映画『上海伯爵夫人 』、Bunkamura ル・シネマ他にて全国拡大ロードショー

公式ホームページ、http://www.wisepolicy.com/thewhitecountess/


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ところで、丁度この1936~1937年 あたりの時代を舞台にした映画『上海の伯爵夫人 』(監督:ジェームズ・アイヴォリー 、出演:レイフ・ファインズ 、ナターシャ・リチャードソン、真田広之 (注1))が10月28日 から公開(bunkamura ・シネマ他にて全国拡大ロードショー )されています。この映画は英国人作家カズオ・イシグロ日本人 だが英国に帰化した作家/これも同じ監督で映画化 された名作『日の名残(なごり)』で英国最高の文学賞 であるブッカー賞 を受賞/注2)が脚本を書き下ろした、名匠ジェームズ・アイヴォリー 監督(注3)の最新作です。1936年 、上海の租界地区のクラブレイフ・ファインズ (注4)が演ずる盲目の米国人外交官 が経営)に集う謎めいた人々、共産党 員、国民党 員そして日本人 ・・・。この時代のエキゾチックな雰囲気の大都会 ・上海の風景をアイヴォリー監督はノスタルジー に満ちた映像美で再現します。ストーリー は、このように極東全体に暗雲が漂い始めた頃の上海を舞台にした盲目の米国人外交官伯爵夫人 (ナターシャ・リチャードソン、注5)の深い愛の物語ですが、ラストシーン では戦争の悲惨さ、愚かしさがリアル に痛々しく描かれます。

この主人公 たちに絡む謎の人物・マツダ を演じる真田広之 は、彼が主演した映画『亡国のイージス 』(注6)での先任伍長イージス艦 の現場と全ての機能を熟知したプロフェッショナル の役柄)や『たそがれ清兵衛 』(注7)の役柄、つまり彼がプロであるからこそ誰よりも人間的な目で現実と向き合って生き抜くという役柄を再び好演しています。ジェームズ・アイヴォリー 監督はアメリカ人 ですが英国のロンドンを拠点に活動しており、ハリウッド 的な映画文法に距離を置く人物です。彼は非常に個性的な多くの傑作を手がけていますが、中でも『眺めのいい部屋 』(1986年 作品、出演: ヘレナ・ボナム・カータージュリア ン・サンズ、ダニエル ・ディ・ルイス(注8))、『ハワーズ・エンド 』(1992年 作品、出演:アンソニー・ホプキンス 、ヴァネッサ・レッド グレーブ(ナターシャ・リチャードソンの母/注9)、『日の名残』(1993年 作品、出演:アンソニー・ホプキンスエマ・トンプソン (注10))などの人間存在を重厚に、そしてしっとり と描いたリアル で稠密な映像美が忘れられません。

(注1)http://www.walkerplus.com/movie/report/report4522.html

(注2)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%BA%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%AD

(注3)http://moviessearch.yahoo.co.jp/detail/typs/id10237/

(注4)http://moviessearch.yahoo.co.jp/detail?ty=ps&id=41237

(注5)http://csx.jp/~piki/richardson-p.html

(注6)http://aegis.goo.ne.jp/story.html

(注7)http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000083YBU

(注8)http://coda21.net/eiga3mai/text_review/A_ROOM_WITH_A_VIEW.htm

(注9)http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00005L95F

(注10)http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000CEGVV6

映画『上海の伯爵夫人 』のマツダ日本軍スパイ ですが、彼自身の心中には国を想う心と自分のミッション に対する強い誇りがあります。一方でマツダ は、祖国・日本のためとはいえ自分の目の前にある美しい上海の街を焼いたり、友情を交わすアメリカ人 の元外交官 ジャクソンと伯爵夫人 ソフィア を裏切るようなことに酷く心を傷め悩み抜きます。この映画でもそうですが、ジェームズ・アイヴォリー の映画の主人公 たちにはある共通した特徴があります。彼らは、たとえどのような星の下にあるとしても、常にひた向きに、そして誠実に自分の目前のリアリティーを凝視し、いつでも相手や周囲に対して十分過ぎるほどの思いやりを持つことができる強い人間として生き続けるのです。

例えば、『日の名残』のスティーブ ンス(アンソニー・ホプキンス )は斜陽貴族である主人ダーリントン卿に仕える執事ですが、彼は自分の残された人生を徹底的にプロフェッショナル に、そして不器用 なほど誠実にプロとしての自分が見える現実に向き合って生き抜こうとします。これらの映画には、いわばジェームズ・アイヴォリー 監 督の人生観のようなものが投影されており、それが英国の良き伝統を象徴する個性的で華麗な映像美を通し鑑賞者の胸中に迫ります。それがアイヴォリーの映画 ファンにとって堪らないほどの魅力になる訳です。そして、敢て一つのコトバで言い表すならば、それは、人間なら誰でもが自分なりの「diginity」 (誇り、品位、気品、尊厳)を大切にするべきだということです。それこそが、普通の人々 にとってのリアリズム であり、そのような意味を理解して生きることが人間の本当の幸せなのだとアイヴォリー監督は主張しているように思われます。


http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20061031

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