19時間の待機の末
満を持して産院に向かう
(実際はそんな大したものではなく、ただただ19時間ソワソワしていただけだった。)

電話口の助産師さんに、駐車場での待機を命じられたため
車をすっ飛ばして誰もいない駐車場で待つ。

待っている間、用意していたカメラ類や手紙をカバンに詰めて
今か今かと待つ。

駐車場について20分くらいして、再び電話。
「分娩の準備ができましたので、裏口からインターホンを鳴らしてください。」
「わかりました。」

電話を切るや否や、車を出て夜間通用口へ。

と思いきや、通用口の前でUターン。
体調を記した紙とマスクを車に忘れた。

鍵どこに入れたっけ。

あわあわしながら、車を開けてゴソゴソ探す。
マスク装着して、改めて急いで向かう。

インターホンを押すと、看護師さんが1人お迎えに来てくれて、エレベーターで2階に上がってください。と案内してくれた。

焦っている僕とは対照的にとても冷静である。
まあ、そりゃそうか。

2階に上がると、荷物と上着を全てロッカーに預けてくださいと指示を受けた。
あれやこれや持ってきた重々しいカバンは
めでたく、丸っと、ロッカー入りである。

いろいろ持って来すぎて肥大したカバンは、
少量の荷物を想定したロッカーの入り口を、なかなか通ってくれなかった。

荷物を全て預け終わると、次は
不織布でできた割烹着のような服
新しいマスクと帽子を渡された。
なかなか上手く着ることができなくて、助産師さんがちょっと手伝ってくれた。

手を洗って、消毒。奥の部屋の前まで案内される。
ではこちらの扉の前で待っていてくださいね〜。

扉の向こうから妻の声が聞こえる。
時折、すごく苦しそうな短い声が聞こえてくる。
ピッ、ピッ という医療機器の音も聞こえる。
部屋の中はどんな風になっているんだろうか。想像ばかり膨らむ。

結構待つのかな、と思いながら小さい椅子に座って待っていたら、数分で
入っていいですよ〜
声がかかった。思っていたよりも早かった。

中には、足をいかつい椅子に縛り付けられた妻と助産師さんがいた。
久しぶりに見る妻の顔。目が合う。
すごく苦しそうだけど、なんて声をかけていいかわからず、
「久しぶり」と言ったら、ちょっと笑ってくれて安心した。

その後は、僕も記憶が曖昧だけど、
とにかく壮絶だった

痛みでうめく妻
次陣痛が来たらいきんでね、という助産師さん
痛みの波で力を入れる妻
でも、麻酔の影響もあって少し力が足りない様子。

今声出しちゃだめ!勿体無い!という助産師さん。
ええ!?という妻
もったいないんだ、と思う僕。

助産師さんは隣にあるピッピッと音のなるモニタを見ながら、いきむタイミングを図っているようだった。

いくつか数字があるけれど、どれかが幼児の心拍で、どれかが痛みの数値かな?
痛みとか数値で見れるのかな?あ、血中の酸素飽和度(?)とかかな?
あの下の数値、上下が激しすぎるけど、あれ、もし赤ちゃんの心拍だったらどうしよう。

と、短い間で色々推測した。

酸素マスクが妻につけられた。
いきむたびにずれてたので、動かないように押さえたら
邪魔だったみたい、妻に手を払われた。すまん。

とかやってる間に、男性のボスドクターらしき人が登場した。

助産師さんとボスドクターが、子宮口と赤ちゃんの頭のところ(多分)に指を入れてグリグリやってる。
妻の頭側からだったから、よく見えてはいなかったけど結構力強めでグリグリやっていた。
あ、出産ってこんなにパワープレイなんだ、って思った。

自分の想像していた出産は、もっと時が来たらスポーンと出てくるものだったが、
思っていた以上に無理やり感があった。
赤ちゃんを出すのもとか、いきんで踏ん張って押し出すって感じだし、どうにかこうにか出てくる道を少しでも広げる、みたいな。
色々進歩しても、出産そのものは原始的なものなんだな、と実感した。こんなに大変なんだと肌で感じた。

そうこうしているうちに
ボスドクターと助産師さんが話している。
赤ちゃんの心拍がちょっと弱いらしい。局所麻酔を打って、切開をして吸引するとの結論に至ったようだ。

その会話を聞いていて、僕は二重に恐ろしくなった。
ひとつめ、赤ちゃんの心拍が弱い?? やばい、死んじゃうんだろうか。あのモニターの上下している値がやっぱり心拍なんだ。
ふたつめ、切開?? なんかハサミ出て来たけど、それで切るの??痛い痛い痛い痛い。ひぃ

でも、そんな心配はよそに、
麻酔打ちますね〜。はい、切りますね〜。
と、処置は進んでいく。

処置が終わると、今度は半透明の黄色い吸盤のような物が出てきた。
想像より小さい吸盤だった。

お股に突っ込んでいる。ように見える。
あ、引っ張っている。
妻のイキみに合わせて、ものすごい引っ張っている。あんなに引っ張って大丈夫なのかな。
とかやってたら、

頭みたいなのが出てる。

あれ!?おおおー!出た!

と思ったら、助産師さんがもう一回いきんで!って言ってる。
あ、肩がまだ出てないんだ!
と気づいたが、まだ妻は気づいていない。
ええ??って言ってた。

間も無く、もう一度妻がいきむ
ニュルっ
あ、今度こそ出てるーーー!
あれ、でも泣かない、、。
仁で見たことあるな。。お尻叩くのかな?
と、すごく短い間に色々考えを巡らせた。

1秒くらいしたらウギャアって赤ちゃんが泣き始めた。
力が抜けた。

生まれたーーーー

ちっちゃ!かわいい!

妻に、「お疲れさま」とか「ありがとう」とか何回も言った気がする。
よく覚えていない。

あ、でも生まれた瞬間は泣くと思っていたけれど、笑いが先に来た。
あまりにも元気に泣く赤ちゃんが可愛くて、健気で、ちょっと面白くて、喜びのあまり笑顔になった。

生まれたての赤ちゃんを助産師さんが見せてくれた。
血と体液まみれの赤ちゃん。元気に泣いている。
何もかも初めての経験すぎて、圧倒された。

赤ちゃん綺麗にして来ますね、と助産師さんが裏に連れて行く。

妻の方を見て、
顔を触るとぐっしょり汗で濡れてることに気づいた。
助産師さんに拭いてあげて、と言われた。

おでこや顔を拭く。
一生懸命すみずみまで丁寧に拭いていたら、もういいよ、と妻に言われた。すみません。

喉が渇いてたみたいで、緑茶パックをちゅーちゅーさせる。
内容は忘れたけど、色々話した。

そんなこんなしていると、おくるみに包まれた赤ちゃんが運ばれてきた。
写真撮影タイムみたい。
3人で撮って、その後それぞれが抱っこして撮影。
初めて抱っこしたのはこの時だけど、軽すぎてびっくりした。
猫より軽い。
あと、手が猫サイズ。

猫と比較してしまう父です。

写真を撮り終わると、名前を書いてねと言われた。
なんのことかわからず、聞き返すと
取り違えが内容に妻の名前を赤ちゃんのスネに書くんだとか。
言われるがままにマッキーで、右足に名字、左下に名前を書く。
なんだかシュールでジワジワ笑ってしまった。

と、ここで妻も着替えたり処置があるみたいなので、赤ちゃんを預けて一旦退室。
廊下に出て、お互いの両親や友達に生まれた連絡をする。
写真もすぐダウンロードできたので、送る。

たくさんおの人がおめでとうと言ってくれた。
僕にも奥さんにもお疲れと言ってくれた。
頑張ったのは妻です。

そうこうしていると、分娩室にまた呼ばれる。
今度は割烹着もマスクもなしでいいみたい。

妻と助産師さんと雑談。
今日もう一度赤ちゃんに会えると思っていたけれど、
木曜日の0時台に生まれたから、次会えるのは金曜日らしい
ぐぬぬ。

決まりならしょうがないか。
とか話していると、お話タイム終了を告げられる。
短い。ぐぬぬ。

でも妻も疲労困憊だしね。
止められなかったら延々居座ってしまいそうだから、しっかりした病院でよかった。

手紙だけ渡していいですか?ときいてロッカーから手紙を取り出して渡しに行く。
(小さいロッカーだったから、出すのも大変だった。)

また連絡するねと伝えて、分娩室を出た。
病院を出て車に乗る。

妻の実家に泊まらせてもらうつもりだったが、
今日会えないとのことだったので一度帰って金曜日支度をしてまた来ようと思った。

なので生まれた報告をしに妻の実家に戻る。
妻のお母さんが出て来たので報告。
長かったね〜とか、よく頑張ったね、とか話していると妻のお父さんも部屋からおどけた様子でひょっこり出てきた。
すごく心配していたみたい。
寝れていなかったようで、無事に出産が終わったことを伝えるとすごくホッとした表情を浮かべていた。
リアクションがかわいく、愉快な、妻のお父さんである。

挨拶をして、妻の実家を出る。
高速を走らせて家に帰る。
すごくふわふわした気持ちだった。嬉しい。
やっと実感が湧いてきて、運転しながら少し泣いた。

家に着くと、猫たちに報告する。
きょとんとしている。
長いお留守番だったので、僕の帰宅が嬉しいみたい。

にゃあにゃあ言ってる。
相変わらずでかわいい。



(イメージ)

深夜3時を回っていたので、無事に家に着いたことを妻に連絡し、眠りについた。

目が覚めたのは9時ごろ、その日はいつもと変わり映えがしなさすぎて
生まれた翌日ってのは、意外とこんなもんか
と思いました。

本当に、妻も娘もお疲れ様、2人とも元気で無事でよかった。
心の底から、ありがとね。