1.損益計算書とは
比較的理解しやすいかもしれません。しかし、損益計算書で大切なのは当期利益を導き出すための以下のプロセスです。(1)本業(商品の販売)そのものでどれだけの利益を生み出せたのか(売上総利益)
(2)それで給料、家賃、リース料などの販売費及び一般管理費(経費)を負担すればいくらの利益が出るのか(営業利益)(3)本業以外(いわゆる財テクなど)の収益と費用を加減算すればどうか(経常利益)
(4)本来は売却を予定していなかった資産(株や不動産)を売却して埋め合わせる必要はなか
ったのか(当期利益本業の儲けを示す営業利益が大幅なマイナスで、資産の売却益で当期利益を捻出している会社が健全といえるでしょうか。(なお、損益計算書の当期利益算出プロセスの区分も、貸借対
照表の流動と固定の区分同様、実務上困難な場合があります。)
《経営成績》
損益計算書は収益と費用を対比させ、差し引きとしての利益を算出します。これを経営成績と呼び企業の収益力の尺度とします。損益計算書の最終利益(当期利益)は、課税所得や株主への配当金の算出にも用いられます。損益計算書は企業の収益力のみでなく成果分配(納税は国への分配です)の財源が生み出される過程を表していると考えることもできます。
2.売上総利益(損失)
算式としては次のとおりです。
売上高-売上原価=売上総利益
売上原価=期首商品+当期商品仕入-期末商品
算式を見れば、期末商品(在庫)の計算次第で売上原価の金額が大幅に変動することがわかります(期首商品、当期商品仕入は確定しているとして)。
《在庫が増えれば利益が増える?》
「在庫は必要最小限に抑える」は経営の鉄則です。在庫は資金の投下であり販売されるまで資金とならないからです。会計における在庫の大小は、年度末における「検数方法」と「各単価」の計算で決まります。年度末の在庫という事実関係は一つです。しかし、検数方法(検数に含める範囲)と各単価の算出(どの時点の仕入れ値にするか)により金額が変わってきます。不良在庫は検数から除外し、単価については年度末の金額が少なくなる方法(先入先出法、 移動平均法など)を採用すれば、在庫金額は少なくなります。
3.製造原価
製造業の場合、売上原価の算式は次のとおりです。
期首製品+当期製造原価-期末製品=売上原価
期首材料+(当期材料仕入、外注工賃、工場の諸経費など)-期末材料=当期製造原価
期末製品や期末材料の金額が多大な影響を与えるのは、2同様です。製造原価の把握は極めて精密な帳簿体系の構築と運用が必要となります。材料仕入や機械の減価償却費など明らかに製造に要した費用はともかくとして、工場と営業所が同一地にある会社の家賃、建物の減価償却費など営業活動と製造活動で共用されているものを「製造活動=製造原価」、「販売活動=販売費及び一般管理費」に区分することが困難だからです。特に中小零細企業においてこの傾向が顕著で、製造業でありながら製造原価報告書がない会社も珍しくありません。「期首製品・材料+当期材料仕入・外注工賃-期末製品・材料=当期製造原価(売上原価)」程度の計算がなされているのが実情です。
《経済のソフト化》
工場の海外移転が進み経済のソフト化と叫ばれるようになって久しいですが、これは決して製造原価の重要性がなくなったということではありません。原価という概念は製造業だけでなくサービス業においても重要です。原価とは物理的な概念(目に見える製品の製造原価)ではなく、一定の収益を生み出すための支出であるからです。従来は支出の多くを材料費が占めていましたが、現在は人件費が主流です。そこでは、目に見えない原価をいかにして収益に対応させて把握させるかが重要となります。
4.営業利益(損失)
財務活動(資金調達・余裕資金運用)を除く企業の日常活動の結果としての利益です。大小を問わず企業経営者、融資する立場の金融機関、株式投資家はこの数字に固執します。当然プラスでないとなりません。数期間マイナスが続いている企業は、衰退産業、放漫経営、高コスト体質などが考えられます。
5.経常利益(損失)
営業利益に、財務活動(資金調達・余裕資金運用)や副業による「営業外利益」と「営業外費用」を加減算した結果としての利益です。この数字も営業利益同様、企業経営者、融資する立場の金融機関、株式投資家は固執します。理由は営業利益と同様です。余裕資金を株式で運用した「株式売却益」、高金利を享受した「受取利息」、さらには遊休土地の活用(ゴルフ場や賃貸ビルなど)による「賃貸収入」など、膨大な営業外収益を計上し営業利益(本業)のマイナスを穴埋めしている会社も珍しくありません。
6.特別利益と損失
特別利益の内容としては遊休土地や長期保有を目的とした株の売却益、特別損失としては人員整理費用(おもに退職金)、設備廃棄費用などがあります。いずれも、会計上の「営業」や「経常」という概念からははずれます。上場企業の場合特別利益は、配当可能利益の捻出や特別損失の補填のため行われるのが通常です。これは、決算数値が一定水準をクリアーしないと配当ができず、最悪の場合上場廃止となるからです常時、経営の無駄を排除していればこのような特別損失も利益もあまり生じないはずです。遊休資産も人員も発生しないからです。特別損失や利益は、問題を先送りした結果にほかなりません。
7.当期利益(損失)
最終利益のことです。当期利益は損益計算書を区分表示しなくとも算出できます。この金額が配当可能利益の源泉となります。課税所得はこれを基に税法独自の調整を行って算出します。
8.減価償却費
発生主義ならではの費用項目です。資金の流出は過去に行われており、支出を伴なわない費用です。しかし、減価償却の対象となる資産の購入が借入金で行われている場合は事情が変わってきます。特に、資産の耐用年数より借入金の返済期限が短い場合は、実際の資金繰りは損益以上に苦しくなります。借入金の返済期限が短い中小零細企業ではこの傾向にあります(中小零細企業の場合は返済期限は長くても7年程度です)。
9.評価損益
主に株式、社債、投資信託などの金融商品の取得原価と時価との差額です。目先のわずかな上がり下がりは大勢に影響しないかもしれません。しかし、大幅な評価損が発生し当分回復の見込みがない場合は大打撃を受けます。余裕資金で運用をしているならまだしも、借入金で得た資金で運用している場合は大変なことになるのはいうまでもありません。
10.除却損固定資産、棚卸資産などで物理的、機能的に資産としての価値を失ってしまったものは、貸借対照表から消滅させなければなりません。経営に役立たない資産が発生したのですから、今後は多額の除却損が発生しないように努めなければなりません。
11.消費税の処理
消費税の主旨からして税抜処理が正しい処理です。消費税は顧客から預かった税で、そこから自社が支払った消費税を差し引いて納税します。前者は仮受消費税、後者は仮払消費税で処理します。 しかし、中小零細企業にとって消費税は極めて直接税的な性格で、販売価格への転嫁がなかなかできません。その意味からは、税込処理が理論的かもしれません。また、税抜処理は相当事務能力が高い会社でなければ行えません。そこで、税込処理も認められます。なお、ここでの消費税の処理は簿記の仕訳での処理です。簿記で税込を採用している場合でも、発行する請求書や店頭表示が税抜(税別)となっていることはあります。
12.税務申告書との関係
税務(法人税)申告書は「確定した決算」に基づかなければなりません(確定決算主義あるいは基準)。経常利益に特別利益を加減算した当期利益、厳密にいえばここからさらに法人税や住民税を差し引いた税引後当期利益から税法独自の調整計算をして「課税所得」を算出します。
13.費用収益対応の原則
発生主義会計における基本原則です。損益計算書において費用と収益は対応していなければなりません。売上高と売上原価の関係はこれにほかなりません。しかし、費用と収益の対応関係を完璧に求めることはできません。本社社屋の減価償却費、家賃、交際費、福利厚生費などの費用は収益と明確な対応関係がありません。これらは、一定のルールを前提に処理することで売上高との対応関係を維持するしかありません。なお、実務上、年度途中は発生主義や費用収益対応への厳密な処理はしないで、その修正処理を年度末に行うこともあります。その場合、年度末に検討しなければならないのは次のような処理です。
(1)期末在庫の棚卸
未販売品(売上未計上)のカウント漏れは、売上原価を過大にしてしまいます。
(2)年度末間近の売上と仕入の集計
当期中に販売した商品とそれに対応する仕入を正確に把握しなければなりません。特に締日
と決算日が異なる場合は、締日から決算日までの集計を決算期に限っては特別に行う必要があります。
(3)仮払金の長期未清算
当期中に財貨・用役を消費している以上は費用処理が必要です。
(4)時の経過に基づく費用収益の計上
家賃、利息、保険料などで必要性です。
14.損益と収支との関係
ここでの収支とは「期末現金預金-期首現金預金」のことです。企業の活動期間が有限な場合は損益と収支は一致します。しかし、企業活動が永続し会計期間を設ける場合は次の事象などが両者に違いを生じさせます。
「損益と収支に違いが出るのは宿命」といってしまえばそれまでですが、特に(3)(7)(8)(9)などは熟慮の後に行う必要があると思います。そうでないと資金もないのに多額の納税をする(利益が出る)羽目になってしまいます。
(1)減価償却
支出は過去に行われていますので収支に影響しません。
(2)増資や銀行融資で資金調達し年度末までに運転・設備資金として投下していない場合資金調達しても収益とはなりません。
(3)土地の購入
減価償却の対象ではありませんので費用とはなりません。
(4)銀行融資の返済
調達資金で支払った財貨・用役の対価は費用となりますが、返済は費用とはなりません。
(5)売上代金の長期未収
収益計上はしなければなりませんが資金の裏づけがありません。
(6)在庫の囲い込み
かなり先の在庫を囲い込んだ場合は当分の間は売上原価とはなりません。
(7)役員やグループ会社への貸付け
支出ですが費用処理はできません。将来、回収するものだからです。
(8)積立預金
金融機関に半強制的に求められ、そして事実上拘束されます。資産勘定の振替であって費用ではありません。
(9)貯蓄性保険の保険料
これも(8)の積立預金に似ています。
(10)過大な役員給与
中小零細企業の社長さんで、将来の公的年金の受給を意識して「取れてもいない役員給与」を計上している場合があります。当然、役員給与の一部分が「未払給与」となっています。
15.借入金の扱い
「こんなに借金を返しているのに、損益計算書が黒字とは」、よく聞きます。
会計においては、企業を次のようにとらえます。
(1)資金調達→(2)財貨・用役を生み出すための資金投下(調達資金の流出)→(3)財貨・用役の販売→(4)投下資金の回収→(5)資金の再投下((2)へ) 損益計算書は(2)と(3)の関係です(厳密には(2)と(3)の一部)。借入金による資金調達は(1)であり、返済は(4)の後に行われます。(3)と(2)の差額、つまり収益と費用の差額である利益が十分であれば返済は負担になりません。借入金の元金相当の利益を生むには、上記(1)~(5)サイクルを何度か繰り返す必要があります。また、借入金を完済するまでは貸主への対価としての利息を支払わなければなりません((2)に含まれます)。 返済負担が大変なのは、借入により調達した資金(1)を投下したけれども(2)、販売(3)や回収(4)ができていないことによります。前者の場合は資金投下が費用とならない、後者の場合は入金のない収益であるために、損益計算書では利益が計上されていても借入金の返済負担が重くのしかかります。 現在の会計理論は、大企業つまり安定株主とメインバンクの存在を前提に構築されています。大企業は調達資金を早期に返済する必要はなく、長期間運用することができます。しかし、中小零細企業は調達後直ちに分割返済を開始しなければなりません。「どうせ損益計算書なんて」は、ごもっともだと思います。
《財テク》
上記(1)~(5)のプロセスは、通常の企業活動(仕入れて販売する)以外の財テクにも当てはまります。
16.資産と費用
上記15の(1)~(5)のサイクルからお気づきでしょうが、資金を投下しても直ちに費用とはなりません。費用となるのは販売のために消費した時点です。投下資金が未消費の場合は資産として貸借対照表にプールしておく必要があります。
この資産と費用との区分は、会計理論における重要なテーマのひとつです。資金の投下によっては直ちに費用となることもあります。給与や交通費などはその典型です。また、簿記処理上は支出時に費用処理して、月末や年度末に未消費部分を資産計上する方法によることもあります(在庫や前払費用など)。 経済のソフト化にともない目に見えないものに対しての資金投下もかなりのウエイトを占めるようになってきました。ソフト開発会社の開発人員の人件費などはその典型です。これらの人件費に対する投下資金が収益化していない場合は、人件費相当額を資産として繰越す必要があります(在庫として)。
17.収益と資産
収益である以上、資産(現金=キャッシュ)の獲得がなければなりません。会計においてもその考えは受け入れられています。しかし、会計においては入金の確実性とその金額の客観性をもって収益としています。つまり、入金の確実性と金額の確実性が明らかになった時点で、収益を計上するとともに資産を認識します(いわゆる売掛金や未収入金)。収益の認識基準は、業種、業態、取引内容により異なります。これも会計理論における重要なテーマのひとつです。
18.負債と費用
負債はいずれ返済しなければならず企業にとっては大変な負担です。しかし、負債といっても様々な性質のものがあります。仕入債務(買掛金・支払手形)は負債の発生があれば費用も発生します。借入金(金融機関などからの資金調達)は直ちには費用となりません。調達した資金を投下していないからです。
19.総額主義
損益計算書は総額で表示しなければなりません。売上高-売上原価=売上総利益といった具合に、差し引きのプロセスを表示しなければなりません。
《純額表示》
株式の売却益や土地の売却益など、本業とは無関係な損益は純額表示することが一般的です。
株式売却損(益)=株の売却収入-株の取得原価(買値)
土地売却損(益)=土地の売却収入-土地の取得原価(買値)
20.現金主義会計の欠陥(発生主義会計の長所)
発生主義会計においては会計期間を設けます。会計期間は事業年度であり、どの企業にもこれは存在します。次のケースを考えてみてください。
(1)自動車販売会社の営業マンAさんは、本事業年度に大量の契約を獲得し全て納品もしたけれども、代金の集金は顧客(支払能力は十分)との約束(会社も認めている)で全額翌事業年度となる。
(2)住宅メーカーのB社は、当事業年度大量の受注を獲得し代金も入金済みであるけれども、工事材料や外注費用の支払は業者との約束で全額翌事業年度となる。 現金主義ならば、Aさんは超無能な営業マン、B社は超優良企業で多額の納税をしなければなりませ発生主義はごく自然な考えではないでしょうか。発生主義会計は経済の発展に伴って徐々に形成され、今後も変化していきます。会計数値には様々な利害が関係してきます。会計理論は無数に存在する利害関係を調整しながら発展していくものなのです。初めて会計を学ぶ人が理解に苦しむことや、専門家でも簡潔明瞭に説明できないのは当然のことです。
21.キャッシュ・フロー
まさに現金主義です。キャッシュ・フロー計算書は特定期間のキャッシュの獲得状況(現金預金の純増減)を、営業活動(本業)、投資活動(設備投資)、財務活動(資金調達と運用)に区分して表示する決算書の一部です。キャッシュ・フロー計算書からは、貸借対照表や損益計算書では得られない情報を得ることができます。損益計算書の利益は収支と一致しません。貸借対照表に現金と預金の残高が表示されていますが、これは一定時点の残高に過ぎません。
上場企業ではキャッシュ・フロー計算書の作成と公表が義務付けられていますが、非公開企業ではその必要はありません。しかし、作成し公表することが望ましいのはいうまでもありません。キャッシュ・フロー計算書が注目されるようになった理由は様々です。会計基準により左右される利益と異なり、キャッシュ・フローはただひとつであるため客観性のある数値であることは確かです。しかし、キャッシュ・フローで企業内容のすべてを判断できるわけではありません。
22.貸借対照表はメモ帳
会計に不慣れな人にとって貸借対照表は難解です。しかし、上記の説明で貸借対照表には一定時点の現金預金や借入金だけでなく、未販売在庫や未回収・未払代金も含まれることをご理解いただけたかと思います。つまり、貸借対照表は重要なメモ帳と考えることができます。

貸借対照表で特に難しいのは純資産(資本)という概念と損益計算書との関係です。これにつ
いて、簡潔明瞭な説明はなかなかできません。専門家やベテラン経理担当者にすれば常識で
すが、世間一般からすれば特殊です。すぐさま理解できないからといって悲観する必要はあり
ません。徐々に慣れてきて、やがては常識として理解できます。まずは、発生主義による正確
な損益計算書を作成することです。
貸借対照表(バランスシート)の意味するもの
一定時点(月末や事業年度末)において右側(貸方)が資産の調達源泉である負債や純資産 (資本)を、左側(借方)が具体的な運用形態である資産を意味します。会社設立時は右側が 資本金で左側が預金です。初年度が終了すると左右とも変化します。当初の資産である預金 は様々な名目の資産に変化しています。車輌、事務所の保証金、売掛金と様々です。資本金 の下部に当期利益あるいは損失が記入されています。これは一事業年度の企業活動で利益 あるいは損失が生じ資産に増減が生じたためです。この当期利益あるいは損失は損益計算 書の金額と一致します。なお、銀行から融資を受け年度末に未返済額がある場合は負債として計上されます。負債も資産の調達源泉ですが純資産(資本)と違って返済が必要です。「自己資本」である資本と区分する意味で「他人資本」と呼びます。
《純資産》
2006年の会社法改正に伴い決算書の様式が大きく変わりました。特に大きく変わったのは 貸借対照表で、従来の「資本の部」を「純資産の部」と呼ぶようになりました。資本とは「資産- 負債」であり正味の資産であるので従来から「純資産」と呼ばれていることもありました。 「純資産の部」は下記のとおりに細分されます。
(1)株主資本
●資本金
●新株式申込証拠金
●資本剰余金(資本準備金、その他資本剰余金)
●利益剰余金(利益準備金、その他利益剰余金、○○積立金、繰越利益剰余金)
●自己株式申込証拠金
●自己株式(マイナス項目)
(2)評価・換算差額等
●その他有価証券評価差額金
●繰延ヘッジ損益
●土地再評価差額金
(3)新株予約権
株主資本(株主の持分)は純資産の一部ということなのでしょうか?株主資本は、株主が出資 した資金(資本金+資本剰余金)とそれにより稼いだ部分(利益剰余金)となっています。未実 現の利益(評価・換算差額等)は株主資本ではありません。
《調達源泉と運用形態》
大変奇妙な言葉です。負債や純資産(資本)が調達源泉であることは何とか理解できます。借 入金(負債)と資本金(株主の出資)はまさに事業資金の調達です。商品代金の未払いである 買掛金(負債)は、商品の支払代金を猶予(融通)してもらっていますのでこれも資金調達と考 えることができます。問題は資産がなぜ運用を意味するのかということです。 株主の出資や借入金の当初の姿は現金か預金です。これをそのままにしておいては利益を 生みません。そこで、材料の購入、設備投資などに投下しなければならないのです。そう考え れば、資産に材料(棚卸資産)や設備(建物や機械)が含まれることの意味が理解できます。 また、いまだ運用していない資金が現金や預金として残るのも理解できます。 しかし、資産の多くを占める売上代金の未回収分(売掛金)を運用と考えるのは抵抗がありま す。これを運用と理解するには次のように考えなければなりません。調達された資金は材料や 設備に投下されます。その後、材料は製品に姿を変え、設備は製造の過程で消耗します。こ れを一定時点でとらえると(貸借対照表は点の概念です)、調達された資金の運用先は、販売代金として回収された現金、未回収の売上代金、未消費の材料と設備に分かれるということで す。さらに、販売代金として回収された現金と未回収の売上代金には、材料代や設備投資額 に利益が付加されていることから、当初運用金額よりも増殖していることをご理解いただける かと思います(減少している場合は損失です)。

《企業とは?》
様々な定義が考えられますが、会計における企業という概念はいたって簡単です。それは、次
のような活動を繰り返す存在です。 (1)資金調達→(2)財貨・用役を生み出すための資金投下(調達資金の流出)→(3)財貨・用役の販売→(4)投下資金の回収→(5)資金の再投下貸借対照表と損益計算書はこのプロセスの表現にほかなりません。(1)は貸借対照表の負債と純資産(資本)です。(2)は貸借対照表の棚卸資産や設備です。(3)は貸借対照表の売掛金です。(4)は貸借対照表の現金と預金です。(2)は損益計算書の費用でもあります。(3)は損益計算書の収益でもあります。貸借対照表は上記のプロセスの点(特定日)を、損益計算書は線(一定期間)を表わします。ただし、人為的に区切る一会計期間で考えた場合、始点と終点を捉えなければなりません。その際(2)と(3)のプロセスの処理が厄介です。(2)については消費の有無の検討、(3)については現金化する可能性の検討をしなければなりません。これが会計基準であり、その大原則が発生主義です。
2.バランスシート(貸借対照表)調整
「企業規模に応じたバランスシートへの調整」ということがいわれます。売上高が全盛期の半分 に減っているのに資産や負債が不変では、各年度に生じる利益で固定資産の償却や借入金の返済負担に耐ことはできません。設備投資(建物や工場設備)や運転資金(仕入や諸経費の払い)の大半を銀行融資に頼っており、収益が縮小し回復の見込みがない場合は、銀行融資の返済財源を確保するために遊休土地、長期保有目的の有価証券など過去の蓄積を処分するのが通常です。このように貸借対照表の諸項目が変動するプロセスを、バランスシート(貸借対照表)調整といいます。
3.資産とは
一般に資産といえば現金、預金、有価証券、不動産など金銭的価値があるものを意味します。会計においてもこれらは資産ですが、このほか売上代金の未入金分(売掛金)や支払った費用の内翌事業年度以降に繰り越されるもの(前払費用、有形固定資産)も含まれます。これは、現行会計が発生主義会計を採用しており収益や費用を入出金にかかわらず把握することによります。
4.現金と預金
何も説明は要しないかもしれません。しかし、金銭管理がずさんな場合は帳簿から導き出された現金残高が異常な数値となります。日常の経理処理の不始末がこの勘定科目に最も端的に表われます。現金残高が異常ならば決算は終了していないと考えなければなりません。現金残高が異常に多い場合は費用や資産購入の記帳漏れ、異常に少ない場合(物理的にはありえませんがマイナスの場合)は収益の記帳漏れが考えられます。
5.売上債権
売掛金(売上代金の未入金分)と受取手形がこれに該当します。たとえ未入金であっても、すでに販売(納品、サービス提供など)が終了している以上は損益計算書で売上高に計上しなければならないことにより発生します。なお、後に入金が不可能となった売上債権は貸倒損失(かしだおれそんしつ)として費用処理することで、すでに計上した売上を取り消します。得意先の経営状態が悪化し入金期日が長くなり始めると、期末売上債権金額と当期売上高の比率が上昇します。当然好ましいことではありませんが、数期間の決算書を比較すればこの傾向は顕著に表れます。
6.棚卸資産(いわゆる在庫)
仕入商品、自社製造製品、原材料がこれに該当します。これらは販売するまでは売上原価とはなりませんので、年度末に残っているものは棚卸資産として当期の仕入高から差し引くとともに、翌年度以降の費用化に備えて貸借対照表に計上しておきます。
小売業、卸売業など在庫を多く保有する業種では棚卸資産の金額が決算数値に多額の影響を及ぼします。在庫の評価(各棚卸資産1個当りの金額)次第で、棚卸資産の総額は大きく変動してきます。また、不良在庫を数量に含めるかどうかでも金額が変動してきます。売れ残り在庫が増加すると、期末棚卸金額と当期仕入高との比率が上昇します。当然好ましいことではありませんが、第三者が決算分析すればこの傾向は明らかです。
7.有形固定資産
長期にわたり利用される資産で、建物、機械、車輌、備品などがこれに該当し、一定期間にわたる減価償却という手続を経て費用となります。長期間利用するので数事業年度に費用配分するのは当然ですが、一般に利用されている税法が定める「耐用年数」(減価償却する期間)が現実と乖離していることが多く、減価償却費控除後の帳簿価額で売却不能であることから資産と考えるには抵抗があるかもしれません。 なお、業績不振で減価償却をしていない企業がありますが収益力の乏しさを物語っています。収益を生み出すために投資したのにそれを回収できる収益力がないからです。なお、土地も典型的な有形固定資産です。しかし、建物、機械などのように減価償却の対象とはなりません。消耗しないからです。土地の貸借対象計上額は取得価額(買値)です。バブル崩壊までは時価がこれを上回っているのが普通でしたが、現在ではそうとは限りません。
8.その他の資産
(1)仮払金
旅費や交通費の先渡し分です。基本的には費用として消滅するものですので決算時になっても多額の仮払金があることは好ましくありません。
(2)有価証券
株式、社債などをいいます。計上は取得価額(買値)で行いますが、年度末には区分に応じてあるものは取得価額のまま、あるものは時価で評価し評価損益を認識します。
(3)保証金
事務所や倉庫の賃貸借契約をすると家賃の数か月分の保証金を要求されます。一定期間を経過してから賃貸借契約を解除すると全額に近い金額が返還されます。その意味で資産としての理解もすんなりできます。
(4)保険積立金
貯蓄性のある保険契約の保険料は費用処理するのではなく、この勘定科目に計上しなければなりません。しかし、保険積立金が解約返戻金と一致するとは限りません。
(5)無形固定資産
特許権、商標権、ソフトウェアなどの取得価額がこれに該当します。経済のソフト化が進んだ昨今では、設備(有形固定資産)以上にウエイトの高い資産かもしれません。無形固定資産は場合によっては支出の数百倍の収益を生みます。
9.負債とは
一般に負債といえば法律的に債務として確定した「借金(金融機関からの融資)」が思い浮かびます。また、仕入や諸経費を発生主義に基づき計上するための仕入債務や未払金も負債の多くを占めます。仕入債務や未払金は支払期日が到来していませんが、債務としては確定しているので負債となるのは当然です。 会計における負債は、法律的に債務が確定しているもの以外も含まれます。将来確実に見込まれる費用(貸倒、退職金、修繕費など)の当事業年度までの負担分、いわゆる引当金も負債となります。中小零細企業で引当金を設定する例はあまりありません。その計算が煩雑なことと前提となる事象自体があまりないからです。また、引当金を設定しなくても税法上は問題ありません。
10.借入金
金融機関からの融資がこれに該当します。この金額について会計的解釈が入り込む余地はほとんど無く、真実をありのまま記載する以外ありません。資産の預金と同じです。ただし、債務免除が行われた場合は、債務免除相当額の借入金を消滅させるとともに、同額の債務免除益を損益計算書に計上することになります。
11.仕入債務
法的に支払義務が確定している負債ですが、仕入計上基準次第で金額が変動してきます。合理的な仕入計上基準を選択し毎期継続しなければなりません。仕入債務の支払遅延が恒常化してくると、仕入債務と仕入高の比率が上昇します。当然好ましくありません。
12.未払金
仕入債務と会計的性質は同じですが、その発生原因が仕入活動以外であるという違いがあります。例としては、諸経費(人件費、家賃など)や設備購入に関するものがあります。
13.未払法人税等(法人税、住民税、事業税)
納税義務が確定するのは決算期末より2ヶ月後の申告期限ですが、発生主義に基づき年度 末に未払計上します。
14.その他の負債
(1)前受金
得意先から販売代金を販売(引渡し)が終了する以前に受取った場合は、売上計上するに先立ちこの勘定科目で処理します。そして、販売後に同勘定科目を取り消して売上計上します。前受金は、販売できない場合は得意先に返金しなければなりません。法的性質は様々でしょうが、会計的には負債です。
(2)預り金
従業員からの源泉所得税、住民税、社会保険料の預かり分で、未だ納付期限が到来していない部分です。各役所に納付する義務は会社にあります。やはり負債です。
15.資本金と純資産(資本)
資本金は、株主から出資された金額です。登記事項とされ、設立時以降法定の増減資手続(法務局での登記)がない限り金額は変動しません。いわば、資本金は過去の出資の記録です。純資産(資本)は、一定時点で「資産-負債=純資産(資本金+累積利益)」として計算されます。企業活動にともない変動します。
純資産(資本)の純増減は「利益」です。設立時資本金と途中増減資金額に創業時からの累計利益を加減算したものが純資産(資本)です。なお、資本準備金は出資金額のうち資本金に組み入れなかった部分をいい、利益準備金は累積利益の中から配当に備えて一定金額まで積立が強制されているものですが、中小零細企業の貸借対照表にこれらが表われることはあまりありません。
16.流動と固定とは
貸借対照表の資産や負債を記載するにあたってのルールです。流動と固定を区分し、通常は資産・負債とも流動を上に記載します。なお、流動とは決算期末から数えて「一年以内」あるいは「正常な営業サイクル内(商品の購入から販売までのサイクル)」に、資産ならば資金化する、負債ならば支払義務が到来するという意味です。しかし、流動と固定を厳密に区分することが実務上困難な場合があります。
17.債務超過
貸借対照表で、左側の資産よりも右側の負債(債務)が多く差し引きしての純資産(資本)がマイナスの状態をいいます(資本金はマイナスにはなりません)。このような会社は、資産の調達源泉である負債や純資産(資本)の活用にことごとく失敗し、資産を消耗しきっています。
多額の負債を抱え、預金は当然として、有価証券や土地などの換金性のある資産は既に使い 果たし、回収可能性の乏しい売上債権、販売可能性の乏しい棚卸資産、物理的・機能的価値を失った設備しか資産として保有していない場合は、たとえ決算数値が債務超過でなくとも第三者は事実上債務超過と判断します。
18.好財務内容(健全財務)
資産-負債(他人資本)が出資金額である資本金よりもはるかに多く(累積利益が多い)、資産に対する純資産(資本、自己資本)の比率が高い状態をいいます。資産の増加、負債の減少をもたらすのは利益です。利益は最終的にはキャッシュ(現金・預金)となります。これが資産となるとともに他人資本である負債の返済を可能とします。キャッシュは企業活動の源泉です。さらなる利益を生み出します。しかし、新たな利益獲得手段を失った企業は、特定時点でどんなに自己資本が充実していようが、やがては資産を消耗し自己資本が減少していきます。
好財務内容とは、特定時点で多くの純資産(資本)を保有していることだけではなく、永続的な収益力のある企業体質にほかなりません。企業の純資産(資本)は有効に活用してこそ意味があるのです。
また、17の債務超過も特定時点の状態に過ぎません。特に、中小零細企業の場合役員一族からの借入が多額である、取れもしない多額の役員給与が計上されていることがあります。小零細企業ゆえに可能な、また必要な債務超過もあるのです(注1)。融資の条件として「3期間連続経常黒字」「債務超過でないこと」を掲げ、中小零細企業を「赤字決算恐怖症」に落とし入れ、余分な税金を納税させておきながら融資の審査を厳格にし、さらには公的資金=税金の注入を受けて立ち直った金融機関に対してはある種の憤りを感じます(注2)。