行方不明のままの母へ

 

貴方が消息を絶ち、連絡が途絶えてから、もう三年が経とうとしています

その間、一言では言い尽くせない様々な困難が私の身に降り掛かって来ました

私は生きていくのにやっとの状態に陥り、他者とのまともな関係性を保つことさえ困難となり、それまで築いてきた信用を完全に失墜することにもなってしまいました

しかし、それこそ命懸けで生きて行く中で、私の「魂」は次第に磨かれていきました

お陰で、今ではこの世のあらゆる現象の拠って来るところが自ずと判かるようになり、また総ての物事に自分で対処することが出来るようにもなりました

 

貴方も長女であり、その息子である私も長男です

互いに長子同士、阿吽の呼吸で助け合って生活してきて、それはそれで良かったのでしょう

ただ、私は貴方の気持ちを汲み取ろうと誠意を尽くしましたが、貴方は私に対しそれほどまでの理解を示そうとはしませんでした

私には貴方の真意がどのようなものだったのか、未だに分かりません

とにかく、貴方は「言葉」で自分の気持ちを表すことが一切ありませんでしたから

父が何かにつけ、手紙や言葉で私に対する気持ちを表してくれたのに対し、貴方は私のどんな行いに対しても「無反応」でした

 

貴方が私のことをどう思っていたのか、今更知ってもどうにもなりませんが、この田舎の中の「都会」でずっと自分を押し殺してまでも生きてきたことの意味が全く感じられないのは、貴方に原因があるように思います

 

半世紀以上、貴方と暮らしてきて、貴方が私に残したものは一体何だったのでしょうか

満ち足りた「衣食住」の環境という事なのでしょうか

 

私がかつて自分の命を絶とうとして未遂で了った時、直後に私からそのことを聞いた貴方が発した「ひとこと」が未だに耳から離れません

 

「そう」

 

それが、貴方の口から出た言葉でした

あれ以来、私の貴方に対する人間としての「信頼感」は完全に消えて無くなったのでした

 

私には、貴方にとって「私」と言うものの存在がどの様な「価値」があったのか、全く分かりません

もう、望むべくも無いのかも知れませんが、自分の産んだ子供に対して一言「感謝」の言葉を残して逝くのが、親としての最後の「務め」なのではないのでしょうか

 

この秋、私は新天地で暮らすことにしました

これが貴方への私からの最後のメッセージです

一人前の成人に育て上げてくれたことに感謝します

 

「さようなら」