「ワシントン広場の夜は更けて」という曲が私が子供だった頃はやりました。

ヴィレッジ・ストンパーズというアメリカのバンドの演奏でした。

わたしがレコードを買い始めたもっとも初期にあたり、このレコードの４５回転のシングル盤を買いました。原題はWashington Square と言いました。

（誤解を避けるために書いておきますが、ワシントン広場はワシントンではなくニューヨークにあります。ちなみに、仙台堀は東京に土佐堀は大阪にあります。）

（この写真はワシントン広場ではありません。本物のワシントン広場の写真がないのでたわむれに無名の広場をアップします。）

この曲が最近もテレビコマーシャルのバックで流れていて懐かしくなります。

バンジョーが旋律をかなでるディキシーランドジャズ風な器楽曲です。
ただし、日本では器楽曲だけではなく、そのメロディーに歌詞をつけて何組ものグループが歌って、これもヒットしました。

歌詞は今ではうろ覚えですが、「黒い落ち葉がただひとつ」とか「夜霧に浮かぶ月明かり」とか夜の情景が歌われていました。

まさに、ワシントン広場は夜が更けていました。

そのせいか、バンジョーの音色もどこか物寂しく感じたものです。

ところが、さきに示したように原題は場所の名称だけで、時間・時刻を示す言葉はどこにもないのです。

今回、気になってネットで調べてみると、器楽曲としてヒットした後、作曲者たちが新たに歌詞をつけて別バージョンでこの曲がリリースされたようです。

その英語の歌詞を見るとどこにも深夜の情景はなく、逆にワシントン広場には全国から人が集まって歌っている、みんなで日曜の朝に集まろうというようなところがありました。

言ってみれば、明るい朝の歌ではないでしょうか。

そう思って聞けば、バンジョーの奏でるメロディーも明るく聞こえてきます。

６０年前にこの曲が流行ったころの「時代の感性」は、この曲を過度にセンチメンタルに受け止め、原題では何の言及もないのに、夜ふけにしてしまったのでしょう。

外国の音楽、映画、文学などの邦題には、原題との相違に説明がつかないような、単に売り上げ増加だけを目指したようなものが多数ありました。

わたしは、若い頃からこの現象に辟易していました（ただし、原題以上に素晴らしい邦題もありましたが）。もちろん今もそうです。

ワシントン広場の夜は更けていない