に苦しみ続ける人もいます。


なので私達ワーカーもバーンアウトと常に隣り合わせ。暴言を浴びる事も珍しくないし、片付けられないクライアントさんの部屋の掃除を手伝ったりなど、凄まじく汚れたりもするし。自分の身の安全にも常に細心の注意を払わなければなりません。


それでも、世界中のACTチームが、重い精神疾患や依存症で苦しむ人を地道にサポートし、日々情熱を持って懸命に働いている事を知っていただけたら、と思います。