▼『それぞれの記憶』のQ&Aが終了して「それではこれからフォトセッションに移ります」とアナウンスされると同時に会場を飛び出す。EXシアター六本木での『マニャニータ』の上映開始まであと10分。大急ぎで「TOHOシネマズ 六本木ヒルズ」を抜け出し、六本木通りに降りて、地下道をくぐり抜け、「EXシアター六本木」に飛び込み、地下にあるトイレに駆け込む。長い映画の前にはトイレに行って出すものを出す。そうしないと、落ち着いて映画を観ていられないからね。
 で、あわてて自分の番号の席に腰をおろすと同時に上映がスタートする。ふう、間に合ったよ。おっと、スマホの電源を落とさないと。


 えっと、説明の難しい映画だな。
 顔の半分がケロイド状になっている軍の女性スナイパー(ベラ・パディーリア)が、農村地で狙撃を成功させる場面で映画はスタートする。間違いなく凄腕のスナイパーであった。
 だが、その後、軍を除隊させられ、連日、バーでビールを飲み続け、泥酔を繰り返す。
 そんなある日、彼女に1本の電話が入り、長距離バスに乗って移動していく。
 電話を寄越した人間に情報料を支払い、ある人物の居場所を教えられる。
 かつて、彼女の目の前で両親を射殺し、7歳だった彼女をレイプして家に火を放った男の居場所だ。復讐のために、彼女はその男を捜していたのだった。
 復讐の前に、彼女は偶然出会った神父と会話を交わし、許すということについて教えを乞う。
 はたして、彼女は復讐と遂げるのか。それとも、許すことができるのか。

 とまあ、そういう映画であったのだけれど、むちゃくちゃテンポが遅い。ヒロインが夜道に立っているだけの映像がずっと続いて、おいおい、この場面をいつまで観ていないといけないんだ?とイライラしてくると、そこにタクシーがやってきて、ようやくヒロインが呼んだタクシーを待っていたシーンだったのだと分かったりする。なに、この無駄に長い場面は。「お前はラブ・ディアスか!?」と監督の胸ぐらを掴みたくなるリズムの映画なのだ。
 しかも、ヒロインが何を考えているのかまるっきり分からず、何を目的に行動しているのかもまるっきり説明されないので、正直、むちゃくちゃ退屈なのだ。復讐のために行動していたと分かるまで、延々と意味の分からない映像を見せられるのである。143分の映画なのだけれど、それ以上に長い映画と感じられてしまう。
 実は監督のポール・ソリアノは、テレビコマーシャルやミュージックビデオの演出で高く評価されてきた人で、僕が観た『キッド・クラフ』『Siargao』という2本の映画は、リズミカルな映像がとっても気持ちのいい娯楽作品だった。それなのに、そういった過去の作品とは真逆の作品を見せられてしまったのである。
 理由はその後のQ&Aで明らかになったのだけれど、ラブ・ディアスと出会い、ラブ・ディアスを師匠とあがめ、ラブ・ディアスのような映画を撮りたくなってしまったということなのだった。本人は、映画のリズムが分かってきたといたく満足げに語っていたけれど、ぜんぜんラブ・ディアスとは違うぞ。めちゃくちゃ退屈だったぞ。
 というわけで、少なくとも自分にはまったく不向きな映画であった。自分には不向きな映画なので、評価することもできない。Q&Aの司会進行をつとめていた矢田部吉彦さんは絶賛していたので、この手の作品が向いている人には素晴らしい作品なのだろう。

▼上映終了後にポール・ソリアノ監督と、主演のベラ・パディーリアが登壇してのQ&Aがあった。
 Q&Aについては、いずれレポートをアップします。
 僕は、ラブ・ディアス監督が書いたという脚本について質問したのだけれど、その回答がおかしかった。「自作の脚本すら事前に用意しないラブ・ディアス監督が、人の作品の脚本をちゃんと書くとは思えないんですけど」と質問したら、ポール・ソリアノ監督、すっごく嬉しそうな表情で僕を指さすと「ザッツ・ライト! その通り!」と答えたのだ。いや、そのストレートな反応には笑ったな。

▼EXシアター六本木は、上映会場が地下にあり、1Fまで上がるとすぐ横から短い階段で上がるスペースがあって、よくそこをサイン会場に使っているのだけれど、今回もそこがサイン会場として用意されていた。そのことを予想してさっさと1Fまで上がったのは大正解。作品には納得していないけれど、ベラ・パディーリアさんのサインは欲しいもんね。
 用意してきたポストカードに2人のサインを入れてもらって、一緒に写真を撮ってもらう。監督には『Siargao』が大好きですと伝える。本当は、こんな映画なんて撮らないで、『Siargao』のような従来通りのリズミカルな映画を撮ってくださいと言いたかったんだけどね。
 ちなみに、2015年に『キッド・クラフ』をひっさげて来日した時に「次回はぜひ奥さんもご一緒に来日してください」ってお願いしたんだけど、さすがに覚えていないだろうな。ポール・ソリアノの奥さんは、フィリピンのトップ女優トニ・ゴンザガなのであります。