今日、北国街道を上田から大屋まで歩いた。江戸時代から、或いはもっと以前からの古い道。クルマがギリギリすれ違えるほどの道幅。木造の古い家並。神社の欅が高く聳える。どこか懐かしい風景が続く。
でも、この古い街道で発見したのは、中世、近世とかの誰かの歴史ではなく、自分自身の記憶だった。
北国街道沿いに国立大学がある。信州大学繊維学部。私の父は、ここで教授をしていた。ときどき、おそらくは日曜日の午後などに、幼い私を自転車に乗せ、ここに連れてきては、特に遊んでくれる訳でもなく、自分の研究室で何か仕事めいたことをしていた。
私は、放って置かれても特に不平を言うこともなく、ずっと一人遊びに没頭していた。そのときに見た風景。薄暗い研究室の記憶。一つだけある大きな四角い窓から差し込む日差し。その逆光の中に父のシルエットがあった。
今日、信州大学繊維学部では卒業式が行われていた。袴姿の卒業生が校門の前で記念撮影をしていた。その向こうには大学構内の広い並木道がある。道沿いに続く古めかしい校舎。だけど、もう父の研究室など跡形も無いのだろう。その父も、もう随分と昔に死んだ。僅かに私の記憶の中にある、あの逆光の窓を、薄暗い研究室を、並木道に沿って続く校舎のどこかに探していた。



