日経ビジネス2013年11月4日号
p46-47
2012年2月半ばの土曜日。半導体パッケージなどの検査装置メーカー、日本電産リード社長、戒田理夫はその日もいつものように忙しかった。戒田が朝から読み始めたのは、韓国、台湾、中国、タイの工場、現地法人と、東京、名古屋の営業所、それに京都市にある本社内の営業、技術部などから集まってきた社内で「週報」と呼ぶ連絡メモである。
(略)
「100ドルの低価格タブレットの生産がいよいよ始まりそう。そのための設備投資が動こうとしている」「部品メーカーのA社が大量の不良品を出したため、納入先のセットメーカーは台湾の別の部品メーカーB社にそれを発注しなおした様子。B社に検査装置を急いで営業した方がいい」
市場の生の動きを書き込んだ週報は、毎週、戒田の元に約300通も届く。熟読すると4~5時間はかかる。土曜日の朝というのに、戒田は追われるように重要なポイントを短くまとめ、タイムリミットの正午までに何とか永守にメールした。
その永守の元には、毎週土曜日、世界中にあるグループ約230社から、この週報が届く。「読むだけで土曜日は朝から夕方までかかる」(永守)膨大な量だ。もちろん、読みっぱなしなどあり得ない。日曜日の朝から即座に、返事をし始める。週報とは別に各地の中堅クラス以上の幹部から寄せられる1000通の返事を含め、一つひとつ指示を出し始める。
「世界のいろんな市場の小さな動きまで、あらゆることに目を光らせている」と永守。「だからこそ、即座に方向を変える決断ができる」とも話す。パソコン市場からの転換という周囲から見れば大胆な判断も、永守にしてみれば、日頃の情報収集から導かれる当然の帰結にすぎないと言える。
日本電産経営の強い特徴は、こうした永守の長期的視点と顧客に注目し続ける視点から下された判断を、猛スピードで実現させることだ。その最大の武器となるのがM&Aと共創視点での経営だ。
2月半ば、永守は日本電産リード社長の戒田が送ってきた週報の一部に強い興味を示した。
「レーザーで半導体などの外観を検査する技術を持つカナダのベンチャー企業の創業者が引退するらしい」。戒田が「M&Aができれば、光学式外観検査装置という新事業に参入する好機になる」という思惑を含めて送った一文に、永守は敏感に反応した。
「(グループの自動車部品メーカー)日本電産トーソクが同種の事業を持っている。2つをくっつければ大きくなり得る」
翌月、永守はすぐに当該事業を日本電産リードに移管させた。事業を譲った日本電産トーソクは、日本電産グループが車載事業の拡大へ動くのに合わせ、中核の自動車部品に一段と力を入れる必要があった。戒田も、半導体製造に使うウエハーが現在の300mmから450mmへ近い将来に大口径化するタイミングを捉えて市場参入を目論んでおり、その準備をすばやく整えられる形となった。
日本電産社長CEO 永守 重信に聞く
p49
しかし、なぜここまで差がついたのか。日本企業は課長になると会議ばかりしている。そうやって、現場から離れていくから、感度が鈍って市場の動きがどんどん分からなくなる。
こんな調子だから、部長クラスになると、もうほとんどジャッジする力をなくしてしまう。日本企業はミドルが強いというが、もうそんなことはない。
そういう中からトップになっていくから、なおのことその力がなくなる。長期的にものを考えようとしても、起きている出来事に対する判定力が鈍ってしまってはダメだ。
(略)
だが、それも担い手の社員が物事のジャッジ力を失っていたらできはしない。だから当社は、社員の職位も安定化させていない。降格は珍しくないようにしている。
だが、職位が下がっても、成績を上げれば元の職位にすぐ戻れるようにしている。当社ではそういう人は珍しくない。だから、私は当社の人事は「終わりがない」といつも言っているほどだ。
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