先日Fate/Grand Order第一部をクリアした。ソロモン王の時代から西暦2016年まで、三千年にわたる人類の歴史をことごとく燃やし尽くした「人理焼却」。“失われた歴史と未来を取り戻す”べく、聖杯を回収し魔神柱を蹴散らして七つの時代を駆け抜けた、人類最後のマスターと世界で最初のデミ・サーヴァントの“物語”の、一つの終わりである。

 

 

 

 

 

 以下本編のネタバレ情報を大いに含むため踏みたくない方はブラウザバック推奨

 

 

 

 

 魔術王ソロモンの正体は、デミ・サーヴァントにして人造人間であるマシュと同じく、人間に作られたもの、ソロモン王が作り出した魔術式が独立した意思を持ち、主たる王の死後その肉体と魔術回路を乗っ取って蘇生したものであった。その統合人格、名乗りに曰く、魔術ならぬ魔神の王・ゲーティア。

 三千年もの間じっと人類の歴史に潜み続けたゲーティアは、「五十億年分の時間遡行」を可能にする量の人類の意思と生命のエネルギーを「人理焼却」によって取り出し「生命にとって最大の恐怖の源泉たる“死”の存在しない生命体の星に地球を作り変える」という最大の目標を達成すべく計画を着々と進めてきた。そしてその成果が爆発したのが西暦にして第2015年。レフ・ライノール/魔神フラウロスの破壊工作によって爆発炎上するカルデア管制室で瓦礫の下敷きになった瀕死のマシュの手を、右も左もわからない新人マスターが取り、二人は西暦2004年の冬木市へ……それ以降のことについては、割愛する。

 

 さてそのゲーティアが唯一カルデア構成員の中で有意に興味を示し、多少なりとも救済の対象として見た人造人間マシュ・キリエライトであったが(6章における「神造兵器によって人間から変性した女神」対「神造兵器を携え人であり続けた人間」「英霊の力を宿した人造人間」の対立の構図は胸にこみ上げるものがあった)、その彼女は人の善性も悪性もひっくるめて、その生の全体を肯定すると言ってのけた。悪人でさえもその命の中には善悪の道徳をもってしては測りきれないきらめきを有している……悪人でさえも! その悪性、傲慢や強欲、果ては憎悪や怨嗟に至るまで、カルデアの人工物に囲まれて生きてきたマシュが、都合一年以上の聖杯探索の過程、各特異点で目の当たりにした人という生命の輝きであった。

 振り返れば1章オルレアンにおいて、彼女は善をよしとし又悪を憎む極めて善良な人間であった。それがまずアマデウスによる薫陶を受け、聖杯に願いを託した各特異点の敵と相対する中で、マシュは次第に人の悪性の持つ輝き、善悪を超越した生命の光をその目に映していく。

 特異点には、誰も恨むことなく死んでいった聖処女に、彼女を裏切ったフランスを憎んでほしかった副官がいた。その日暮らしの略奪生活に生きがいを見出す剛毅な海賊の首領がいた。万能の願望器たる聖杯を手に入れて今度こそ素晴らしい国を作ってやると息巻く青年がいた。己の愛する戦士と共に大陸を支配したいと願った女王がいた。機械の力で人類の幸福と繁栄を達成しようとした発明家がいた。身命を賭してあらゆる病をこの世から撃滅せんとする鉄の意思持つ看護師がいた。万能の力を持つ一個の神として民を守ろうとした王がいた。理想都市の部品として善良な人類を保存しようとした女神がいた。傲慢極まりないままに人心を掴み、滅びの未来を知りながら化外の獣から世界を救おうとした英雄がいた。そして何より、研究者とお高くとまった魔術師の卵ばかりのカルデアでは決して出会えなかった、それぞれの時代の無名の人々がいた。

 ソーシャルゲームという特性上主人公としてプレイヤーを置いただけであって、無論ぐだーずの名で通称される彼らもマスターとしての成長はあったのだろうが、その精神的側面において最も、圧倒的な成長を遂げたのは、ほかならぬマシュ以外にありえない。

 無感動な善性の人造人間マシュ・キリエライトは、無害な「先輩」と出会い、そのサーヴァントとなって九つの世界(冬木、オルレアン、ローマ、カリブ海、ロンドン、合衆国、エルサレム、メソポタミア、時間のない神殿)をめぐり、真に人理の守護者としての意志の力を得た。燃え盛る管制室で、何かできないかと気休め同然に問われて「自らの手をとる」ことを願った彼女は、旅の終わりに、崩壊する終局特異点の果てでマスターの手をとり、その命を二度までも救った。

 そもそも主題歌「色彩」やエンディング「eternity blue」は完全にマシュの心をうたっている。断言する。間違ってもぐだーずではない。ロマンかもしれないけど。

「一人になると聞こえるの、苦しいならやめていいと

 ブラックホールみたいに深く、怖くて魅力的な甘い声が」

 7章か6章か、冒頭のマシュの夢の中でこの詞をそのまま引き写したくだりがみられた。マスターやドレイク船長、シェイクスピアやその作品群、べディヴィエール、アナ、それぞれの「あなた」と共にいる世界を愛し、戦いや殺しへの恐れを克服できたのは「その手を繋いでくれたから」と謙遜し、最前線で大盾でもって味方を守り抜いてきたマシュ……ああマシュ……こうして書いているけど実際「尊い」とかそのくらいの言葉しか出てこないし、なんなら言葉が出ないまである。むしろそのほうが実際に近い。無数の人間の悲惨を見て、それでもなお人間の生の価値を……死という終わりに向けて自らを投げ出し、この世に自らを結び付け縛り付けて生きる人間を称揚するに至った行程と彼女の意志は、尊いという以外どう表現できるだろうか?

 

 半ば諦めた人類最後のマスターの目に映ったマシュは天からの使いではない。「ずっと守られてばかりだったから、あなたの役に立ちたかった」……などと見当違いなことを抜かして蒸発したマシュは、キャスパリーグ/《比較》の獣によって第二の肉体を与えられ、人造人間としての定められた寿命も克服した。人造人間は人間になり、その心は人類愛に満ち溢れている。新宿と地底世界、殺し合いを生業とする無頼漢共の決闘と「普通の人間」による虐殺=魔女裁判を経て、さらなる人の悪性を浴びた彼女がどう変わっていくのかは、また別の話。