90年代のポップスはクラブミュージックを積極的に消化していった。マドンナやカイリー・ミノーグがクラブビートをチャートインさせていったし、日本では小室が同じコンセプトでエイベックスを業界ナンバーワンまで押し上げた。

 

 Dee-lite はクラブ側からのポップスへの接近だっただろう。ニューヨークのクラブアクトがレコード会社にピックアップされて全国区になった。日本ではテイ・トウワが参加していたことで 有名かもしれないが、アメリカでは「Groove Is In The Heart」のヒットにより、メジャーグループとして MTV でも大きく扱われた。

 

 デビュー・アルバムの「World Clique」は、サンプリングがたくさん使われた玩具箱のような音楽だった。AKAI のサンプラーの登場とヒップホップの DJ からのインスパイアで、世界中で同じような実験がなされていたんだと思う。日本勢では Fantastic Plastic Machine がこの手法で素晴らしい音楽を作っている。Deee-Lite はハウスをベースにしているが、ファンクのサンプルが多く使われ、Q-Tip がラップしたり(「Groove Is In The Heart」)と、ヒップホップからの影響も強い。「Try Me On... I’m Very You」などは、バックトラックだけを聴くと De La Soul のようである。ジャンルで括るよりも「90 年代初頭のニューヨークの音楽」と言った方がしっくりくるのかもしれない。

 

 打って変わって、この3枚目のアルバムはフロア志向だ。テイ・トウワがほぼ不参加(「Call Me」のみ)であったことの影響が大きいんだと思う。坂本龍一の「Heart Beat」のコンサートを武道館で聴いたときに「これは座って聴くハウスだね」と言って、坂本龍一を信奉する友達を怒らせたことがあるが、いまでも感想は変わらない。テイ・トウワやサトシ・トミイエの作るバックトラックには強いダンス衝動がない。一方、DJ Ani を加えたこのアルバムはドラムサウンドが重厚で、ベースラインもグルーヴィだ。「River of Freedom」が次の曲と繋がっていたり、「Somebody」の最後にテンポチェンジがあったりするところも、フロアの雰囲気があって好きだ。

 

 Chemical Brothers、Fat Boy Slim、Daft Punk などと Deee-Lite を明確に分けているのは、レディ・ミス・キアーの存在だ。ドラァグクイーンのようなファッションセンスやダンス、ビッチな歌詞はとってもキャッチーだ。

 

 

もしもし

あらー

どうしてる?

なんで最近見かけないの?

どこに行ってたのよ?

そう? 電話してよ

いつ?

メッセージは全部聞いてるけど、あなたからのはなかったわ

あなたのくれた番号だけど、間違ってるんじゃない? いつも話し中になってるわよ

キャッチを付けなよ~

いっつも話し中なんだから

ねえ、電話をちょうだい

わかるけど

バッタリ会うことなんてないじゃない

うん

ああ

う~ん

 

 

 こういう人と付き合うのは嫌だけど、外側から見てると面白いのはなぜだろう。タランティーノは黒人の口喧嘩やホワイト・トラッシュの痴話喧嘩を、見事な脚本に仕立てて時代を席巻した。なかでも「デス・プルーフ in グライドハウス」の前半のビッチトークは本当に見事である。なんであんな会話を聞いているのが面白いのか分からないのだけど、見るたびにあのテンポに釘付けになる。パーティ・トークに意味や教訓なんていらない。グルーヴと軽いウィット(とテキーラ)があれば十分だ。