序章:エプスタインが消えた後も動き続ける「見えない帝国」の全貌
⚠ 本連載は複数の調査報道記事の論点を整理・解説したものです。一部の主張は著者の解釈・分析・推論であり、公式に確定された事実とは区別してお読みください
一人の、すでに死んだ男が、「亡霊」として今も世界を動かしている。
高市首相が、在庫が豊富にあると必死に国民を説得しようとしているナフサ、乱高下を続けるガソリン代、崩壊したかのようなドバイ神話、それらすべての事象に現れては消える亡霊。
しかし「幽霊の正体を見たり枯れ尾花」と言うが、エプスタインを動かしていたシステムはむしろ、現実に存在するシステムとして機能し、今この瞬間も、刻一刻と力を蓄えて成長しているとしたら?
あなたはその正体を知りたいと思うだろうか。
2019年8月10日、ジェフリー・エプスタインは連邦拘置所の独房で死亡した。
世界は「終わった」と思った。性的犯罪者が裁きを逃れ、被害者たちは正義を失い、世紀のスキャンダルは唐突な終わりを迎えた、と。
しかし、それは本のトカゲの尻尾きりだった。
エプスタインが構築してきたシステムは、より深く、より広く、より合法的な形をまとい、世界の権力構造に根を張り続けている。彼をそもそも権力の中枢に引き込んだ立役者は、今もアメリカの国家権力の中枢部にいる。そのシステムは、国家の制約をくぐりぬける超国家的存在へと進化していっている。
アメリカ合衆国の大統領執務室から、サウジアラビアのソブリンファンドから、ビッグデータのサーベイランス(監視)インフラにいたるまで、情報を収集し、データとAIのプラットフォームを手中におさめ、世界の意思決定に影響をあたえている。
これから数回にわたって掘り下げるのは、四つの柱からなる「見えない帝国」の全貌だ。
第一の柱はピーター・ティール。ティールは、オンライン決済システムのペイパルをマスクと共に創業して巨額の富を築いたビリオネアであり、現副大統領JDヴァンスの育ての親であり、トランプの選挙キャンペーンの一期目からの資金面での最大の支援者として知られる。
一部では「影の大統領」と言われる人物だ。
彼は、実はエプスタインと投資を通じた深い関係がある。エプスタインは、ティールのVCであるヴァラー・ヴェンチャーズに、2015~2019年にかけて計4,000万ドル投資。その送金は、超国家的資金がやり取りされるバージン諸島のペーパーカンパニー経由。そして、エプスタイン死亡時、当初50億円程度だった投資額は、実に250億円規模に膨らんでいることが、ニューヨークタイムズ紙の調査報道で明らかにされている。
その資金は、エプスタインが設立した
「The 1953 Trust」
という信託ファンドに死の2日前に移動させたと見られている。エプスタインの生年月日は
1953年1月20日。
まるで自身の死を予告するかのように、ティールに投資して儲かった資金が、自身の生年を冠した信託に入れられたのは、ある種のダイイングメッセージと言えまいか。そして、VCファンドには、長期のロックアップ期間があるため、この資金はすぐに現金化できないこととなっている。現在、エプスタインによって人身売買や性的虐待の被害にあった被害者たちへの補償のために使われるべきか、法廷で争われている。
Source: "Jeffrey Epstein Invested With Peter Thiel, and His Estate Is Reaping Millions"
著者: Matthew Goldstein(調査報道記者) 掲載日: 2025年6月4日
リンク: 🔗 https://www.nytimes.com/2025/06/04/business/jeffrey-epstein-peter-thiel-estate.html
ピーター・ティールは、パランティアを育て、アメリカ政府全体のみならず、ありとあらゆる情報を監視するオペレーションシステムを作った。彼は、天才的なベンチャーキャピタリストであり、先見の明のある起業家だ。ドイツ生まれ、スタンフォード大学で哲学・法律を学んだ後、1998年にPayPalを共同創業して億万長者となり、2003年にアメリカの情報機関(ちょっと怖いので組織名は伏せるが、検索すればすぐわかるだろう、興味ある方はパランティアの成り立ちをお調べください)の投資部門が出資(ここにティールーエプスタインーアメリカ国家のラインが繋がるリンクとなるバー一族が関わるが、これは後の投稿で言及する)したビッグデータ企業パランティアを設立、2004年にFacebookへの最初の外部投資家となり、その後ヴァラー・ベンチャーズ等を通じて数百社に投資しながら、JDバンス副大統領をはじめとする政治家を育て、トランプ政権に自らのネットワークを深く埋め込んだビリオネアだ。
パランティアは、始まりにもアメリカの情報機関が深く関与しているが、現在もそのビッグデータを活用したサーベイランスシステムは米諜報機関, FBI, 米軍で使用されるだけでなく、各国政府で使用されており、政府・軍・警察の持つあらゆるデータを一か所に集めて、人間の代わりに分析・判断する、民間企業が作った"国家の頭脳"ともいえる存在となっている。
一方、彼は「反キリスト」を信じ、その神学的信念がティールの富と権力への関与の源泉となっているとされている。
第二の柱はバー一族。エプスタインをティーンの頃に見出し、労働者階級出身で何のコネも資本も無かった彼をアメリカ屈指の名門プレップ(私立)スクールのドルトンに教師として登用した校長のドナルド・バーは、米情報機関の前進組織にいたと言われ、息子のウィリアム・バーは、元諜報機関のアナリストで、後に弁護士となり、エプスタインがウォール・ストリートに潜り込む手助けをし、彼のキャリアを守護し、なおかつエプスタインが刑務所で死亡した時のアメリカの司法長官だった。つまり、バー家は、二世代に渡って、エプスタインの帝国の出現に深くかかわった一族。
第三の柱はサウジ皇太子MBSとトランプ大統領の娘婿のクシュナー。エプスタインが2016年からサウジ王室とのコネクションを通じて設計したとされる資金回遊システム:ドルを遣わず石油で決済する仕組みを通して、サウジ、中国、イスラエルを直接繋ぐルート、すなわち、アメリカのドル支配を迂回させるルートは、エプスタインの死後そっくりそのままクシュナーの手に渡ったのではないかと見られている。同じ後援者、同じアクセス、同じ構造。変わったのは表に立つ人の名前だけ。
これらは、エプスタイン文書として、米議会が公開した膨大な情報を精査した調査報道で明らかにされている:
議会の公式ページ:https://www.justice.gov/epstein-files
調査報道:
https://www.middleeasteye.net/news/jeffrey-epstein-saudi-arabia-royal-family-mbs-files
https://www.miamiherald.com/news/local/article287456121.html
第四の柱はトランプ政権。この政権は、上記三つの柱が制度的に完成する「器」として機能している。エプスタイン関連記録の封印、捜査官の解雇、議会への情報開示の阻止——そして、そのエプスタイン疑惑から「目をそらす陽動作戦」として始められた「選択された戦争(War of Choice)」としてのイラン戦争。これらは失策ではなく、精密に設計された戦略的情報戦なのではないか。
つまり、私たちの生活を翻弄しているイラン危機を理解するためには、これらの4つの柱を理解しなければならない。
四つの柱が交差する場所に、民主主義における法的支配の枠組みの外でうごめく「超法規的なソブリン(主権)的存在」がある。エプスタインはその存在の運用者の一人だったとしたら?
(Part 1 ピーター・ティール——「反キリスト」を語る帝国の設計者 投資と神学のはざまで、に続く)
