同じ病室のABBAちゃん(BABAちゃん改め-----北欧のどっかの国の昔のポップス-グループ名とかぶるけど)が優しくいたわるように、ボクに問いかけた。
「点滴、シンドクないですか?」
ボクは病棟の備え付けの簡易ベッドに上向きに寝て、1時間近く点滴治療を施されているのだ。ボクは 固定され寝そべった姿勢のままで、精一杯の笑みを作って、それに応える。
「そうでもないですよ。ボクは元来はガサツな性分で、家に居るときは片時もジッとしてはいられないんですよ。
ナニか常にウロウロ、ガサガサ落ち着きなく動き回ってますよ。
妻にも良く咎められるんですけど.....
『5分でイイから、ジッとして居られないの?』って.....
こうやって入院している時でも、何か落ち着かないんですけど、点滴治療の時間だけは別ですね。腹をくくるっていうのか.....ベッドに上向きに寝て、あの無機質な点滴液(生理食塩水)のひとしずくが、リズムを刻んで、一滴一滴等間隔で落下する様を下から凝視していると、なぜか心が落ち着いて来るんですよ、なんとなくですけど......」
生理食塩水の規則的な沈黙の落下が限られた時を刻む。
まるで悠久の神秘の鍾乳洞の天井から、したたり落ちる、研ぎ澄まされた、至高の一滴のように。
その一滴一滴一滴がボクの身体全体に染み渡り、ボクの弱った脳幹神経細胞を活性化し、シナプスをも蘇らせる。
ボクは、ユックリとベッドから身を起こし、復活を自分自身に宣言して、再びペンを握るのだ。
(少し、気障かな.....いや、十分過ぎるほど気障だ。お釣りがくる。では、また!)
この節 終わり