ウクライナEU加盟、ロシアが「容認」表明した理由 | 大和民族連合

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安全保障、政治外交

仏、独、伊の首脳が「加盟候補国」認定を支持

2022/06/22 7:30 

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安部 雅延 : 国際ジャーナリスト(フランス在住)


ウクライナのEU加盟に反対しないと表明したロシアのプーチン大統領の思惑とは?(写真:Andrey RudakovBloomberg


欧州連合(EU)主要国であるフランス、ドイツ、イタリアは、一言でいえばウクライナの戦争長期化で追い詰められている。とくに戦争終結後のロシアとの関係を危惧するフランスとドイツは、ウクライナ支持を鮮明にした場合のロシアとの関係悪化を避けたい理由から、ロシアのプーチン大統領の怒りを買わないスレスレのところで軍事支援を行ってきた。だが、もはやその姿勢は限界に達し、ウクライナ支援の本気度が試されている。


欧州主要国の首脳が相次いでウクライナを訪問したワケ


EUの欧州委員会のフォンデアライエン委員長が611日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問した。欧州議会のメツォラ議長もフォンデアライエン氏のキーウ訪問の前日、「(欧州議会は)ウクライナのEU加盟候補国としての申請を強く支持する」と述べた。


さらに16日にはEU主要国のフランス、ドイツ、イタリアに加え、ルーマニアの首脳がウクライナを訪問し、さらなる武器供与とウクライナをEU加盟候補国に認定することを支持した。翌17日には急遽予定を変更したイギリスのジョンソン首相が、キーウに2度目の訪問。イギリスがウクライナ兵士の訓練プログラムを提供すると約束した。


EUおよび欧州各国のこうした動きは、62324日の欧州理事会(EU首脳会議)、62930日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の下準備であるのは明らかで、ウクライナのEU取り込みと欧州安全保障政策の新方針を話し合う土台作りともいえる。


ロシアがウクライナに侵攻した224日以降、フランスのマクロン大統領が「ロシアを過度に追い詰めるべきではない」と発言するなど、とくにドイツ、フランスから、ウクライナのゼレンスキー大統領が不信感を持つ言動が発せられてきた。


ドイツのショルツ首相は当初、ウクライナへの武器供与に関して、兵士が使用するヘルメットだけ供給し、戦車などの重火器の供給を拒んだため、批判を浴びた。その後は古びた兵器を小出しにし、しかも迅速とはいえないスピードで供給してきた。


616日にフランス、ドイツ、イタリア、ルーマニアの首脳がウクライナを訪問したとき、ショルツ氏は「継続的支援」を約束したが、ドイツ国内の与党議員からも「遅すぎる決断」との批判を受けた。


ドイツとロシアの深い関係


そもそもフランス、ドイツはウクライナが切望するEU加盟についても否定的で、ロシアとの関係重視のためにウクライナやモルドバを緩衝地帯とする考えを維持した経緯もあった。フランス、ドイツの反応の鈍さに、対ウクライナ強硬派のイギリスからは「ドイツは西側の仲間とはいえない」とまで批判された。


無論、ドイツは第2次世界大戦以降、外国の戦地に武器供与しない政策をとり、NATO軍への参加が主で、単独でウクライナに武器供与するのは新しい状況だったのは確かだ。ただ見方を変えると、この70年以上続く外交、防衛政策は、ドイツを平和ボケに追いやったともいえる。


実はドイツには約350万人ものロシア系住民が住んでいる。東西冷戦末期にはドイツは国外脱出をめざすロシア人にとって最も魅力的な移民先だった。また、ロシアには200万人以上のドイツ系住民がいて、過去の長く複雑な歴史と冷戦後の経済依存度の深さから、ドイツの政財界はロシアのドイツ移民と深くつながっている。


ドイツのシュレーダー元首相は、ロシア国営石油大手ロスネフチの取締役で、ドイツ、ロシアのズブズブの関係の象徴的存在だった。


フランス、ドイツ、イタリアの首脳が、ゼレンスキー氏の目の前で、EU加盟候補国認定の支持表明を行ったことは、EUの覚悟を示す場となった。フランス、ドイツ、イタリアの方針転換で流れが変わりそうだが、プーチン氏は意外な反応を示した。


プーチン氏は17日、サンクトペテルブルクで開催中の国際経済フォーラムの席上、EUについては「NATOのような軍事同盟ではない」とし、ウクライナのEU加盟について「反対しない」と容認する考えを示した。


一方で、ウクライナがEU加盟国になればEUの補助金に頼る西側諸国の情けない「半植民地になる」と皮肉な見方も示した。


プーチン氏が考えていることとは?


実はプーチン氏は今月9日のモスクワで開かれた若者との対話集会で「主権を持たない国」は「厳しい地政学的争いの中で生き残ることはできない」との認識を示した。


この発言は、国が独自の強力な軍事力、経済力を持つ主権国家でなければ地政学的争いには勝てないというプーチン氏の世界観を示しており、念頭にあるのはアメリカと中国だ。


その意味でウクライナがEU加盟国になったとしても、それは政治同盟であって軍事的脅威にはなりえないということを明確にした。ただし、アメリカが主導するNATOに加盟することはプーチン氏には脅威でしかない。


それにトルコがEU加盟候補国のまま23年も経つことから、トルコ加盟よりウクライナ加盟が先に承認されることはありえないという読みがプーチン氏にはあるとも考えられる。EUの加盟承認は「加盟国の全会一致」というハードルがあり、ロシア寄りのハンガリーやオランダ、デンマークが難色を示す可能性はすでに指摘されている。


そこで注目を集めているのが、マクロン氏が提唱している「欧州政治共同体」構想だ。これはEUから離脱したイギリスを含め、ウクライナやジョージア、モルドバ、西バルカン諸国、さらにグリーンランドなど、自由と民主主義、人権の価値観を共有する国々が、政治や経済面などで協力する共同体を構築する提案だ。


メリットはウクライナなどのEU加盟承認に時間を費やすのに対して、同共同体参加のハードルが低く設定されていること。アメリカの干渉を嫌い、EUを舞台にリーダーシップを発揮したいマクロン氏は、イギリスを含む欧州の外交、防衛、エネルギーと食の安全保障の大転換で主役となることを目指している。イタリアのドラギ首相もウクライナ参加の念頭に、同構想の進展に期待感を示した。ただし、アメリカは当然反発している。


EUが一枚岩にならなければ、ロシア勝利を阻止できない


ロシアがウクライナで目的を達成するまで諦めない姿勢を見せている今、同じ欧州で自由と民主主義の価値観を共有するEUは、その真価が問われている。EU1つの主権国家並みに一枚岩にならなければ、プーチン氏が指摘する強力な主権国家の勝利を阻止することはできない。


だがEUはもともと煩雑な手続きが必要な法と民主的手続きによる統合を進めてきたため、意思決定は容易ではない。エネルギーや食の危機で物価が高騰し、生活を圧迫される欧州市民を前に、「今は戦時の経済体制」(マクロン氏)と説得しても納得を得るのは難しい。


その間にも戦争の足音が欧州に迫っており、毎日、国民が命を落としているウクライナのゼレンスキー氏との温度差が、いまだに指摘されている。今度のEUおよびNATO首脳会議で、どこまで具体的な方針を打ち出せるのかが注目される。


ちなみにウクライナへの西側からの武器供給について、ウクライナのマリャル国防次官は614日、「ロシアの侵攻に対抗するため西側諸国に供与を要請した武器は、これまでに約10%しか届いていない」と語った。武器の入手が遅れれば遅れるほど、ウクライナが払う犠牲は大きくなる。ウクライナの西側への不信感をぬぐうためには、迅速な重火器供与やウクライナ兵士の訓練が必須と見られる。