「ボクたちは在日なんだよ」
直人が言った。
在日・・・・・?
オレは関西育ちだ。
関西では、
「在日問題」は、
生活に根差した問題だ。
身近に、
「部落問題」がある。
学校でも、
「差別」
「虐め」
それらの問題はついてまわる。
だからか、
小学生から、
この問題を授業で扱ったりもする。
・・・・しかし、
このド田舎、
雪国では、聞いたことがなかった。
オレ自身も、
全く考えること、
目の前にしたことはなかった。
・・・・・・確かに・・・・
そう言われれば、
学校での、
直人のグループには、そんな感じがあった。
「感じがあった」としか言えない。
雰囲気というか・・・・
具体的なものが示せることじゃない。
「直人グループ」
それは、
悪の工業高校の中。
明らかに、
「浮いた存在」だった。
全員が、
直人を筆頭に、
サラサラの坊ちゃん刈りヘヤーだった。
学生服は、
「中学生から着てるのか??」
そんな、
膝や、肘の浮いた・・・
・・・・なんというか、
簡単に言えば、
「びんぼーくさい」
そんな学生服を着た集団だった。
あっきらかに、
ニワトリ兄ちゃんたちからイジられる。
かっこーの「餌食」とされる生徒たちだった。
「在日」
・・・・・そうだったのか・・・・・
返事に困る。
何と言っていいのか、
言葉に困る。
「さんしーーーーん!!!」
頭上のテレビが叫んだ。
プロ野球中継。
オレがファンのタイガースじゃない。巨人戦だ。
このクソ田舎じゃ、
巨人戦しかテレビ中継はない。
満塁のチャンスに巨人の選手が三振していた。
・・・・・とりあえず・・・・
タバコに火を点けた。
店の客。
オヤジたちは、
酒を飲み、
肉を喰い、
赤ら顔でタバコを吸い、
画面の選手に声援をおくっている。
世界のホームラン王。
王選手が打席に入っていた。
「1本もらっていい?」
直人が言った。
驚いた。
ああ、
もちろん、
元々は直人のタバコだ・笑。
・・・・・笑い顔がひきつってるのが自分でわかった。
ライターで火を点けてやった。
ブランドもののライター・・・・・・PLAYBOYのロゴ・・・
このライターも直人から買ったものだ。
「・・・・・ボク自身は、3世だから・・・
言葉だって日本語しか喋れないんだけどね・・・・
日本で生まれて、
日本で育って・・・
全くの「日本人」でしかないんだよ・・・・・・
でもね・・・・」
オレは、
ぬるくなった、
ほとんどなくなったお茶を飲んだ。
煙を吸い込んだ。
吐き出す。
「・・・・でもね・・・・
外国人なんだよ・・・・
登録をさせられるんだ。
外国人としての登録・・・・
毎年毎年だよ。
生まれてから、ずっとだよ」
直人が煙を吐き出した。
煙草を吸っている。
カッコだけじゃなかった。
ニコチンを肺深くまで吸い込んでいる。
笑顔はない。
いつもの、
ヘラヘラとした、
へりくだった笑顔はない。
一重の、キリリとした眼元。
・・・・・これが直人の素顔なんだと思った。
本当の直人の顔だ。
・・・・・オレは・・・・母子家庭で育った。
貧乏生活だった。
・・・・・しかし、
それが、いったい・・・・何だというのか。
目の前の直人。
おそらく、
こいつは、
オレなんかが想像もできない、
「地獄」をくぐってきている。
直人の、
「ヘラヘラ笑顔」
それは、
「仮面」だ。
この世の中を生きていくために身に着けた仮面だ。・・・・・いや、「戦闘服」だと言ってもいい。
その笑顔を顔に張り付け、
どれだけの苦難を乗り越えてきたんだろう・・・・・
麻雀。
直人は絶対に、勝負を降りなかった。
いつだって、「真っ向勝負」を挑んできた。
これが、
直人本来の姿なんだ。
お姉さんがやってきて、お茶を入れてくれた。
オレに笑顔を向ける。
直人の家の老婆がダブった。
年齢は全然違う、
しかし・・・・
なんというか、
直人に対しての接し方のようなもの、
そんな空気のようなものが、
・・・・・なんというか・・・
どこか、
「直人を守ろうとしている」
そんな空気を感じた・・・・・・
「打ったぁーーーーーーー!!!」
店内がドッと湧いた。
王選手がホームラン・・・・・満塁ホームランを打った。
球場の観客たち。
総立ちとなって湧いていた。
店内にも大きな歓声が上がっている。
オレと直人だけが、別世界にいた。

