今日はBMJから、ナーシングホームにおける臨床試験
Efficacy of treating pain to reduce behavioral disturbances in residents of nursing homes with dementia: cluster randomised clinical trial


P: ノルウエー、18のナーシングホームにおいて、中~重度の認知症のある人=352人
I: 段階的な、 SYSTEMATICに鎮痛剤を使用。8週間の治療+4週間のフォロー=計12週
C: 通常のナーシングホームケア
O:
primary- agitation(Cohen-Mansfield agitation inventory)
secondary
aggression (scores on neuropsychiatric inventory-nursing home version)
pain (scores onmobilisation-observation-behaviour-intensity-dementia-2)
activities of daily living
cognition (mini-mental state examination)

Design:クラスタ・ランダム化試験◆ランダム化試験において症例割り付けを個人単位でなく施設・月などの集団で行う方法~今回はナーシングホームのウイングごと(4東、4西など)に分けられた。(こうすることで、介入群と非介入群それぞれに対応しているナースなどがまぜこぜにならない。そう、ナーシングホームでは急性期病院に比べ、1看護師に対しての患者数が数倍です=ウイングひとつ任されることよくあり)


Result:
agitation score : -17%, (treatment effect estimate 7ポイント 95% CI 3.7 to 10.3)
ADLや認知機能には大きな差出ず。
鎮痛薬による副作用(消化器系症状、傾眠傾向など)は殆ど見られなかった。


これもいろいろと興味深い論文です。
1.systemiatic に鎮痛剤を使った。
このシステマティックという言葉。聞こえはいいですが、要するに
a.今投与されている鎮痛薬を調べる
b.それを増量、もしくは他の鎮痛薬を追加
というわけです。基本的にはacetaminophenから始まりopioidが使われています。
そう、選ばれたクラスターグループの人々は全員鎮痛薬が増量(追加)された、ということ。
そして、そこには個々人それぞれに特別な痛みの評価をしたわけではないということ。(通常に行われている、痛み評価はおこなっている。)

2.で、結果は介入クラスターのほうがagintationなどが減少。心配された副作用も少ない。


つまり、隠れた痛み、評価しきれていなかった疼痛があったと予想できるわけです。
認知症においては、さまざなな理由から身体的な痛みを評価することは難しくなります。(会話によるコミュニケーションがとれない、など)
それを打開する上で、ひとつの重要な方針をサポートしてくれる論文でした。

もちろん、理想はこのクラスター試験をしても、有意差がないナーシングホーム診療=個々人にあった疼痛コントロールがすでにされていることです。
今日はNEJMから。
Relationship between Quality of Care and Negligence Litigation in Nursing Homes

なかなかトゲのあるネーミングですが、そのままです。

簡単にまとめると
P: アメリカ全土に展開する5つの大きなナーシングホームグループにおいて
E: qualityが悪い施設や、ある期間では
C: 5つのグループのみ、アメリカ、その他色々。
O: 訴訟の件数
がどう関係するか、です。
こういう関係の論文は交絡も多く、質?といった定義もどの程度相関するか判断が難しいです。Discussionの部分でも触れています。

さて、結果はパッとしないのですが(もちろん、おそらく色々な理由で)、興味深い点が。
そう試験そのものの結果より時代の変化が、、、すごい。

1、一件の訴訟(和解案も含め?)$ 199,794
2、ナーシングホームに対する訴訟が激減
1998年には1.5件/1000人-年だったのが
2006年には0.3件/1000人-年に。8年で5分の1です。

いったいなにが起きたのか。
考えられるのはナーシングホーム業界の激変です。
そう、アメリカのナーシングホーム事情はこの10年、20年で激変しました。色々な法的整備と規制がはじまり、今ではもっとも規制の厳しい医療産業とまで言われるほどです。

昨年末からはMDS(Minimal Data Set)がバージョンアップされ、さらに細かな、膨大なデータを四半期ごとに取らなければならなくなりました。今までのMDSの何倍もの量です。
MDSはメディケアという高齢者保険うメディケイドといわれる低所得者保険を利用して入所できるナーシングホームが義務として集めなければならないデータです。
利用者の生活状況、機能、精神・社会状態、拘束、転倒、体重減少、褥瘡など多岐にわたる項目を調べ州に報告し、その後一般公開されます。

日本の場合はどうなっているのでしょうか。比較するといろいろ見えてくることがあるかもしれません。
今、日本の介護保険制度についても勉強中。一律10%ですか、、、財源がいつまで持つか、我慢比べです。


アメリカといえば現在読中の街場のアメリカ論
”「私たち」はつねに「誰か」にとっての「私たち」なのである。他者からの視線を媒介しないアイデンティティというものは存在しない。” ヘーゲルの言葉を借りたまえがきで始まるこの本。
アメリカについて語ることが、億劫になってきました。そして、面白い。ぜひどうぞ。


街場のアメリカ論 (文春文庫)/内田 樹

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Bisphosphonate Use and the Risk of Subtrochanteric or Femoral Shaft Fractures in Older Women


JAMA から興味深い論文を紹介。
カナダのオンタリオにおけるビスフォスフォネートの使用とAtypical fracture (ここではSubtrochanteric かfemoral shaft fractureをさします)の関係を追った観察研究。

P: 68歳以上の女性
E:ビスフォスフォネートの使用(期間)
C: 交絡
O: atypical fracture
です。

観察された結果としてはビスフォスフォネートは長期間使用するほど
-大腿骨頚部骨折が減少
-atypical fracture の増加
です。

?骨折が減って、骨折が増える。なんだか分かりにくい結果のようですが。
発生率の違いも興味深いのでぜひ、数字とにらめっこです。

この論文からは色々興味深いデータと疑問が問いかけられています。

一対一対応の骨粗鬆症治療の終焉が見えた
骨粗鬆症にはビスフォスフォネート、DEXAでT score が-2.5ならビスフォスフォネート。。。というプラクティスもあるのですが、それとはおさらばするときがずいぶん近づいているようです。おそらく、ビスフォスフォネートで
a.  減らせる大腿骨頚部骨折
b. 増える非典型的骨折
c.  抱える副作用など
をバランスよく考えて最大限恩恵を得る人にのみ、より慎重にビスフォスフォネートを使用することになると思います。(もちろん個人の価値観も考慮しなければいけませんが、とりあえず骨折したい!というひとは稀かと。)

簡単には“減らせる骨折が、増えるかもしれない骨折より多く、煩雑な薬の服用法や、その副作用(食道炎など)のリスクを飲み込める人。”
なんだか当たり前のことを言っているようですが、これがまた難しい。
減らせる骨折はFRAXスコアやいくつかのRCTから予想して、増える骨折は今回のデータを参考にといった感じでしょうか。

まだまだ知りたいことは山のようにあります。
1.運動頻度、Ca・VitDの使用、BMI、喫煙などのデータがなく、どんな人にatypical fracture が多かったのかイマイチイメージがつかめないこと。

2.同じ骨折といえど、頚部骨折とSubtrochanteric/Femoral Shaft fracture手術のcomplication, その後の予後・回復/リハビリはどのように違うのか?

など今後のデータを待ちたいところです。

かといって、指をくわえて待っていられない臨床の現場。一人ひとり丁寧にヒストリーをとってリスク&ベネフィットを考えてゆくしか(やっぱり)ないのですね。
そして、いざ始めてもいつやめる(休止する)のか。悩ましいです。
Phantom Limb Pain: Theories and Therapies

幻想痛と訳されることもあるそうですが、
四肢や体の一部を失ったことにより(外傷や手術)、もと四肢や体の一部があったところからあたかも痛みなどのさまざまな不快な感覚を感ずることです。

16世紀にフランスの軍医が報告し始めたとされています。
今月はVeterans affairs呼ばれる兵役をリタイヤした方々のための機関関連の療養施設で研修中のため、このPhantom Limb Pain (PLP)によく遭遇します。

ということで、最近のリビューを読んでみました。
日本のメディアで取り上げられたこともある、Mirror Therapy (鏡に健側の四肢を写して行う治療法:Mirror Therapy for Phantom Limb Pain NEJM2007)も出てきました。
薬物療法に関するデータは十分そろっていないと、鎮痛剤によるもののデータも千差万別とのことでした。
難しいですね。



アジア料理が格別おいしいハワイからの一品
タイ料理のグリーンカレーです。辛クリーミーがたまりません。

$バックパッカーの軌跡
なぜ専門医はいるのでしょう。なぜ専門科に細分されたのでしょう。こんな声にこたえるArticle.
NEJMに寄稿された
Specialization, Subspecialization, and Subsubspecialization in Internal Medicine

アメリカにおける内科の専門科、細分化について分かりやすく経緯を説明してくれています。日本のレクチャーでも“なぜGeriatric Medicine が生まれたか”について話したのですが、いくらか同意できる箇所がいくつもありました。

“ Conversely, disciplines such as geriatric medicine, palliative medicine, and hospital medicine are based on clinical needs and the organization and delivery of care rather than on organ system”

そうです、必要は発明の母ですね。
今後を見据える上で、過去、歴史を振り返ることは本当に興味深く、大切だと思いました。

$バックパッカーの軌跡