2008年、洞爺湖サミットが行われた年

札幌市内の幹線道路は

各国要人の車両が通過する度に

交通規制により、通行止めが行われた。


その数ヶ月前に

故郷で入院中の義父に

妻と下の子と共に、見舞いに行った。


肝臓き巣食う腫瘍の影響か

異様に膨らんでいる腹部を見て


(ああ、もう助からないんだ)


そう思い


義父が可愛がっていた私の妻を

必ず守りますとの想いが漲り

もうこの人には会えないかも知れない

今約束しなければならない


義父の手をとり


固く握手をし


「また来るからね」


そう話した私に


「頼むよ。頼むよ。」


繰り返した義父の声と眼差しは

今も妻を見る度によみがえる



妻の妹から電話があり


「もう父さん、ダメみたい。

姉ちゃんが仕事中みたいで連絡がつかない」


そう伝えられて

あの日の義父の眼差しを思い出し

妻の職場へと急いで向かった


笑顔で仕事をしていた妻は

私の姿と表情を見て

一瞬で笑顔を消し

会話も無く、職場にことわりを入れ

自宅で着替えとお金を用意し

再び私の運転する車で

札幌駅へと急いで向かった



どこの国の首脳かはわからないけど


駅まであと少しの道で


いつ解除されるかわからない

通行止めの規制に引っかかってしまった


間に合いますように

間に合うように


そう呟いていた妻が


フゥっと溜め息を吐いて


「うん。もう間に合わないね。」


涙を浮かべて

私に哀しく微笑んで

また、前方の警察官の壁を見た




「お見舞いの時は辛そうだったけど

亡くなった顔は、穏やかだったよ。

痛みや苦しみが無くなったんだね。」


故郷の父親の元に着いた妻から

そんな連絡がきた




翌日、子ども達と一緒に行ったら

妻は悲しみに暮れる事もなく

なんだか普通にしていた



その日の夜に、家族一緒に寝ていたら


眠る妻の顔が

義父の顔になった


あまり似ていなかったはずが

同じ顔になり、こちらに向いていた



義父さん

娘が愛しくて心配なんだね


会いに来るのが遅いと詰るのでは無く

約束通りにしてくれと

そう言いたかったんだね



不思議な夜だった