
「浮雲」1955年公開監督:成瀬巳喜男
原作:林芙美子
主演:高峰秀子
なんと凄い映画だ。見終わった後、こんなにもむせび泣いたのは初めてだ。
溜めに溜めた重い鬱屈した感情を、最後の最後で堰をきったようにすべて吐き出して涙に変えてしまった。
それにしても回想シーンで出てくる仏印でのまばゆく若々しい笑顔を発する彼女(高峰秀子)と敗戦後の日本で、先の見えない現実に苦しめられる彼女とはまったく別人のよう。
あの唯一の輝く笑顔が極めて深く印象に残る。演出が効果的だったし、それが泣ける要因だったのかな。
もちろん見ているうちに高峰演じるゆきこに情が移ったせいもあるわけだが、そうさせる彼女の演技力が素晴らしい。

この映画をみて、高峰秀子に惚れない男はまずいないだろうね。
そう言や、かなり昔、裸の大将のように放浪してた頃のはなしだが、僕は自殺者志願者に間違えられたことがある。
どうにかたどり着いた本州の北のはずれ、青森下北半島の仏が浦。
断崖を背に小さな神社のお堂があって、日も暮れ、寒かったので、僕はそこで一夜を過ごそうとして、中に入り仏像の如く座っていた。
だけどその安らぎを打ち破るように突然、引き戸があいて男が入って来た。
「自殺なされる方が多くてね。こうして見回りしてる。兄さんもかい?」
どうやら役人らしい。
「いえ、違います」
「とにかく、町まで車で送るから」
というわけでこっちの話しも聞かず、強制送還されちまった。
確かに死に場所としてはあらゆる条件が揃って文句のない場所だったが。

ここは北の果て、
さすがの海鳥たちも容易には飛行できぬ
仏のかたちした岩巖が立ち並ぶ浜には、
ケモノの屍骨、荒れた波と風に白くなるばかり
遥かな海をのぞむ仏岩の懐入れば、
月光の如く薄明かり、白い砂庭を照らす
永劫の沈黙と
海鳥の羽根一枚、ひそやかに舞い降りる

