亡き息子ヨシが描いた町の絵には、

「いろんなにおいがする町」

と題名がついていました。

パン屋さんから、
いつもいいにおいがする

と喜んでいたので


薄茶色に塗られたところは
きっとパン屋さんのにおい
かもしれません。



京都にある自宅近くの通りは、
昔、五条通りであった由来から
牛若丸と弁慶がトレードマークの
商店街があります。

母親につれられて
ヨシはよくお買い物に

いっていたため、


商店街の皆様には

ヨシくん、ヨシくんと随分

可愛がっていただいたようです。

商店街のお祭りで
釣りあげた大きな水風船を
誇らしげに、いつまでも
飾っていたヨシ。

今も小さな牛若丸の看板を見ると
どことなくヨシが笑っているような
気がしてきます。



近年、多くの商店街が

寂れ続けていくのは

この小さな商店街も

例外ではなく⋯


家族でいった蕎麦屋さんも
ヨシにいつもお菓子をくれた
クリーニング屋さんも

ヨシが大好きだった

昔ながらのたこ焼き屋さんも

今はもうありません。

それでも、
ゲストハウスだらけになった
商店街を朝に歩いていると
よく通学児童の列に出会います。

楽しそうなお喋りの中に
なんだかヨシの声が
混じっていそうで⋯。



黄色の旗を振って児童を見守る
有名パン屋の渋い店主の顔が、
その時ばかりはどこまでも
優しい目をされています。