人間の脳は、その4分の3が、生まれた後に発達し、3歳までに90%が発達します。その発達には環境が大きく影響します。
環境的要因は主に三つ。
①栄養
②身体的安全が確保されること
③コンスタントに精神的充足が与えられること
③の精神的充足の不足が、後々の人生での依存症になるリスクに多大な影響を与えます。その中核に愛着の問題があります。
愛着、人と人との繋がりを求めるシステムが人間にはプログラムされており、この愛着に問題があると脳の発達に著しく影響を与えると言われています。
乳児は両親又はケアギバーの心理的状態を読み、反応します。ボディランゲージや、抱っこされた時の腕の強さ、声のトーン、表示、瞳孔の大きさまで。
親が本当は落ち込んでいたりネガティブな心理状態にあって、赤ちゃんのために無理矢理明るい表情や言葉で接しても、赤ちゃんは本当の心理状態を少なからず読むと言われています。
そのくらいセンシティブで、親との関わりが脳の発達に影響が大きいということです。
何らかの理由で、幼少期にポジティブな愛着を親またはケアギバーから与えられなかった場合、後の人生で依存症になる可能性が高くなるのは、脳内に分泌されるホルモンが大きく関係していると言われています。
親から精神的に健康な関わりを与えられると、乳児の脳で内因性のオピオイド、エンドルフィンという脳内神経物質が分泌されます。
エンドルフィンは、幸福感や高揚感、痛鎮痛効果などの作用があり、モルヒネなどに代表されるオピオイドと同じ作用があり、脳内麻薬とも呼ばれます。
その分泌の繰り返しによって、脳内での正常なホルモン分泌システムが発達していきます。愛情、人との繋がり、痛みのコントロール、幸福感などを司るホルモンシステムです。
親またはケアギバーから健康的な関わりを与えられず、精神的な充足が不足してしまうと、このシステムが正常に健康的に発達しません。
そしてストレスにより、内因性オピオイドとドーパミン受容体の数は減少します。
このことが、後の依存性のリスクに繋がります。
正常に分泌されないドーパミンやオピオイドを薬物で補おうとするからです。
薬物により分泌されるホルモンは、脳内で自然に分泌されるホルモンと似ており、受容体にはまってしまうのです。
ラットの実験で、生まれてから一週間、母親から一日一時間引き離されたラットは、成長した後、他のラットより、コカインを摂取する率があがりました。
大人のラットでも、長い時間孤立させられたラットは、ドーパミン受容体が減少することが報告されています。
人間は、赤ちゃんを抱っこします。ラットは抱っこの代わりに赤ちゃんを舐めます。十分に親に舐められて育ったラットは、不安を軽減するシステムが脳に出来上がりますが、不足すると、健康的なそれが発達しません。
幼少期の親との愛着は、オキシトシンというホルモンにも影響します。
オキシトシンは、スキンシップや人と人とのポジティブな関わりによって分泌されるホルモンです。
親から十分に精神的充足を与えられないと、オキシトシンの生涯分泌量が減ります。このオキシトシンは人と愛着関係を築いていくのに必要不可欠なホルモンで、このオキシトシンが減ってしまった場合、親密な人間関係を築くことが難しくなり、それにより依存症のリスクが高まると言われています。
参考: Gabor Mate 著 (2008) “in the Realm of Hungry Ghosts”