現代、芸人にとって、1年で1番の勝負どころとなっているのが賞レース。数多ある中でも最重要と言えるのが地上波全国ネットで放送される、M-1、キングオブコント、R1ぐらんぷりの3つだろう。今日はこの賞レースでの戦い方を挙げていきたい。その前に、この賞レースというのは、今や芸人にとってギャンブル的な要素も深まるイベントとなっている。何故なら、コツコツとライブシーンで積み上げた実績や肩書きもこの1つの大会の結果によっては一瞬で消され兼ねない。今や失うのはエントリーフィーの2000円だけではないのである。かといって不参加を表明したところで一般人、業界人共にスルーされるだけなので結局のところ避けては通れないのだが。そうした結果、不名誉な結果を突きつけられた芸人の怒りの矛先が向かいがちなのが予選審査員。審査基準がどうだの、こちらの本気を蔑ろにどうこう…しかし、私個人の意見からすれば、今の予選審査員の方々は大変勇敢で、優秀でとても中立的な審査をされてると思わざるを得ない。近年では、M-1もキングオブコントもR1でもネームバリューに関係なく事務所的なバランスに偏りもなく(今年のM-1はよしもと勢が多数だが、それもまた中立的審査である。)純粋な面白さ、参加規定にも書かれている"とにかく面白い〜芸"にそぐわない選出となっている。M-1の審査基準に関しては、今年お笑い界では多少話題に上がったが結局のところ減点対象となる部分はある意味では当然なことがらであってそういった部分が含まれた時点で今までの歴代優勝者のような革命的な漫才とは呼べないのではないかと感じている。もちろん、時事漫才も下ネタも突き詰めれば素晴らしい漫才にはなりえるが、2005〜2010までの全盛期にはおそらく審査基準など意識することもなく、明かされた減点対象とは全くの別世界で他を凌駕する漫才が優勝を果たした。あの頃の爆発を審査員が期待するのも当然の話であるし、表現に対する厳しさ云々とは関係ない世界の話ではないだろうか。難しくあれこれ述べたが、要はとにかく面白い芸から外れての審査は行われていないと見るべきで、来年の決勝では、突き抜けた時事漫才や、度を超えた下ネタで沸かす漫才師が当然のように現れる展開を期待している。我々だって1番のネタが下ネタや時事だったならそれで勝負するだろう。結局、お笑いというのはテストではない。傾向と対策などクソ喰らえだ。誰も見たことない且つどんな辛い状況に置かれてる人でも笑ってしまうネタを考えてやるのがお笑いだ。それを信じて戦うしかないのである。
長くなってしまったがここから簡単に戦い方を挙げていきたい。
まず、1回戦。1日のエントリー数が大体150組くらいだろうか。3つの大会共に、ネタ時間2分。ここで重要となってくるのが、つかみである。審査基準の前に目の前のお客さんを起こさなければいけない。素人も参加する1回戦で客はよほど名前が売れていない限り、寝ている。起きていても脳は寝ている。150組全組集中してみることなど不可能である。なので、1発目のつかみで起こさなければいけない。その為にはどうするか。まずは、プロとしての表現力で興味を惹きつける、その後1発目の裏切りで客を起こす。そのインパクトのデカさが鍵となる。インパクトというのはオリジナリティとも言い換えられる。人は見たことないものに衝撃を受ける。あの人っぽいなと思われたら終わりだ。後半は、形にさえなっていればさほど重要ではない。安定的な構造で固めればいい。要は、1発目にこんな発想を持っているんです。と見せつけるだけでいい。2分で出来る事には限界がある。間違っても4分のネタを2分に縮めてはいけない。あとは、自分達のホームグラウンドでウケたネタを持って来るのも危険だ。それは、結局、個性を知っているお客さんが頭で補完して笑った可能性が大いにある。完全なるアウェイでウケたネタの中でインパクトがあるネタを持ってくる。これで1回戦はきっと突破できるだろう。割合にしてインパクト(オリジナリティ)8割のウケ2割。

続いて2回戦。
1回戦から何が変わるかと言えば、まずお客さんの数が倍近く増えるのではないだろうか。ウケ量に関しても色々語られているが、僕個人の意見としては超重要であると考えている。特に2回戦からは重要な比率が上がっていくと見ている。客の数が増えればそれだけウケるかウケないかがはっきりと別れ始める。M1、R1は3分。キングオブコントは2回戦から4分に変わる。会場のキャパは変わらず客が増えるという点がポイントだ。狭い会場で一体感を生み出す多少コア寄りのインパクトが必要となりプラス3分を繋ぐ安定性も不可欠になる。3分もあればさすがにつかみだけでは乗り切れない。無名芸人にとって1番の鬼門である2回戦。1番の勝負ネタを持ってくるべきだろう。比率にして、インパクト5割のウケ5割。

3回戦。準々決勝。ここからは更に観客が増える。そして、会場自体が3、4倍デカくなる。そうなるとどうなるか。ウケ量だけ考えればここからはコア感、インパクトなどがあまりいらなくなる。イメージとしては、ニルヴァーナよりもクイーンがウケる。マニアックさは要らない。結局、みんな一緒に笑いたいのだ。自分だけ笑うのは恥ずかしい。よって、誰でも笑える瞬間にみんなで一緒に笑いたい。会場がでかくなりお客さんも増えればその意識は連鎖して大きくなる。よって、自分達の中で1番クイーンに近いネタを持ってくるべきである。比率にしてインパクト2割のウケ8割。

準決勝。ここまで来たら、全組が面白い。ことをお客さんは期待する。やっと、全組集中して観られるライブになる。その期待に応えられる1番自信があるネタをやるだけだ。ニルヴァーナでも、クイーンでもいい。これでダメなら納得できるという1番好きなネタ。

決勝。あまりライブ感の少ないネタが良い。構造やキャラクター性の強さで新鮮さを表すネタがオススメ。また下ネタは決勝で突然ウケなくなる。テレビなので、下ネタの瞬間に笑い顔や笑い声をカメラに拾われたら私生活で困ってしまうのでお客さんは一斉にかしこまる。ウケないと審査員も点数を入れ辛いみたい。なので、再びクイーンを持ってくるべきである。

以上が、賞レースでの基本的な戦い方だ。とにかく面白い芸とは、場所や場面によって多少変わることも意識しておきたい。
私も、ここで挙げたことを意識して、来年こそ悲願の1回戦突破出来るように、インパクト8割ウケ2割のネタ作りに励んでいきたいと思う。