あのさぁ君、君がどんな風に考えようと、君が君のその人生から逃げ出す事はできないのだよ、一生。
自分の人生を不幸と思うかラッキーと思うか、それは単なる捉え方、認識の魔術に過ぎないし、良いも悪いも私にはよくわかりませんが、誰にもよくわからないものだと信じていますが、思うのが自由な代わりに「あんた損をしているよ」という忠言は甘んじて受けなければ不可ませんよ。
忠言を受けておきながらそのままでいるのは、貴族かばかかのどちらかです。
あなたはいつか光り輝く華となる事を夢見ていて、それは見ていて恥ずかしいほどわかるのだけど、なんか何処で咲くつもりなのですか。それは何処の宇宙の話ですか。

逃げ場はない、なんて、なんて、まあなんて事なのでしょうね。

私だって逃げたいよぅ。
あーあ、なんで貴族じゃなかったんだろう。
ね。
卵、といったのは、私自身の事ではなかったのかもしれない、私の抱き抱える是れ、是れが本当に孵るのやら有精なのやら無精なのやら、そもそも本当に卵なのやら、わからないけれど私が放棄すれば是れ、は確実に死ぬわけで、いやそもそも生きているのかしらと思い始めるとうっかり私そのものの生命が脅かされる気がして、疑念を噛み砕いてただただ暖める。暖めている。そういう意味での、卵なのです。

そういや、エコーズもはじめは卵でしたよねぇ。
強い意志、「こうする!」という強い意志。
あれもやりたい。これもやりたい。
けれどあれをやらねばならないし、これもやらねばならない。

あれをやる為にこれをやりましょう。
これをやり終えたら、あれをする事ができる。

そうだ、今夜はあれをやります。
それはきっと必要な覚悟です。
あの子とのお別れの時には、
あの本を贈ろう、と決めています。

希望がほんの少し遣る瀬無さを孕んで、
旅立ちにはおあつらえ向きだと思うのです。

可愛いブックカバーに包んで、
お手紙を添えてさ。
ちょっと、長くなるかも。
ちょっと、じゃ済まないかも。

旅立ちの持つ後ろ暗さや不安は
全て見ないことにして、
綺麗な言葉だけを並べたてて。
何も見る必要はないのです。
現実が立ちはだかって邪魔をするなら、
現実の中で夢を見ればいいのです。


C、もう少しでさよなら。
お別れが寂しいだなんて、そんな馬鹿な話。

私、仕事から離れてあなたと話せるのが
楽しみで仕方がないの。

お別れしたらやっと、
お友達になれるかしら。


わくわく。
旅立ちは、こうでなくっちゃあ。
物語とは、宙から湧いて降ってくるものかもしれない。
と思って、窓をじっと見張っているのです。
特にこんな、寒さが時間を凍り付かせるような日は。凝結を溶かそうとする陽は、もう死んだよ。あとはもう生まれ落ち、遣る瀬ない産声を上げるのを待つのみ。
もう在るはずである。
今にも宙からぽろりと落下するはずである。

ねえあなた、物語を見ませんでしたか?
今日の宙のような色をした、透明で、やわらかく、すべすべとした、光輝くような、それでいて陰欝な嘘の匂いのする、私の物語。

今日みたいな日には、物語が宙から降ってくるはず。
そのはずなのです。