県道。

真っ暗な道をライトが切り裂く。

 

 

家の前に MIDNIGHTSPECIAL を停めた。

 

 

ガラガラと玄関が開いて、麻衣子が出てきた。・・・・ら、後ろから高子もだ。

 

 

「カァくん寄ってく?」

 

 

聞き終わる前に麻衣子が後ろに乗ってる・・・・ヘルメットを被る。

明るいブラウンのパンツルック。長い脚・・・7分袖、グレーのジャケット。・・・・なんだか、高そうだなぁ・・・

 

 

「カァくん、行って!」

 

 

エンジンも止めてない。

玄関先の高子に片手を上げ、そのまま走り出した。

 

 

県道。

いつもながら交通量は少ない。

バイパスができてから、こっちを使う車は全くといっていいほどなくなった。

お腹に回った麻衣子の腕。背中にくっつく麻衣子の体温に汗ばむ・・・

 

バイクだ。

危険という意味もある。

麻衣子は遠慮しないでオレに摑まっていた。

 

・・・・けっして甘い感触なんかじゃない・・・どこか、姉弟のそれだ。

 

まったく、男としてはみられていないのが伝わってくる。

 

 

20分走って大きな公園に着く。

野球場、テニス場、プールが見える・・・・そうだ、並びには陸上競技場がある。

市のスポーツ施設が全て集まったところだ。

他にも体育館があって・・・弓道場まである。

 

 

喧騒。

歩いてる、人、人、人・・・・

小さい子の手を引いた母親。・・・・お爺ちゃんにお婆ちゃん・・・

人混み・・・・そして自転車の群れ・・・・

 

 

陸上競技場の脇、駐輪場に MIDNIGHTSPECIAL をとめる。

ごったがえしたように多くの自転車がとまっている。

 

バイクを降りれば、ムッとした熱気だ。じっとりと汗ばむ。

リストバンドで汗を拭った。

 

 

「なんか買ってこう。喉渇いた」

 

 

ヘルメットをとって笑顔の麻衣子が言う。

 

 

卒業して、就職した。

 

就職していた・・・・

 

 

「就職するのか?」

 

 

どっか、麻衣子と「就職」の文字が繋がらない。

 

労働というものと、麻衣子は繋がらない。

 

生活感ってやつをまるで感じない。

本屋に並んでるファッション雑誌の住人ってか・・・・そんなきらびやかな雰囲気しかない。

 

それでも高校生の時は、一応制服がメインなわけで、・・・・それが、卒業して、当たり前だけど、私服がメインだ・・・・ってか、それだけだ。

いっきにアカぬけた。

髪型、化粧・・・・全てでアカぬけてしまった。

 

もともと、同い年には見えなかった。・・・・まぁ、学年が、イッコ上、お姉さんだったこともあるけど・・・・そんなことから、一緒にいたところで、どーみても、女子大生の姉ちゃんと、汗臭い高校生弟って感じだった。

 

それが、今では・・・・一気に、東京でOLやってるお姉さんと、田舎の工業高校生って絵面になった。

 

 

就職したのは大きな会社だった。

誰でも知ってる大きな会社。一流企業ってヤツだ。

 

・・・・まぁ、その「工場」なんだけどね。

 

 

山の方には「工業団地」があって、有名企業の大きな工場が並んでいる。

そのいっこに就職していた・・・・

製造ライン工場。

白衣を着て作業してるらしい。・・・・・ぜってー似合わねぇーーーー笑。

 

勤まるとも思えないな・笑。

 

 

並んで歩き出す。

 

少し歩けば「自販機コーナー」がある。・・・・勝手知ったるなんとやら、だ。

 

中学、高校・・・この陸上競技場に通った。・・・・まぁ、高校は、ほっとんど顔出してないけど・笑。

 

それでも、中学時代は、日々の全てをかけて・・・・「青春」ってやつだったんだなぁ・・・・笑。

 

血と、汗と、涙を流した場所だ。

 

陸上競技場のことなら、その周りの事なら何でも知ってる。

どこに自販機があって・・・・どこにラーメン屋があって・・・どこなら隠れて煙草が吸えるか・・・

 

 

・・・・すこし歩けば、いろんなメーカーの自動販売機がメッチャ並んでるところがある・・・・

 

ったら、すんごい人だかりだよ・笑。

 

まぁ、みんな、ここでジュースを買うよな・笑。

 

なんたって、都会では当たり前に存在する「コンビニ」は、まだない・笑。

 

 

各自販機に「列」ができてる・・・・っても、3人とかだけど。

買ったジュースを飲んでる人たちもいる。・・・・だから、教室いっこぶんくらいの人溜まりになってる。

 

 

ガヤガヤ・・・喧騒・・・・

 

麻衣子が並んだ。

 

任せよう。

オレは、列から少し離れた・・・・暑っつい・・・・もう、8月も終わる・・・・ここんとこ、夜は涼しい風も出てたんだけどなぁ・・・・

 

 

「カァくーーーん、何飲むのぉーーー?」

 

 

声でけぇよ。・・・・ったく・・・・

 

自販機に近づく・・・・・視線を感じる・・・・・

 

 

「あ!」

 

 

列に志村が立っていた・笑。

・・・・・紺野も・・・・・沖永、南原・・・・東もいた・笑。

 

 

 

・・・・・そういやぁ・・・・

 

沖永に、一緒に行こうって誘われてたな・・・・

 

 

 

「し・・・・親戚だったんですか・・・・」

 

 

志村の驚いた顔だ。

 

志村が敬語を使っている。

 

志村は 麻衣子 を知っていた。・・・・そう、地元じゃあ、有名な「美人女子高生」だったからな。

たぶん、志村は県下の美人女子高生とか、可愛い高校生とか・・・・みーーーんな頭に入ってるんじゃねーかと思う・笑。

 

・・・・まさか、麻衣子がオレの親戚だとは・・・・・呆然とした、ポッカーーーンとした顏で驚いてる・笑。

 

 

志村と麻衣子が喋っている。

 

志村の隣に紺野。・・・・紺野は、麻衣子と会ったことがある。オレのアパートに遊びに来ていた麻衣子と会ったことがある。

それで、まぁ、志村との会話にてきとーに入っている。それでも、麻衣子を眩しそうに見てる。

 

 

その他、

南原、沖永、東は黙って見てるだけだ。・・・・眩しそうな視線を麻衣子に向けてる。

 

黙って、ジュースを飲んでる。

 

 

「ここは、お姉さんが出してあげるからねー」

 

 

麻衣子が全員にジュースを奢ってくれた・笑。

 

 

「綺麗ですね・・・・」

 

志村が言う。

こんな台詞をサラっと言ってしまう・・・・そうか、こいつは、こーやって何人もの女の子を「毒牙」にかけてきたわけだ・笑。

 

麻衣子のことを知っていた・・・・有名だった・・・そんな話を志村が懸命に喋ってる。・・・・それでも、落ち着いた喋り方だ。決して舞い上がったりはしてない。・・・・ちゃんと、世間話を・・・・そして、相手を飽きさせない。

麻衣子も笑顔で頷いてる・・・・麻衣子は、どちらかと言えば「人見知り」だ。すぐに誰かの後ろに隠れてしまうような女の子だ。

それを、ここまで笑顔にするってのは・・・・やっぱ、志村ってすげぇー・笑。

 

伊達に

 

「女の敵!」

 

中学、高校と呼ばれてきたわけじゃない・笑。

 

 

・・・まぁ、絵面としては、かなりオカシイ。

 

志村は、オレよりもさらに背が低い。

 

麻衣子と志村。

 

パッと見には、10cmは麻衣子の方が背が高い。

 

でも、この背の低さ、脚の短さが、逆に、女の子の警戒感を下げる武器になってるのかもしれない・笑。

 

 

 

麻衣子は、同じ歳だ。

 

生まれた年は同じだ。

 

ただ、麻衣子が「早生まれ」なだけ。

 

それでも、圧倒的な「差」があった。

 

同じ高校生の時でも、学年がいっこ違う・・・それは天と地ほどの違いだ。

 

 

そして今・・・・

 

 

麻衣子の横顔。

 

綺麗だった・・・・

 

アイシャドウ・・・・そしてリップの入った美しい唇・・・

 

大人だった。

 

田舎の汗臭い高校生と、大人の女だった。

 

天と地の違いだ。

 

背が高い。・・・・多分オレと同じくらいなんだと思う・・・・

 

オレは中学校2年生で身長は止まっちまったからな・・・

 

少しヒールの高い靴を履いている・・・

そのぶん、間違いなく麻衣子の方が背が高い・・・・そして足が長い。

 

 

 

みんなでゾロゾロと歩く。

人波が、みんな同じ方向に歩いて行く。

 

大きな公園というより、「森」といった感じだ。

 

真っ暗だ・・・・

 

時折の小さな外灯の光。

 

ザワザワとした喧騒の中、ふたり並んで歩く。

前には志村と紺野。

うしろには南原、沖永、東がいた。

 

 

ドン!

 

 

腹の底に響く音。

 

 

一気に空が明るくなった。

 

 

赤、緑、青・・・・大きな円を描く・・・・

 

火花が散っていく・・・・

 

 

パチパチパチ・・・・弾ける音・・・・灰が降り注いでくる・・・・・

 

 

真上に花火が上がる。

 

 

市の花火大会だ。

 

夏の風物詩だ。・・・・・毎年、こいつで夏休みが終わる。夏の締めくくりの行事だ。

 

 

ドン!

 

 

ヒュゥー・・・・・

 

火の球が上がっていく・・・・・そして弾ける。

 

赤、黄、青・・・・大輪の花を咲かせる。

 

 

高校3年生。

 

この田舎で迎える、最後の夏休みが終わる。

 

 

紺野、志村、南原、沖永・・・・そして東。

 

そして麻衣子がいた。

 

 

みんなで花火を観た。

 

 

高校生。

最後の夏の思い出。