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新型コロナウイルスは世界中に拡大し、まさにパンデミックとして猛威を振るっている。163の国や地域が感染し、感染者は20万人、死者は8000人という状況である。
北里柴三郎の師で、結核菌やコレラ菌を発見したロベルト・コッホの名前を冠したドイツの研究所は、多くの人が免疫を獲得する状態、つまり「集団免疫」の獲得には2年が必要との見解を発表し、当初の判断を修正して今回のウイルスの危険度を「高い」に引き上げた。
「集団免疫」に基づく対応で失敗した英独
「集団免疫」は英語で”herd immunity”と言うが、herdとは動物の群れのことを意味する。つまり、たとえば日本列島の住民が6〜7割も感染すれば、もう多くの人が免疫を持つことになり、彼らが感染拡大をガードすることで残りの3〜4割を守るので、心配はなくなるということである。
集団免疫論が間違っているわけではないが、致死率が高い場合、またワクチンや治療薬が未開発の場合には、この考え方のみで対策を進めるわけにはいかない。国民が不安に駆られるからである。
ドイツのメルケル首相やイギリスのジョンソン首相は、当初は集団免疫の考え方に立って政策を進め、たとえば学校の一斉休校の措置はとらなかった。それは、子どもが感染しても重症化することはないという疫学的、科学的な見地に基づいた判断であり、間違ってはいない。
しかし、イタリアで感染が爆発的に広がり、それが、フランス、ドイツ、スペインと近隣諸国に蔓延していくに及んで、人々のパニック状態が極まり、大衆心理的観点から、政治的に休校措置などの強硬策をとらざるをえなくなったのである。学校の教職員は大人であり、ここまで感染が広がると、そこからの感染も危惧されるということもある。
こうして、ヨーロッパ大陸の諸国は、イタリアやフランスのように、外出禁止令を敷き、国全体を封鎖する厳しい措置をとっている。フランスでは、10万人の警察官を動員して3月17日から15日間の外出禁止措置を導入したが、この措置の効果で、今後8〜12日以内に感染が終息に向かうと期待されている。
軽症者も入院させたことで起きた医療崩壊
日本では、2月28日に北海道で緊急事態が宣言されたが、それに伴う措置は19日で終了することになった。鈴木知事によると、「爆発的な感染拡大と医療崩壊は回避された」という判断することができたからである。
この北海道のように順調に行けばよいが、そもそも北海道の感染者は154人であり、イタリアが4万1035人、スペインが1万7147人、フランスが1万995人、ドイツが1万999人という数字に比べて桁違いに少ない(3月20日現在の数字)。初動が早かったことがウイルスの封じ込めに成功した理由であろう。
イタリアで急速に患者が広まったのは、中国人観光客や渡航歴があるなど中国との関連の深い者のみに注意し、国内でのヒト・ヒト感染に気づくのが遅れてしまったからである。しかも、イタリア北部で、イタリア人の患者が急増し、トリアージュすることなく、軽症者も重症者も入院させたために医療崩壊が起こってしまった。死者の数は、中国の3245人を抜いて、3405人となっている。
因みに、この例を以て、PCR検査は患者を増やしてマイナスだという論を展開する者がいるが本末転倒である。
アメリカでも感染者1万人を突破し、死者も140人を超えており、ヨーロッパと同様に急速に蔓延している。専門家たちは、当初から新型コロナウイルスの危険性についてトランプ大統領に警告したが、彼が聞き入れず、甘く見ていたことが批判されている。
そして、日本と同様にPCR検査が十分に実施されておらず、この点でも、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)も含めて、トランプ政権が厳しく追及されている。
このような批判をかわすために、トランプ政権は大規模な対策を講じ始めており、また、多くの州が緊急事態を宣言している。それが大衆の危機感を煽り、全米がパニック状況になっている。マスクなどの不足は、アメリカやオーストラリアやヨーロッパでも日本と同様であり、トランプ大統領は「国防生産法」を使って、医療用品を生産する業界に増産を要請している。また、モリソン豪首相は、買い占め防止を国民に訴えている。
中韓とも欧米とも異なる、日本での感染の広がり方
日本の場合は、欧米に比べて感染拡大のスピードが緩やかなのは、国民の努力もあるが、様々な幸運が繋がったと見てもよい。
国内初の感染者が出たのは1月15日で、武漢を訪ねて帰国した30代の中国人男性であった。その後、28日に奈良の60代の日本人の感染が判明したが、武漢からの中国人観光客を乗せたバスの運転手であった。ヒトからヒトへの感染が確認されたわけである。そして、2月中旬、感染源不明の患者が出現し、また屋形船での感染も判明した。このように、少しずつ段階的に蔓延し、国民が警戒を強化した。これは、爆発的に感染拡大した他国よりも幸運な経過だったが、いつまでこの状態が続くか分からない。
もう一つの仮説は、日本人がすでに集団免疫を獲得しているのでないかというものである。中国の旧正月、春節の前後から湖北省をはじめ中国全土から多数の観光客が訪日しており、各地で日本人と接触している。このため、多数の日本人が感染したことが想定される。しかし、軽い風邪の症状程度だったり、無症状だったりしたために気にもとめずに、免疫ができてしまったという説である。
この説の真偽は分からないが、そう思いたくなるほど、日本の感染拡大の状況は、今爆発的に感染が拡大している欧米や既に終息に向かっている中国や韓国とも異なる。実は、そのような点をこそ、政府の専門家会議に解明してほしいのであるが、20日夜、専門家会議は「持ちこたえているが一部で感染拡大」という見解を示した。
また、感染リスクをさけるには、①密閉空間で換気が悪い、②人の密度が濃い、③近距離での会話という三点の条件が重なることを避けることが必要だと繰り返し警告した。
そして、一斉休校については、それぞれの地域で感染状況に応じて対応するとしたが、それは当然である。しかし、今そう言うのなら、なぜ最初に全国一律に休校を要請したのか。その反省がないまま、今は地域の感染状態に応じて、休校を解除してもよいというのは、あまり説得的ではないし、結局は地方に丸投げということである。
また、大規模イベントの自粛については、「主催者がリスクを判断して慎重に対応を」と言うが、主催者は明確な基準がないかぎり判断はできない。また、イベントを開催すると、無責任だと世間から批判されるので、結局は自粛が続くことになる。
専門家会議は、休校や自粛の解除を提言することを心待ちにしていた人々を失望させてしまった。回避すべき場所として名指しで指摘された屋形船やスポーツジムなどの業種は、青息吐息である。
いまは大盤振る舞いが必要な時
人の移動が禁止されるということは、経済活動が停止し、世界経済が大きな打撃を受けることを意味する。実際に、世界中で生産活動が停止され、製造業、観光業、飲食業、エンターテインメントなど、あらゆる業界が苦境に陥りつつある。たとえば、主要な自動車メーカーは軒並み生産停止に陥っている。
それが、連日の株価の低下となって帰結している。各国の首脳が言うように、これはまさにウイルスとの「戦争」であり、戦時体制を敷く必要がある。アメリカは1兆ドル(110兆円)、日本は30兆円など、各国は緊急対策を講じようとしている。
EUは、財政赤字をGDPの3%以内とするというルールを一時棚上げすることにした。実はイタリアで医療崩壊が起こっていることの遠因は、EUの3%ルールに従うために、予算削減を行い、そのしわ寄せが医療資源の不足に帰結していたのである。今回のような感染症拡大という非常事態になると、医師の不足が大きな足枷となってしまっている。