「いろんなにおいがする町」
と題名がついていました。パン屋さんから、
いつもいいにおいがする
と喜んでいたので
薄茶色に塗られたところは
きっとパン屋さんのにおい
かもしれません。
◇
京都にある自宅近くの通りは、
昔、五条通りであった由来から
牛若丸と弁慶がトレードマークの
商店街があります。
母親につれられて
ヨシはよくお買い物に
いっていたため、
商店街の皆様には
ヨシくん、ヨシくんと随分
可愛がっていただいたようです。商店街のお祭りで
釣りあげた大きな水風船を
誇らしげに、いつまでも
飾っていたヨシ。
今も小さな牛若丸の看板を見ると
どことなくヨシが笑っているような
気がしてきます。
◇
近年、多くの商店街が
寂れ続けていくのは
この小さな商店街も
例外ではなく⋯
家族でいった蕎麦屋さんも
ヨシにいつもお菓子をくれた
クリーニング屋さんも
ヨシが大好きだった
昔ながらのたこ焼き屋さんも
今はもうありません。それでも、
ゲストハウスだらけになった
商店街を朝に歩いていると
よく通学児童の列に出会います。
楽しそうなお喋りの中に
なんだかヨシの声が
混じっていそうで⋯。
◇
黄色の旗を振って児童を見守る
有名パン屋の渋い店主の顔が、
その時ばかりはどこまでも
優しい目をされています。