言語
詳しくは中つ国の言語 を参照のこと。
言語学 、言語に関する研究はトールキンの最も好きな学問だった。それが高じて約15の人工言語を発明するまでになった。中でも『指輪物語』の二つのエルフ の言語、「クウェンヤ 」と「シンダール語 」は特に有名である。更にこの言語が誕生した背景としての中つ国 に間する宇宙論 と歴史 までも詳細に創り上げている。
彼の専門であるアングロ・サクソン語 (古英語)や古ノルド語 に加えて、ウェールズ語 やゲール語 、フランス語 、スペイン語 、イタリア語 、その他のロマンス諸語 、古サクソン語 のようなドイツ語 やオランダ語 の初期の形のゲルマン諸語 、バルト語 、リトアニア語 やロシア語 のようなスラブ諸語 、その他多数のヨーロッパの言語に様々な水準で通じていた。個人的な手紙の中でトールキンは、特にフィンランド語 が彼の耳に心地よく響き、これがクウェンヤ の着想を与えたと書いている。クウェンヤはかれの発明した言語の中で最も重要とされる。
言語の面では本の人気以上に、以後のファンタジー文学の中で広く永続的な影響を残している。言葉の使い方、特にドワーフ の複数形を標準の「dwarfs」ではなく「dwarves」としたり、エルフ の形容詞形を「elfish」ではなく「elvish」と表記するのはもはや常識となっている。
関連作品
詳しくはJ・R・R・トールキンの影響を受けた作品 を参照。
1951年 のミルトン・ウォルドマンへの手紙(Letters #131)の中でトールキンは「多少なりとも繋がっている伝説」を創造した意図に関して次のように書いた。
「循環は威厳のある全体に繋がりながら、絵画および音楽およびドラマという手段で他の人たちの心や手が参加する範囲を残すべきである。」
多くの芸術家がトールキンの作品に触発された。トールキンが個人的に知っていたのは、ポーリン・ベインズ(トールキンの好きな『トム・ボンバディルの冒険 』と『農夫ジャイルズの冒険 』のイラストレーター)と、ドナルド・スワン(『道は続くよどこまでも 』に曲を付けた)だった。1970年代 初期、デンマーク のマルグレーテ2世 は『指輪物語 』のイラストを描いた。作品を贈られたトールキンは、女王のイラストと彼自身の絵の様式との類似点に驚いたという。
しかしトールキンは、生前に行われた彼の著作に基づいた別の分野の作品をほとんど評価せず、時にはこっぴどくこきおろした。
1946年 の手紙(Letters #107)では、ドイツ版『ホビットの冒険』ためのホルス・エンゲルスのイラストの提案に対して、あまりにもディズニー 的であると拒否した。
「たれた鼻のビルボ、わたしの意図したオーディン のような放浪者でなく下品な道化になってしまったガンダルフ。」
また彼はアメリカのファンダムの出現にも懐疑的で、1954年 にアメリカ版の『指輪物語』のブックカバーの提案に次のように回答している(Letters #144)。
「『宣伝文』の案を送ってくれてありがとう。アメリカ人は概して批判または修正に全く従順ではない。しかし彼らはたいして努力していないので、私が改善するためにかなり努力をせざるを得ないと感じる。」
そして1958年 、Morton Grady Zimmermanが提案した映画化構想に対し、いらいらした様子でこう書いている(Letters #207)。
「著者の焦燥(しばしば憤慨していること)を理解するのに充分想像力を働かせるようお願いしたい。彼は自分の作品が一般に不注意に、場合によっては無謀に扱われ、どこを探しても敬意の払われている印がないのに気付いている。」
この手紙には脚本の場面ごとの批判などがとうとうと続く(「またしても、けたたましい音や、ほとんど無意味な切りあいの場面である。」)。しかしトールキンは映画化という考えについて全く反対していた訳ではない。1968年 、彼は『ホビットの冒険』と『指輪物語』の映画化、上演権および商品権をユナイテッド・アーティスツ に売った。その際製作への影響を懸念して、将来にわたりディズニー が関与することを一切禁止した(Letters #13, 1937年 )。
「アメリカ人が心地よく見るために可能な限り(中略)、(わたしがその作品について心からの嫌悪している)ディズニー・スタジオ自身のものか、それに影響を受けたもの全てを拒否することを(中略)忠告しておいたほうがいいだろう。」
ジョン・ブアマン が70年代に実写による映画化を計画したものの、結局ユナイテッド・アーティスツは1976年 に製作の権利をソール・ゼインツ 社の傘下にあったトールキン・エンタープライズ に売却。ユナイテッド・アーティスツが配給にまわって最初に実現した映画化は『指輪物語』のアニメーション作品だった。ラルフ・バクシ 監督によるロトスコーピング 手法で製作され、トールキンの死後、1978年 に公開された。
その後『指輪物語』の配給権はミラマックス 社を経てニューラインシネマ 社に移り、2001年 から2003年 にかけてピーター・ジャクソン の監督によって三部作の映画 として初めて実写映画化され、娯楽性に重きを置いた内容で空前の大ヒットを記録した。
書誌学
創作
- 1936年 Songs for the Philologists, E.V. Gordon他と共著
- 1937年 『ホビットの冒険 』The Hobbit or There and Back again
- 1945年 『ニグルの木の葉』Leaf by Niggle Dublin Review誌に掲載
- 1945年 The Lay of Aotrou and Itroun, Welsh Review誌に掲載
- 1949年
『農夫ジャイルズの冒険』Farmer Giles of Ham
- 『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』2002年 ISBN 4-566-02110-6 所収
- 1953年 The Homecoming of Beorhtnoth , Beorhthelm's Son 論考 Ofermodとともに出版された
- 『指輪物語 』The Lord of the Rings
- 1962年
『トム・ボンバディルの冒険』The Adventure of Tom Bombadil
- 『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』2002年 ISBN 4-566-02110-6 所収
- 1964年
『樹と葉』Tree and Leaf
- 『妖精物語について』
- 『妖精物語について ファンタジーの世界』 猪熊葉子訳 評論社 2003年 ISBN 4-566-02111-4 所収
- 『ニグルの木の葉』
- 『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』2002年 ISBN 4-566-02110-6 所収
- 『妖精物語について』
- 1966年 The Tolkien Reader (The Homecoming of Beorhtnoth Beorthelm's Son, On Fairy Stories , 『樹と葉 』, 『農夫ジャイルズの冒険 』および『トム・ボンバディルの冒険 』)
- 1966年 Tolkien on Tolkien (自伝的)
- 1967年
『星をのんだかじや』Smith of Wootton Major
- 『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』2002年 ISBN 4-566-02110-6 所収
- 1967年 『道は続くよどこまでも 』The Road Goes Ever On, ドナルド・スワン と共著
学術的な著作
- 1922年 A Middle English Vocabulary
- 1924年 Sir Gawain and the Green Knight E. V. Gordon と共著
- 1925年 Some Contributions to Middle-English Lexicography
- 1925年 The Devil's Coach Horses
- 1929年 Ancrene Wisse and Hali Meiohad
- 1932年 The Name 'Nodens' (Report on the Excavation of the Prehistoric, Roman, and Post-Roman Site in Lydney Park, Gloucestershire所収)
- 1932年 /1935年 Sigelwara Land parts I and II
- 1934年 The Reeve's Tale (チョーサー の『カンタベリー物語 』の批評にHengwrt manuscriptを導入して、方言のユーモアを再発見した)
- 1937年 Beowulf: The Monster and the Critics
- 1944年 Sir Orfeo
- 1947年
『妖精物語について
』On Fairy Stories Essays Presented to Charles Williamsに掲載
- 『妖精物語について ファンタジーの世界』 猪熊葉子訳 評論社 2003年 ISBN 4-566-02111-4 所収
- 1953年 Ofermod, The Homecoming of Beorhtnoth, Beorhthelm's Sonとともに出版。
- 1962年 Ancrene Wisse : the Ancrene Riwleの英語テキスト。
- 1963年 English and Welsh
- 1966年 Jerusalem Bible (翻訳と索引を担当)
没後に出版された作品
- 1974年
『ビルボの別れの歌』Bilbo’s Last Song
- 『ビルボの別れの歌』脇明子 訳 ポーリン・ベインズ絵 岩波書店 1991年 ISBN 4-00-110613-2
- 1975年 Pearl (poem) と Sir Orfeo の翻訳
- 1976年
『サンタ・クロースからの手紙』The Father Christmas Letters
- 『サンタ・クロースからの手紙』 ベイリー・トールキン編 瀬田貞二訳 J・R・R・トールキン絵 評論社 1976年 ISBN 4-566-00228-4
- 1977年 『シルマリルの物語 』The Silmarillion
- 1979年 Pictures by J. R. R. Tolkien
- 1980年 『終わらざりし物語 』Unfinished Tales
- 1980年 Poems and Stories (『トム・ボンバディルの冒険 '』、The Homecoming of Beorhtnoth Beorhthelm's Son、『妖精物語について 』、『ニグルの木の葉 』、『農夫ジャイルズの冒険 』および『星をのんだかじや 』をまとめたもの)
- 1981年 The Letters of J. R. R. Tolkien Selected and edited by Humphrey Carpenter with assistance of Christopher Tolkien
- 1981年 The Old English Exodus Text
- 1982年 Finn and Hengest : The Fragment and the Episode
- 1982年
『ブリスさん』Mr. Bliss
- 『ブリスさん』田中明子訳 J・R・R・トールキン絵 評論社 1993年 ISBN 4-566-01321-9
- 1983年 The Monster and the Critics and Other Essays (論考集)
- 1988年
『樹と葉』Tree and Leaf
- 『妖精物語について』
- 『ニグルの木の葉』
- 『神話の創造』Mythopoetia
- 上記すべて『妖精物語について ファンタジーの世界』 猪熊葉子訳 評論社 2003年 ISBN 4-566-02111-4 所収
- 『1983年
–2002年
中つ国の歴史
』The History of Middle-Earth シリーズ
- I. 1983年 The Book of Lost Tales 1
- II. 1984年 The Book of Lost Tales 2
- III. 1985年 The Lays of Beleriand
- IV. 1986年 The Shaping of Middle-earth
- V. 1987年 The Lost Road and Other Writings
- VI. 1988年 The Return of the Shadow (『指輪物語の歴史』The History of The Lord of the Rings v.1)
- VII. 1989年 The Treason of Isengard (The History of The Lord of the Rings v.2)
- VIII. 1990年 The War of the Ring (The History of The Lord of the Rings v.3)
- IX. 1992年 Sauron Defeated (The History of The Lord of the Rings v.4)
- X. 1993年 Morgoth's Ring (The Later Silmarillion v.1)
- XI. 1994年 The War of the Jewels (The Later Silmarillion v.2)
- XII. 1996年 The Peoples of Middle-earth
- 2002年 The History of Middle-earth Index
- 1994年
Poems from 'The Lord of the Rings'
- 『「中つ国」のうた』 瀬田貞二・田中明子訳 アラン・リー挿画 評論社 2004年 ISBN 4-566-02381-8
- 1995 J. R. R. Tolkien: Artist and Illustrator (a compilation of Tolkien's art)
- 1995年 Poems from 'The Hobbit'
- 1997年
Tales from the Perilous Realm
- 「農夫ジャイルズの冒険」Farmer Giles of Ham
- 「トム・ボンバディルの冒険」The Adventure of Tom Bombadil
- 「ニグルの木の葉」Leaf by Niggle
- 「星をのんだかじや」Smith of Wootton Major
- 上記すべて、『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』2002年 ISBN 4-566-02110-6 所収
- 1995年
『クリスマスレター付き サンタ・クロースからの手紙』Letters from Father Christmas
- 『クリスマスレター付き サンタ・クロースからの手紙』 瀬田貞二・田中明子訳 J・R・R・トールキン絵 1995年 評論社 ISBN 4-566-00458-9
- 1998年
『仔犬のローヴァーの冒険』Roverandom
- 『仔犬のローヴァーの冒険』 クリスティーナ・スカル ,ウェイン・G・ハモンド 編 山本史郎訳 J・R・R・トールキン絵 原書房 1999年 ISBN 4-562-03205-7