昔、遺跡を発掘する為の穴掘りのバイトをしていた時がある。




ちょっと変わり者の仕事仲間が集まっていて

なかなか楽しかった。


が、暑いときは炎天下で肉体労働が凄くきつかったな。


部活再びって感じで。




寒いのは体動かせばすぐに暖かくなったけど

夏の炎天下だけは逃げようがなくて

シャツの中まで真っ黒に焼けていた。



だけど熱風で息をするのも苦しかった夏の後の秋は

凄く快適だったし

雪かきばかりやってた寒い冬の後の春は

五感全部が沸き立つように幸せを感じた。




自然を感じて生きるのはとても大事なことだと

身を以て理解した。







ある時、俺たちは大きなバイパスを作る所の発掘をしていた。


俺たちが掘るすぐ先では

本物の土方のおいちゃん達がバリバリと古いアスファルトを

でかいユンボで剥いで行く。


小さい刷毛でチロチロ土器をなでながら

俺たちはその豪快な仕事を眺めていた。




その親父たちの遥か彼方向こうには

高い高い銀杏の木が真黄色になっていて

燃えているように見えた。





それからしばらくして

気が付くと親父たちは銀杏の木の近くまで進んでいた。








ある朝、事務所から出て俺は立ち止った。




あの大きな銀杏の木がなくなっていて

そこに真っ青な空がポカンと見えていた。




見に行くと銀杏の木は根元から切り倒されていた。



その大きな切り口は生々しいほど綺麗な肌色で

なんだか凄く嫌な気持ちになった。




こんなことしていいのかな。




まるで人が殺されたのを見てしまった気分だ。




いったいどの位の年齢の木だったんだろう。




年輪を数えてみようかと思ったが

触ると痛いんじゃないかというような気がして触れなかった。








昼飯の時、もう一度見に行った。



すると木の所に人影が見えた。



よく見ると、事務所で働いている女の人が木の前でしゃがんでいる。



その人はあまり愛想がよくないというか

バイトの連中を丸無視する人だったんで

俺は遠くからちょっと様子を見ていた。



しばらくするとその人は立ち上がってその場を去っていった。





木に近づいてみると

そこには塩と水が置いてあった。


あれ酒だったのかもな。





ああ、拝んでたんだ。



そうだ。

だれだって拝みたくなるくらい

それは痛々しかった。





周りに人がいないのを確認して

俺もちょっと手を合わせてみた。




























その日は家で仕事をしていた途中で見舞いに行ってたから

俺の頭はボサボサだったんだけど

Aも負けずにボサボサだった。





まああっちはおしゃれボサボサだけどさ。





「こう見ると若いですね」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              


そう言うAもかなり若く見えて

正直ふだんの固めた頭よりずっと自然でいい感じだった。



「見舞いかなんかですか?」



Aは俺が座っていた4人掛けのテーブルの対角の椅子の端っこに

遠慮がちに腰を下ろした。




いつもなら面倒くさいと思うかもしれない。



だけどその時は誰でもいいから

誰かと話していたいとも思った。




「知り合いがね」




「そっちは」と聞く事が出来なかった。



ラフな格好に携帯だけ持っているのが

いかにもここに来慣れている風で

身近な家族かなんかが長期で入院しているような感じだったから。




「ここあんまりうまくないよ」



メニューを指しながら言った。



「そうなんだ…。

面倒くさいから食ってこうと思ってんだけど」



「これはましかなー」



通路側で組んでいた足を中に入れて

Aがメニューを覗き込んだ。





Aは何かつけているのか香水のような匂いがした。























その日は随分と落ち込んでいた日だった。





入院中の友人は一人身で

もう一人暮らしは出来ないということで

退院したら田舎の親戚の家へ引き取られる事になった。




その話をしていたら

友人は急に声を出して泣き出した。




「終わりだ。俺は終わりだ」






話しているといつもの彼のようではあったが

時々老人の忘れてしまう病で通じなくなる事がある。




知的でなんでも教えてくれた人だったので

それが凄くショックだった。






病室を後にして

気が滅入っていた俺は

少し休もうかとカフェに向かった。






そのカフェまでの通りには

まるでリゾート地のホテルのように木の椅子やテーブルなんかがある。




そこを通るとき、

やはり病院とは思えないさわやかすぎるハーパン姿の男が

足を投げ出してゆったり座っているのでなんだか笑ってしまった。









カフェに行って俺はぼんやりメニューを眺めていた。





友人の泣き顔がちらつく。







その時、俺のテーブルの前に

男がこっちに向かって立っているのに気が付いた。




俺はその足を見た瞬間にさっき椅子にいた男だとわかった。




ハーパンから出た足は日に焼けて骨にそってまっすぐ光の筋が通っていて

サンダルは革のいかにもブランドものという感じだった。






「ganさん?」






俺は男の顔を見上げた。



そして頭の中で仕事関係の人間の顔を必死で検索し始めた。






俺は人を見分けるのが非常に苦手なので

こういうとっさの時のあいまいな笑顔を作りつつ相手が誰かを探るのには慣れている。





「ああ!やっぱり!そんな頭してるからわからなかった!!」





そう言ってニッと笑ったその歯を見て思い出した。





Aだ。