吐き出す息が白い。俺の住んでいるところではあまり雪がふらない代わりに風が強い。日中は日光のおかげで過ごしやすいが、朝7時前の駅ともなればそれなりに冷える。
(コーヒー、コーヒーっと)
かじかむ手で自販機から缶コーヒーを買い、手を暖めてからタブを開ける。
「ふう」
一口飲んで息をつく。すると、すぐに電車がホームに入ってくる。
(やっぱりこの時間は空いてるな)
コーヒー片手に乗車し、単語帳を取り出す。
(朝練する分、勉強しなくちゃね)
彼の高校では毎月考査があり、一週間前から部活禁止になってしまう。朝練をする生徒が増えるのは必然であった。
乗車してから、ふた駅ほど過ぎた頃、見知った人が乗ってきた。
(・・・なんであのひとがこんな時間帯にいるんだ?)
彼女の名前は白石 愛華。二年生で弓道部の先輩だ。整った容姿、きれいな黒髪にピンと伸びた背筋のおかげで清楚なお嬢様に見えるが、実際は好奇心旺盛でいたずら好きだ。
何かと絡んでくるので苦手だ。
生憎同じ車両には数人しかいない。彼女が少しでも視線を動かせば見つかってしまう。
(見つかりませんように)
そーっと単語帳をしまい、目をつむる。半ば祈るような気持ちで、残りの駅を数える。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン
静かな車両内でやけに音が耳に響く。
(あ、あと三駅・・)
「ねえ」
「っ!」
(もしかしなくても・・・)
恐る恐る目を開けてみると、そこには新しいおもちゃを買ってもらったような顔をした彼女がいた。
「ねえ、なんでこんな時間に登校してるの?」
(み、見つかったあ~~。よりによってこの人に)
「おはようございます。先輩」
無駄とは知りつつ、話を逸らしにかかる。
「うん、おはよう、如月くん。隣いいかな?」
「ええ、どうぞ」
「それでさ、」
彼女は隣に腰掛けると、すぐに聞いてきた。
「なんでこんなに早く登校してるの?」
(それはこっちのせりふですよ、先輩)
「えっと・・・」
「ごまかさないでね?」
(み、見抜かれてる・・)
「はあ…。朝練ですよ」
「朝練?」
「朝練」
「なんの?」
「弓道の」
「・・そんなに言いにくいこと?」
「自分からバラそうとは思いませんね」
「ふ~ん」
二人の間に沈黙が落ちる。彼女は髪を弄りながら何か考えているようだ。
「よし」
「よし?」
「私も朝練に行く」
「えっ? いや、何でそうなるんですか?」
「ん~、なんか気になったから」
10月31日、ハロウィン。俺はお菓子の通じない、いたずら好きに会った。
※読んでいただきありがとうございました。10月31日版は4,5話ぐらいになるかと思います。
これからもよろしくお願いします(^^)