1 Bに原告適格が認められるには、Bが「法律上の利益を有する者」であることを要する(行政事件訴訟法(以下、「行訴法」)9)

 取消訴訟が自己の法律上の利益を守るための主観訴訟であることに鑑みれば、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのあるものをいうと解する。

 そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益も法律上保護された利益に当たると解する。その際には、92項に掲げる判断要素を勘案することになる。

2(1) 良好な住環境の確保という利益について検討する。都計法3319号では、「開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため」とあり、開発許可が下された場合に住環境が悪化されることを防ぐ趣旨が読み取れる。もっとも、当該規定は「政令で定める規模以上の開発行為」について定めたものであり、一定の規模以下の開発行為の場合には、良好な住環境の下で暮らす利益を一般的公益としても保護していないと考えられる。そして、その規模は1ヘクタールを基準としており(都計法施行令23条の3本文)、本件マンションが6300㎡である。したがって、本件事情の下では、良好な住環境の確保という利益を、一般的公益としても保護していない。

 かりに、条例により、指定された規模を0.3ヘクタールまで下げることが可能(都計法施行令23条の3但書)であり、それにより、都計法3319号の規定が適用される場合であれば、良好な住環境の確保という利益を一般的公益として保護していると考えられる。しかし、良好な住環境たる利益は、当該開発行為によって不利益が及ぶ範囲が不明確であり、生命・身体・財産等の具体的利益とは性質が異なる抽象的な利益である。そして、都計法及び関係法令に、こうした利益を保護していると解される手掛かりはない。したがって、良好な住環境の確保という利益は、個別的利益として保護していない。

 よって、かかる利益から、原告適格があるとすることはできない。

(2) 交通事故を防止する利益について検討する。都計法3312号柱書に「通行の安全上」という文言があるが、これは、開発区域内についての規定であり、このことをもって、開発区域外の通行の安全を保護しようとする趣旨を読み取ることはできない。もっとも、都計法施行令251号に「開発区域外にある道路……の機能が有効に発揮されるように設計」とあり、また、同条4号に開発区域内と開発区域外に接触する道路の幅員を9メートル確保することを要求していることからすれば、開発区域外の交通事故を防止する利益を一般的公益として保護していると考えられる。

 交通事故が発生した場合には、生命・身体といった重要な利益が侵害される。そのため、利益の内容、性質から考慮すれば、個々人の個別的利益として保護しているようにも思える。しかし、開発許可によって直接的に交通事故が生じるものではなく、侵害の態様として、違法な開発許可が交通事故を防止する利益を侵害していると見るのは無理がある

 したがって、都計法及び関連する法令は、交通事故を防止する利益を個々人の個別的利益として保護していない。

(3) 緊急自動車の円滑な侵入を確保する利益について検討する。都計法3312号は「道路、公園、広場その他の公共の用に供する空き地が……災害の防止上……支障がないような規模及び構造で適当に配置され」ることを求めている。また、その際には「開発区域の……周辺の状況」を勘案しなければならない(都計法3312号イ)。そして、この考慮要素の技術的細目を施行令に委任し(同法同条2)、上述したように、開発区域内外の接触する道路の幅員を規定している。そうすると、法は、緊急自動車の円滑な侵入を確保する利益を一般的公益として保護しようとしていることが読み取れる。そして、開発区域内で火災等の災害が発生すれば、開発区域外にも影響が及ぶことは明らかであるので、開発区域外の当該利益も保護していると考えられる。

 そして、違法な開発許可がなされた場合に、侵害される利益は、人の生命・身体等という、重要な具体的利益である。侵害の態様、程度については、違法な開発許可は、災害が発生した場合に人命を救助することができない状態に置くのであるから、大きいものであるいえる。

 よって、当該利益について、法は、個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含むといえる。

3 これらのことから、Xは法律上の利益を有する者であると言えるため、原告適格を有する。