チプ飛行場に一台の大型トラックが入ってきた。最初に補給で来たトラックより大きく、エンジン音もかなりうるさかった。アメリカ製かな?
トラックは格納庫の前でいったん止まると、窓から運転手の兵隊が顔を出した。
「第5偵察隊の津野草少尉ですか?」
妙に小柄な女性だった。
「だいごてーさつたい?」
初めて聞くその言葉に、九陵はしばし戸惑う。するとトラックの助手席から海軍士官の中年男性の声が聞こえってきた。
「お前のことだ少尉」
中年男性はトラックから出てきて九陵に封筒を一つ手渡した。
「何ですかこれ?」
「開けてみろ」
ゆっくりと封を切る。すると中から辞令書と書かれた書類が出てきた。
辞令
本日六月一日を以て、ククリン島チプ飛行場第五偵察隊に以下の者を配属す。
大日本帝国海軍少尉 津野草 九陵
大日本帝国海軍 サイパン島東南アジア方面軍司令部
島に来て二月経った今、九陵は初めて自分の配属部隊を知った。
「辞令書が遅れたのは上の手違いのせいだろう。とにかくこの部隊は二人だけだ。うまくやれよ」
「二人?」
「ん、聞いてないか?」
トラックから運転手が降りてきて、男の隣に立った。
「今日からお世話になります。整備員の玉井葉子一等整備兵曹です」
「はあ、よろしく」
とりあえず、追って届いた物資を三人で手分けして荷台から下ろす。
玉井さんと一緒に来たこの中年の士官はサイパン島司令部の所属で、主に補給のやりとりを担当しているそうだ。作業中に話している間、そんなようなことは分かったが、九陵はこの士官の声をどこかで聞いたことがある気がしていた。その後気付く。
「あの、もしかして昨日無線で答えてくれた椿沢中佐殿ですか?」
そう訊くと、士官は呆れたような様子で言った。
「なんだ、やっと気付いたのか」
中佐が最後の荷物を下ろす。
「一目見ておかしいとは思ったが、まさか立った二人だけの部隊とはな」
「そうですよ、絶対何かの手違いですよ。あんなにたくさんの武器弾薬、二人だけでどうしろってんですか」
格納庫の端に置かれた木箱の山を指す。
自分の作業を置いた玉井さんも会話に加わる。
「でも私は気楽でいいと思いますけど」
「そうは行っても・・・二人だけじゃいざとなったときに人手不足になるよなぁ」
「まあ、整備員だけでも確保できただけ、マシじゃないか?」
「そうですよー。機体の整備ならお任せください」
階級に差はあったが、なぜか会話ははずんだ。何だか同期と話しているみたいだ。
その後中佐から部隊のことについて知っている限り教えてもらい、帰りに玉井さんがトラックで港まで送っていった。
さて、格納庫には燃料、弾薬、その他整備器具がたっぷり、そして複葉の飛行機がある。整備員も一人確保し、いつでも飛行準備は万全だ。部隊のこともうっすらとだけど分かったので、これでやっと軍隊らしくなってきた。
先ほど中佐から教えられた限りでは、この第5偵察隊はここククリン島の半径1000キロ以内の哨戒飛行、及び有事における戦術偵察を任務としている部隊だそうだ。そんな任務をたった一機の飛行機で完遂可能なのかという疑問はさておき、これで自分のやることが明白になってきた。
・・・まずは格納庫内の整頓からか。
#3へつづく
八月二日、追加物資及び整備員一名到着。
又、遅延していた配属辞令を受け取る。
