対ロ方針を転換したアメリカ | 『月刊日本』編集部ブログ

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 5月12日、アメリカのケリー国務長官がロシアを訪れ、プーチン大統領とラブロフ外務大臣と会談を行いました。プーチン大統領との会談時間は当初1時間30分とされていましたが、予定をはるかに上回り4時間以上にも及んだそうです(5月13日付『スプートニク』)。

 

 ケリー長官はその後、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならば、その時点で欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示しました(5月13日付『AFPBB NEWS』)。また、「仮に本当にポロシェンコ大統領が今、何らかの軍事作戦を開始する姿勢であるのならば、我々としてはこうした行為を何を持って行うのか、まず考えるよう提案するだろう。なぜならば、そうなればミンスク合意は深刻な脅威にさらされるからだ」と、ウクライナを牽制するかのような発言も行いました(5月13日付『スプートニク』)。

 

 これは要するに、アメリカが、ロシアがクリミアを支配し、ウクライナ東部を緩衝地帯にすることを認めたということです。これにより米ロ関係は改善に向かうでしょう。少なくともこれ以上悪化することはありません。

 

 アメリカが対ロ方針を転換したということは、先に行われた日米首脳会談ならびに日米ガイドラインの改定が、ロシアを対象としたものではなかったということでもあります。もしロシアの封じ込めが目的であったならば、ケリーはプーチンと会談することはなかったでしょうし、プーチンもケリーとの会談を受け入れなかったでしょう。一部では日本の集団的自衛権行使を含む日米防衛協力強化の目的はロシアだといった議論もありましたが、見当違いと言わざるを得ません。

 

 アメリカの方針転換と軌を一にして、日本政府も対ロ方針を転換しつつあります。11日、日ロ両政府が5月後半にも経済分野の次官級協議を開催する方向で調整に入っていることが明らかになりました(5月11日付『東京新聞』)。政治問題ではなく経済問題が議論されることになりますが、プーチン訪日に向けた動きと見て間違いありません。

 

 もっとも、これまでの対ロ制裁の結果、プーチンは日本に対して不信感を抱くようになっています。北方領土のビザなし交流がロシア側からの申し入れによって中止になったのも(5月14日付『時事通信』)、その表れでしょう。安倍政権はあくまでもマイナスからのスタートだということを自覚すべきです。

 

 さて、ケリー長官訪ロの2カ月前の3月10日、鳩山友紀夫元総理がクリミアを訪れました。日本政府やメディアは鳩山氏を強く非難し、アメリカ政府も鳩山氏を名指しで批判しました。しかし、鳩山氏の行動は結果的に日米の対ロ方針転換を先取りするものだったと言えます。

 

 ここでは弊誌5月号に掲載した、鳩山友紀夫元総理のインタビュー記事を紹介したいと思います。(YN)

 


『月刊日本』5月号

鳩山友紀夫「私がクリミアを訪問した理由」より

なぜクリミアを訪問したのか

―― 鳩山さんは3月にクリミアを訪問されました。なぜクリミアを訪問しようと思ったのですか。

鳩山 私は日本を真の意味で独立させたいと願っています。そのためには、特に外交問題について、何でもアメリカの顔色をうかがって政策を決めるのは止めるべきだと思っています。実際これまでにも、イラクへの自衛隊派遣など、アメリカに追随した外交のために日本の国益を著しく損なうようなことが何度も起こっています。

 今回のクリミア問題も同様です。この問題が起こると、日本政府はすぐにアメリカの方針に従い、ロシアへの経済制裁に踏み切りました。これにより、それまで安倍総理とプーチン大統領のムードは非常に良かったにも拘らず、北方領土問題の解決どころかプーチン訪日さえ叶わなくなってしまいました。

 これは日本の国益を相当害するものです。しかし、日本政府はクリミアで実際に何が起きているかを知ろうともせず、未だに経済制裁を続けています。

 クリミア問題で本当に非があるのはロシアなのか、本当に経済制裁は必要なのか。私は実際にクリミアをこの目で見て判断したいという思いが強くなりました。それが今回クリミアを訪問した一番の理由です。

―― 現地を訪れてどのように感じましたか。

鳩山 クリミアでは日常的な光景が広がっており、少なくとも私が見た限りでは戦車もなく、兵隊も一人もいませんでした。住民の方々からは、自由を満喫し、幸せを感じていることが伝わってきました。私はクリミア連邦大学とモスクワ大学の分校で講演させていただきましたが、学生たちは非常に前向きで、真面目で、目が輝いていました。圧政の中で苦しんでいるという雰囲気は全くありませんでした。

 実際、2014年3月に行われた住民投票では、投票者の97%がロシア編入に賛成しています。これほどの方々がロシアに戻りたいという意思表示をしたということは、大きな意味があると思います。住民投票も平和裏に行われており、ロシアが住民の意思に背いて無理やり併合したといった認識は間違っています。

 もちろん97%という数字がそのまま素直にクリミア全地域の声というわけではありません。例えば、少数民族であるクリミア・タタール人は55%しか投票していません。彼らが不満を抱いていたのは事実だと思います。

 しかし、クリミア政府はタタール人の人権に配慮し、彼らを厚遇しています。クリミア政府の副首相の一人もタタール人です。そのため、今ではタタール人の7割以上がロシア編入に賛成しており、99%がロシアのパスポートを持っています。これは彼らがロシア人であることに理解を示しているということだと思います。

 

大手メディアの報道は疑ってかかるべし

―― 鳩山さんはクリミアの記者会見で「多くの国民が、間違った情報の下に洗脳されてしまっています」と発言されていましたが、ウクライナ・クリミア問題をめぐる日本の報道についてどのような印象を持っていますか。

鳩山 洗脳は言い過ぎだったかもしれませんが、日本に入ってくる情報のほとんどはアメリカというフィルターを通しており、ロシアからの情報は国民の皆さんに届いていないのではないかと思います。アメリカからの情報しか伝わってこないため、それが一面的な情報だという感覚さえ持てなくなってしまっているように思います。

 もともとウクライナ問題は、プーチン大統領がソチオリンピックの準備で忙しく他に手が回らなかった時に、アメリカが相当不法な画策を行い、親ロ派のヤヌコビッチ政権を倒したことに端を発しています。とりわけネオコンが暗躍し、小さなデモ活動に過ぎなかったものを大きな騒動にまでしてしまいました。

 しかし、こうしたことは日本の大手メディアではほとんど報じられず、ヤヌコビッチ政権を倒したことは正義だという話になってしまっています。もちろんロシア側が100%正しいとは言いませんが、アメリカが常に正義で、ロシアが常に悪だといった議論は疑ってかかるべきです。そうでなければ、日本はまたイラク戦争の時と同じ過ちを犯してしまう恐れがあります。(以下略)





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