『動物農場:おとぎ話』ジョージ・オーウェル作1945年
Animal Farm: a fairy tale
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動物農場


《主要登場動物/人物》
「動物人物」
メージャー爺さん(豚):革命の予言者
スノーボール(豚):革命の指導者。後に亡命。
ナポレオン(豚):革命の指導者。後の独裁者。
スクィーラー(豚):悪賢い宣伝係。
ボクサー(雄馬):頭は悪いが、忠実で律義な働き者
クローバー(雄馬):愛情深い、ボクサーの共感者。
ベンジャミン(ロバ):農場きってのインテリ(知識人)

ジョーンズ氏(人間):「荘園農場」の持ち主
ビルキントン氏(人間):フォックスウッド農場主
フレデリック氏(人間):ピンチフィールド農場主


《あらすじ》全10章(尚、引用は、《 》で括り、赤色文字にする。)

第1章:荘園(しょうえん)農場のジョーンズ氏が眠ると、農場の建物から動物たちが大納屋に集まった。尊敬されていたメージャー爺さん(豚)が見た不思議な夢のことを話すと伝えられていたからである。
 動物たちが集まってから、メージャー爺さんは、夢のことを、ひとまずおいて、自分の死期が近づいたことを感じているので、動物たちに、自分の知恵を話すことにした。
 それは、動物たちが、豊かな土地がありながら、貧しい生活を強いられているのは、人間のせいであり、人間を追放すれば、自由の身になるだろうというような話であった。
《『人間』だ。『人間』こそ、われわれの唯一の、真の敵である。人間をこの農場より追放せよ。しからば、飢餓(きが)と過労の根源は、永久にとり除かれるであろう。「『人間』は、生産せずに消費する唯一の動物である。ミルクも出さなければ、卵も生まない。・・・」》p.11(『動物農場』高畠文夫訳 角川文庫:以下、同文庫から)

《ただひたすら、人間どもを追放せよ、しからば、われわれの労働の所産は、われわれの手に帰するであろう。ほとんど一夜にして、われわれは富裕にして自由の身となることができるのであります。しからば、われわれは何をなすべきか? それはいうまでもない、日夜、粉骨砕身、ただひたすら、人類打倒を目ざして邁進(まいしん)すること、これをおいてほかにはないのです! 同志のみなさ、これが、わたしのあなた方へのメッセージだ。決起せよ!》p. 13

メージャー爺さんの見た夢は、人間が追放された後に生まれてくる世界のことであったが、その夢のおかげで、古い歌『イギリスのけだものたち』を思い出したのであった。


イギリス、アイルランド、
万国のけだものたちよ、
きけ、輝く未来の
嬉しいわが知らせを。

暴虐人間の破滅のときが
やがてやってくるよ。
イギリスのみのりの野辺が
けだものばかりになるときが。

・ ・・》p. 17~p. 19


第2章
それから、三晩後に、メージャー爺さんは亡くなった。
《メージャー爺さんの演説は、農場のものわかりいい動物たちに、全く新しい人生観を吹き込んだのだった。メージャー爺さんの予言した反乱が、いったいいつ起こるのか彼らは知らなかったし、反乱が自分たちの生きているうちに、たしかに起こるのだ、と信じる根拠をもっていたわけではなかったが、早晩起こってくる反乱の準備をしておくのは、いわば、自分たちに課された義務であると、とういうことだけは、はっきりわかったのだった。同志を教育したり、組織を作ったりする仕事は、自然に豚が引き受けるかたちとなった。それというのも、動物の中でいちばん賢いのは豚だ、とみんなが認めたからである。その豚の中でも、断然群を抜いていたのは、ジョーンズ氏が売り物として育てている二頭の若い雄豚、スノーボールとナポレオンであった。ナポレオンは大柄で、どちらかといえば獰猛(どうもう)な顔付きの、バークシャー種の雄豚であった。・・・スノーボールの方は、ナポレオンよりも快活で、演説もうまくものを工夫する才能をもっていたが、ナポレオンのような性格の押しの強さがない、というのが通り相場になっていた。・・・その(食用豚)中でいちばん名前が売れていたのは、スクィーラーという、丸々と肥えたチビ豚で、まんまるいほっぺたと、キラキラ光る目と、敏捷(びんしょう)な動作と、キイキイ声の持ち主であった。天才的な雄弁家で、何か難しい問題を議論するときには、きまって右に左に跳ねまわり、しっぽをせわしなく振りたてる癖があった。》
p. 20~p. 21

この三匹が、メージャー爺さんの教えを思想体系にまとめて、動物主義と名付けた。《豚たちのもっとも忠実な弟子は、二頭の馬車馬、ボクサーとクローバーだった。》
 
6月のある日、動物たちに食べ物を与えることを忘れたため、動物たちは、飼料倉庫に入って、めいめい飼料を食べ始めた。ジョーンズ氏と四人の作男たちが、飼料倉庫へ駆け込み、動物たちをひっぱたき始めた。しかし、動物たちは、迫害者たちに飛びかかった。そして、動物たちは、ジョーンズとその一味を道路まで追い出してしまった。結局、反乱は成就して、ジョーンズは追放されて、荘園農場は、動物たちのものとなった。彼らは、農場の建物から、ジョーンズのいまわしい支配の道具、即ち、くつわ、鼻輪、犬の鎖、豚や犬の睾丸を抜くためのナイフ、等々を一掃し始めた。まもなく、動物たちは、ジョーンズ氏を思い出す種となるようなものを、全部焼き払った。そして、農場全体を視察して、感極まった。
 ある朝、豚たちが、読み書きの練習をしていたことを告白した。そして、スノーボールが、《前脚の二つの指関節の間に筆をはさんで、木戸のいちばん上の樹木の「荘園農場」の文字を塗りつぶし、そこへ「動物農場」と書いた。》p. 30

また、農場の大納屋(おおなや)の壁に梯子(はしご)をかけて、動物主義の原則をまとめた七つの戒律(かいりつ)、七戒を壁に書きつけた。《七戒は、タールを塗った壁の上に、三十ヤード離れたところからでも読めるような大きな白い字で書きつけられた。それは、次のようなものだった。

      七戒
一、 いやしくも二本の脚で歩くものは、すべて敵である。
二、 いやしくも四本の脚で歩くもの、もしくは翼をもっているものは、すべて味方である。
三、 およそ動物たるものは、衣服を身につけないこと。
四、 およそ動物たるものは、ベッドで眠らないこと。
五、 およそ動物たるものは、酒を飲まないこと。
六、 およそ動物たるものは、他の動物を殺害しないこと。
七、 すべての動物は平等である。》 p. 30~p.31


第3章
動物たちは、干し草の取り入れに一生懸命働いた。豚たちは、指導と監督に当たった。
《夏の間じゅう、作業は規則的にはかどった。動物たちは、今まで想像もしなかったほど幸福だった。ひと口ひと口の食物が、それこそ、からだの引きしまるような実感的な喜びだった。・・・、その食物が、・・・自分たちのために、自分たちが作った、まぎれもない自分たちのものだったからだ。役立たずの寄生虫的人間どもがいなくなったので、みんなの食物の割り当て分がぐっとふえた。・・・余暇も多くなった。彼らはさまざまな困難にでくわした! ・・・しかし、豚たちの賢明さとボクサーのすばらしい体力のおかげで、いつもなんとか切り抜けることができた。》p. 34~p.35

 日曜日は、仕事が休みだった。朝食後に、旗の掲揚が行われた。その旗は、ジョーンズ氏の妻の緑色のテーブルクロスに、白い蹄(ひづめ)と角(つの)を描いたものだった。スノーボールの説明では、旗の緑は、イギリスの緑の野を、蹄と角は、未来の動物共和国を示しているのであった。
 豚たちは、馬具置き場を本部として、そこえで、農場住宅からもってきた本を頼りにして、鍛冶屋の仕事、大工仕事、その他必要な技術を学んだ。スノーボールは、動物委員会を作るのに忙しかった。読み書き教室は、大成功であった。秋ごろまでには、ほとんどの動物が多少読み書きができるようになった。しかし、頭の悪い動物がいて、「七戒」さえ暗記できなかったので、スノーボールは、「七戒」を「四本脚はよい、二本脚わるい」に縮めた。
 次第に豚たちが、食料の一部を占有するようになった。スクィーラーが説明した。《われわれ豚は、頭脳労働に従事している。この農場の運営と組織は、すべてわれわれの双肩にかかっている。われわれは、日夜、同志諸君の福祉に心をくだいている。したがって、われわれがあのミルクを飲み、あのリンゴを食べるのも、ひとえに同志諸君のためなのだ。もしわれわれ豚が、その義務を果たすことができなくなったとしたら、いったいどういう事態が起こるか、諸君はわかるか? ジョーンズがもどってくるのだ! そうだ、ジョーンズがもどってくるのだぞ! それでいいのか、同志諸君》p. 42


第4章
《動物たちが自主的に経営しているすばらしい農場のうわさは、漠然としてゆがめられた形ではあったが広まりつづけ、その年のうちに、反乱の気分は、波のうねりのように州のすみずみまでもくまなくゆきわたった。》p. 45
よその動物たちが突如暴れ出したりした。
そして、『イギリスのけだものたち』のメロディーは、あらゆるところへ知れわたった。
 10月の初め、ハトの一群が、ジョーンズと作男全員たちが、農場へ通じている馬車道をやってくると伝えた。彼らが、農場を取り戻そうとやってきたことは明らかだった。スノーボールの指揮で、第1次攻撃、第2次攻撃が行われた。そして、人間たちが、中庭に入った瞬間に、スノーボールは突撃命令を下した。動物たちは、人間に仕返しをした。そして、人間たちは、敗走した。
 即席の戦勝祝賀会が開催された。そして、動物たちは、戦功勲章「動物英雄勲章功一級」の制定を満場一致で可決した。そして、これはすぐ、スノーボールとボクサーに与えられた。この戦争を「牛小屋の戦い」と呼ばれるようになった。なぜなら、牛小屋に待ち伏せしていたからであった。


第5章
一月になり、大納屋で、来春の作業計画を立てるのに忙しかった。他の動物たちよりは賢かったので、豚たちが農場経営に関する問題を決定した。スノーボールとナポレオンは、意見が対立した。特に、風車建設をめぐる論争が断然猛烈であった。
スノーボールは風車建設を主張し、ナポレオンは、食糧の増産を主張した。
 スノーボールの風車計画を実施するか、どうかを、総会で議決することになった。スノーボールは熱弁をふるい、動物たちからいやしい労働が取り除かれる「動物農場」の未来像を美しく描いた。
 ナポレオンが、犬たちを呼び、スノーボールを追い出した。
そして、農場の運営に関するいっさいの問題は、自分が議長をつとめる豚の特別委員会が決定すると宣言した。そして、スクィーラーが派遣されて、新しい機構を説明した。そして、スノーボールを大罪人と呼び、ナポレオンを賛美した。そして、忠誠と服従こそ、もっとも大事であると言う。知恵のないボクサーは、「ナポレオンはいつも正しい」という格言を唱えるようになった。
 スノーボールが追放されてから三回目の日曜日に、ナポレオンは、風車建設を行なうことになったと宣言して、みなを驚かせた。


第6章
その一年間、動物たちは奴隷のように働いた。
ある朝、動物たちが集められたとき、ナポレオンは、動物農場は、近隣の農場と取引することになったと述べた。そして、仲介人として、ウィンパー氏に頼むことになった。
人間たちは、動物たちの能率のよさに対して、敬意を抱くようになった。そして、動物農場を動物農場と呼ぶようになった。
その頃、豚たちが、農場住宅に移り、そこを住居と定めた。スクィーラーの説明は、豚たちは、いわば、農場の頭脳なのだから、静かな場所で仕事することが絶対必要であるということであった。
 11月のある晩、暴風が吹いて、建設中の風車が破壊されたのであった。そして、ナポレオンは、これは、スノーボールの仕業であると述べた。


第7章
スノーボールが侵入しているといううわさが、ひろがる。
次に、罪の告白と処刑が行われるようになった。
動物たちは、自分たちの間で、残酷な場面が起こることにショックを受けた。彼らは、互いにからだをくっつけ合った。
クローバーの目は涙がいっぱいだった。思い描いていた世界とは正反対の世界になった。
クローバーは『イギリスのけだものたち』を歌い出したが、スクィーラーがやってきて、同志ナポレオンをその歌を禁止したと伝えた。
それは、反乱の歌であり、もう反乱は終わったからだと説明した。


第8章
ナポレオンは「われらの指導者、同志ナポレオン」と呼ばれるようになる。
秋になり、風車が完成した。ナポレオン風車と命名された。材木の山を、ナポレオンはフレデリックに売っていた。しかし、売って手にした紙幣は偽札であった。動物たちは、フレデリック攻撃をした。フレデリックたちは、風車を爆発させた。動物たちの再攻撃があり、フレデリックたちは逃げた。


第9章
動物たちの生活は厳しくなっていったが、ジョーンズ氏の頃はもっとひどかったと言ってなぐさめたのである。
四月になって、動物農場は共和国宣言をしたので、大統領を選ばなくてはならなかった。ナポレオンが当選した。
ボクサーは弱り、屠殺業者が彼を連れていった。


第10章
何年か過ぎ、反乱以前のことを知っている者は少数になった。農場は、今や繁栄の一途をたどっていた。
《どういうわけか、動物たち自身は、前と比べてちっとも豊かにならないに、——といっても、もちろん豚と犬は別だが——農場はまえより豊かになっているようだった。》p.134~p.135
 動物たちは自分たちが動物農場の一員であるという自尊心と誇りをかたときも忘れなかった。
 初夏のある朝、クローバーのけたたましいいななきがあった。それは、一頭の豚が後脚で立って歩いていたのだ。それは、スクィーラーであった。また、農場住宅から豚たちが、二本脚で立ってやってきた。また、ナポレオンも二本脚でやってきた。
 一週間たって、農場住宅から、動物と人間の対等の立場での声が聞かれた。フォックスウッド農場のピルキントン氏は、乾杯の挨拶をする。彼は、動物農場に、模範とすべき規律と整然たる秩序を見たと述べた。「下層の動物たちは、・・・より多くの労働をしながら、より少ない食糧に甘んじている」と。
 それに対して、ナポレオンは、異議を唱えさせて欲しいと言った。あいさつで、動物農場と述べられたが、動物農場の名前は廃止されて、荘園(しょうえん)農場となったと述べた。乾杯が繰り返された。屋外の動物たちは、豚たちの顔が変化し出したのに、気付いた。農場住宅から騒々しい叫び声が起こった。
《豚の顔に何が起こったのかは、もう疑いの余地もなかった。屋外の動物たちは、豚から人間へ、また、人間から豚へ目を移し、もう一度、豚から人間を目を移した。しかし、もう、どちらがどちらか、さっぱり見分けがつかなくなっていたのだった。》