昨日の続きからー
第五章
律の家に入ると、
案の定玄関からして綺麗だった
入ってすぐのトコロには、オレンジと蒼の光を放つ、
幾つかに電球が別れたモノが辺りを照らしていた
「誰も居ないの?」
玄関口に置いてある靴の少なさに、両親は居ないのだろうかと思った
「いや、多分兄が帰ってきてる筈だけど・・・」
「両親は?」
つい、『お邪魔します』の声を忘れて
玄関に靴を整えて家に脚を踏み入れる
「嗚呼、僕の親さ、海外・・・なんとか協力隊?
みたいなのが仕事でさ、いっつも仕事で海外行ってるんだ。
それで今回の仕事は長期の中の長期、って言ってたよ。」
律は早口でそう言うと
二階へと僕を案内した
「へぇ・・・。
なんか色々大変そうだね。」
「別にそうでもないよ。
それにもう慣れたしね。寧ろ今頃普通に両親と生活しろ、
なんていう方が気が重いよ。」
ケラケラと笑いながら、
律はドア前までくる
「・・・、お兄さん、居たんだ?」
いきなり話を変えられ、律は少しむっとしたようにしたが
すぐに兄の部屋を指差した
「うん。今は大学生なんだけど。
サークルとか入ってないから帰りが早いんだ。」
それだけ言うと、律は部屋のドアを開けた
「入って。汚いけど・・・なんて定番だからよしておくよ。
第一僕の部屋はもともと綺麗だからね。」
律らしい、そう思って僕はクスっと笑った
「本当、嫌味なくらい綺麗だよ。
・・・、早く勉強終わらせない?僕、もう帰りたいんだ。
僕ら勝負してるのに、相手に有利なコトしても
どうにもならないもん。」
僕はそう言って、テーブルの一角に腰を下ろした
すると律はあからさまに面倒臭そうな顔をしたが
僕の正面に静かに座った
第六章
「だから、違うってば。
それは1936年でしょ?
なんでいきなりそんなに遡るのさ。」
内心冗談だろうと思って来てみたが
律は予想以上に歴史や地理が苦手だった
「ねぇ、ちゃんと僕の話聞いてる?」
「聞いてるよッ、でも分かんないのー。」
律は持っていたシャーペンを投げ出し
後ろに倒れこんだ
「ほーら、勉強は?」
「何、美槻は僕にちょっとした休息も与えない気かい?」
律は怪訝そうな顔を僕に向ける
それと同時に、ドアがいきなり開かれ、一瞬ちょっとびっくりした
「あれ?なんだ、友達が来ていたんですか。」
そう言って入ってきたのは、律にそっくりな人だった
漆黒の髪に、真っ黒な瞳
背が、人並みよりもちょっと大きくて
声のトーンも似ているモノがある
「君が美槻くんですか?
律から聞いているんですよ、黒髪の美人さんが居る、って。」
律にそっくりな人は、そう言って笑った
「・・・、はぁ」
僕は何がなんだか分からなくて、曖昧な返事を漏らした
「嗚呼、僕はね、律の兄なんです。
東、っていいます。宜しく」
そしてまたも綺麗な笑みを浮かべた
「ぇ・・・、ああ、宜しく。」
僕はよく理解出来ないまま、不躾な笑みを浮かべる
「ねぇちょっと、勝手に入って来ないでよ。
何、なんか用?」
律は兄、東さんにそう言った
「勝手に入るな、だなんて今更でしょう?
・・・、この間律に貸した事典がまだ返ってこないんですよ。
あれがなくちゃ課題が出来ませんからでね。
取りに来ただけですよ。」
「・・・ぇ・・・、嗚呼、うん、アレね。
御免、忘れてたよ。多分机の上だから。」
律は綺麗に片付いた自分の机の上を指差した
「分かりましたよ。
嗚呼、美槻くん、どうぞごゆっくり。」
東さんは机の上に置いてあった
東さん自身の事典なのだろう、『英和』と書かれた
本を片手に部屋を出て行った
「・・・、そっくりだね。」
僕は律に小さな声で言った
「嗚呼、よく言われるよ。」
律は小さく笑った
「あ、ねぇ、
東さんってさ、いっつも敬語使ってるの?
だって律って弟でしょ?それなのに・・・
ありえないよ。」
「そういえばいつも敬語使ってるね。
今更過ぎて考えたコトもなかったよ。
けど、あれでもね、
結構、っていうかすっごい毒舌。
ほら、S属性なんだよ。敬語ですっごい攻めてくる。」
律はそう言って、唇を尖らせてみせた
「へぇ・・・。
そうには見えないけどな。」
「あの容姿と外見の人柄に騙された女なんて
それこそ星の数。」
小さく舌を出した律は、なんだか幼い子みたいで可愛く見えた
「騙された?え、女遊び激しいの?」
僕は少し驚いたようにして聞き返した
「別に、僕の兄が遊んでるんじゃないよ。
ただ、女が勝手に寄ってって、そんで勝手に
裏切られたとか思ってるだけ。」
何食わぬ顔をして、さらっと律は言う
その様子が、兄の肩を持つようで、
すごく仲が良いのだろうと思った
「けど、女子が騒ぐのは分かるよ。
だってすっごく綺麗な人だったもん。」
僕は、先ほど東さんが出て行った扉を見つめる
「当たり前でしょ。
僕の兄貴なんだから。」
そう言って律は自慢げに笑った
第七章
その日は結局、
律があまり歴史を理解できていないまま帰るコトにした
「今日、塾なんだ。
だからもう帰らないと。」
僕はそう言って、静かに立ち上がった
「え、美槻って塾行ってたの?
嗚呼、だからそんなに頭良いのか。」
実際、僕は前にも書いたとおり、
塾なんてモノには行ってない
ただ帰る為の口実だった
僕が何故こんなに帰りたがるのか、
理由は至ってシンプル
勉強が面倒だからだ
でも、テスト前は一応復習くらいはしておく
それでいて学年トップなんだから、
テスト何ヶ月か前から猛勉強をしている者達にとって
僕の立場は恨めしいんだろうと、時々思う
「そっか。折角今日、泊まっていってもらおうと思ってたのに。
それじゃぁ仕方ないや。じゃぁまた今度ね。」
律は、名残惜しそうにしたが、
すぐに笑って、僕をまた玄関まで案内した
帰る時、送っていこうか?と聞かれたが
それは丁重に断っておいた
それからは、
学校帰りに律の家によるコトが多くなった
テスト前日、僕はいつも通り律の家に行った
家に行くと、かならず東さんが居て、とても優しく接してくれる
だが、時折見せる東さんの本性も、僕からすれば大好きだった
普段は優しくて何でも出来るお兄さん系なのだが、
一度気に障るようなコトを言えば、いくら弟の友達でさえも
ねちっこく、まさにその名の通り、
『敬語攻め』が始まる
そんな部分も良いと思っていた
「美槻って、僕の兄貴に随分懐いてるよね。」
数学の勉強をしている途中、いきなり律が口を開いた
「え、・・・嗚呼、東さん?
だって格好良いじゃん。」
そう言ってやると、律はふて腐れたような顔をした
「あ、もしかして律、嫉妬してるんだ?」
僕はくすっと笑って律を軽く小突いた
「せーかい。どうせ嫉妬してるよ。
だから僕の大好きなおにいちゃんとらないでね。」
律は、子供っぽい笑顔を浮かべてそう言った
僕からみていても、律と東さんは相当仲が良さそうと見えた
いや、『良さそう』ではなく『良い』んだろう
律も東さんが好きだし、東さんも律が好き、っていう感じ
その日も、やはり
あまり勉強の捗らないまま帰るコトになった
そして次の日は
勿論テスト
僕も律も気合は入っている
何故なら、僕らは公園で勝負していたのだから
『負けたら、勝った人の言うコトを何でも聞く』
これが条件だった
僕は律のコトが大好きだけど、
そんな律の我侭をなんでも聞くとなると話は別
第一、僕は人に縛られるのが大嫌いだった
僕はそれなりの自信はあったし、
それなりの努力も多分した
『負けるわけない』
そう思ってひっくり返した答案用紙
僕と律はほぼ同時にシャーペンを握った
第八章
テストが終わり、何日か過ぎた日
テスト順位発表
結果は
一番上は僕、藤原美槻
二番目は律、宮崎律
のはずだった
ところが、廊下に張り出されたモノを見ると
一位 宮崎 律
二位 藤原 美槻
となっていた
僕が二位
律が一位
僕が律に負けた?
唖然となって見ていると
いきなり後ろから声がした
「僕の勝ち」
勿論それは律の声
振り返れば、勝ち誇ったような笑み
僕はふっと笑った
「律、聞いたよ。
歴史のテスト、満点だったんだってね。」
今日の朝、クラスメイトが偶然話してるのを聞いた
一人だけ、歴史のテストで満点だった人が居る、って
それが憎らしいコトに、僕の目の前に居る
律君ってわけだ
あんだけ苦手だって言ってたのに
まんまと騙された
「ごめんね、嘘吐いて。
だけどさ、それ以上に、美槻に一つだけ僕の我侭、
聞いて欲しかったんだ。」
律はそう言ってまた、いつものような笑顔を浮かべた
「僕と恋人ゲームしようよ。」
冗談抜きで、顎が外れるかと思った
いきなり、何を言い出すんだ
「恋人、ゲーム?」
意味が分からず僕は首を傾げた
「そう、ルールは簡単だよ。
僕たちが恋人関係になる。それだけ」
律はまたもそう言って笑った
「それじゃぁゲームじゃないじゃん。」
僕は怪訝そうな表情を浮かべた
「嗚呼、そう?
じゃぁ、美槻は今日から僕の恋人。
これでいい?」
「・・・それがどうしても聞いて欲しかった我侭?」
「そうだよ。
だって僕は美槻が好きだしね。」
益々僕は、律という人間が分からなくなっていった
「男に二言はないよね?みーっずき。」
律はそう言うと、楽しそうに笑った
第九章
休み時間と同時に、僕のすぐ傍に来る子
律
恋人関係とやらになってから、
僕ら、いつも異常なくらい一緒に居る
周りからも、ヘンな目で見られてるくらいだ
ほら、だって僕らは二人とも美人さんだから←
だから僕が律の家に行く回数だって増えた
暇さえあれば律の家にお邪魔している
第一、僕の家に居るより、東さんだって居る律の家に居た方が
断然良かった
「嗚呼、また来ていたんですか、美槻くん。」
玄関に脚を踏み入れると、真っ黒なエプロンをつけた東さんが居た
「お邪魔しまーす。・・・、料理中、デスカ?」
僕は東さんに問い掛ける
すると東さんはにっこり笑って頷いた
「へぇ、料理とかもするんだ。」
僕は正直関心してる
だって律はそういうの、何もしないから
「あ、兄ちゃん、あんま僕の美槻にベタベタしないでよ。」
隣から、律が唇を尖らせて言ってくる
そんな律の様子を見て、東さんは声を小さくして僕に言った
「律は、見たとおり独占欲の強い御馬鹿さんですから。
嫉妬してるんですよ、愛想尽きないで下さいね。」
東さんはそう言ってくすっと笑うと、キッチンの方へ行ってしまった
「ねぇ、兄貴、何て言ってたの?」
律は東さんが行ったのを確認すると、僕に聞いてきた
「べーつに、特に何も言ってなかったよ。
勉強頑張って下さいね、だって。」
律はあからさまに不機嫌な顔を見せた後、ふぅんと頷いた
あれから何ヶ月か経って
僕らは今だ仲が良い
だって恋人だから
あのときは、ちょっぴしふざけも入ってた
だって同姓だったから
けどね、今は本気
本当に律が好き
だから、このまま続くと思ってた、
なんて展開、ベタでしょう?
『思ってた』、なんて過去形に書くと、
これから二人の間に、なにか悲劇が起こるみたい
だったら、
『二人は、いつまでも幸せでした』、でいいのに・・・
けど、やっぱそうともいかないよね
本当、馬鹿みたいな展開
ベタな展開
ありきたりな展開
分かりきった展開
でも、それでもちょっと違う展開
ただの携帯小説みたいに、薄っぺらくないの、
貴方は、何か、分かりますか?
僕たちの間で起こった、悲惨な結果
展開はえぇなおい、