「石頭」なんて言うように、石は「堅い」物という認識が昔からあるですね。
しかし岩石であってもハンマーで簡単に割れる物やなかなか割れない物、中には
指で強く握っただけで割れる物も。 特に鉱物では「硬さ」や割れ方は種類の判別や
宝石としてカット・研磨する際に重要な情報となります。 一方、古より勾玉などに
されていた翡翠は非常に「堅さ」が優れていますが、ご存知のようにあんな形に加工
されているのですよね・・・。 ここでちょっとそのあたりのご説明を。
ここでまず、「かたさ」という言葉の漢字に2種類出てきたのが判ると思います。
「堅さ」と「硬さ」ですね。 IMEの対義語の説明ではこうなります。
硬さ(Hardness)⇔軟らかい 堅さ(stiffness)⇔柔らかい(脆い)
英単語を翻訳しても漢字が適当に出てくるようなので意味の理解は不向きです。
ざっくりと言ってしまえば、硬さは傷つきやすさ、堅さは壊れやすさという事です。
具体的に例を挙げると・・・。
自動車のタイヤとガラス。
試しに鉄製の大ハンマーで思いっきり殴ってみましょう。 タイヤは跡はついても
壊れることはないと思いますが、ガラスはまず割れます。
次に、ナイフで切りつけるとタイヤは簡単に傷がつきますがガラスにはなかなか
傷つけるのが難しいのは想像できるでしょう。 前者を「堅さ」、後者を「硬さ」と
区別します。 鉱物種の判断基準としては「硬さ」があり、恐らくですが「堅さ」は
分類する上でのエビデンスを有していないのではないでしょうか。
鉱物の「硬さ=硬度」は、1812年に提唱された「モース硬度」が一般的には
未だに使われます。 様々な鉱物が1~10の段階で判断されますが、精密な
計測をした訳ではないので各段階のステータスは相対的です。 加えて段階の
中間に値するものについては例えば「0.2」「0.7」などの判断はなく全て「0.5」です。
つまり全ての鉱物が19段階のいずれかになるという事になってます。
現代の分析方法を用いればもっと詳細に区分できるのでしょうが、これで十分
なのでしょう・・・いろんな意味で(笑) 工業分野では修正硬度も使われるようです。
一般的なナイフやカッターは硬度5~7.5あたり。素材により変動が大きいので注意。
前出のガラスとタイヤの例でも判るように「堅い」物は割れにくく「硬い」物は割れ
やすいです。 ここで大切なのが鉱物の割れ方に固有の特徴があるという事です。
中でも特に重視されるのが「劈開(へきかい Cleave)」です。
これは鉱物が直線的に、つまり立体的な結晶ならば平面でまっすぐに割れるという
性質の事です。 これは分子構造に依存していて、立体的に結合している原子が
一定方向から見ると平面的に結合部分のみになる為に見られる現象です。 なので
種類によっては劈開のある方向が1方向とは限りません。 しかも分子結合の強弱
によって「平面での割れやすさの程度」というのもあるです。(汗
つまり、劈開を表す場合は一般的に「何方向にどの程度」と表記されます。
例を挙げながら説明しましょうか。
インクルージョン雑記3でも書きましたが、雲母の結晶は本来6角形板状・柱状に
なります。 しかしよく見かけるのは6角形のペラペラの物で、結晶であっても爪で
簡単にペラペラ剥がしていけます。 これはこの「1方向に完全」な劈開があると
いう性質によってこのような表現をとります。
(この1方向=C軸に対して垂直、なのですがこのへんは「結晶について(仮)」でお話します)
鉱物の結晶はある意味理想的な分子構造の結果ともいえるので、結晶の表面
(分子の端部)が劈開面と平行になる場合も多いです。 フローライト(蛍石)は
直方体や8面体等の結晶になりますが、4方向に完全な劈開があり、その方向は
8面体の結晶面と平行です。(平行な2つの面✕4方向) 海外の産地の中には、
塊上or不定形の蛍石を劈開で上手に割って8面体にしてお土産で売っているとか。
左; 蛍石の8面体。これは結晶面。(岐阜産)
右; 蛍石の塊から職人さんが劈開面で割って8面体を作ったもの
上部に不定形のパイライトを含む。(アメリカ・イリノイ産)
鉱物の判別方法として劈開を見た例を1つ挙げてみます。
下の画像は私が岐阜県で拾ったのもです。 一体何だと思いますか?
白濁した石英などのようにも見えますが、私はこれを「トパーズ」だと思って
持ち帰りました。 その理由としては・・・
角度を変えて光が当たると、縦に条線が見えますね。 これは結晶の表面です。
結晶の面なのかどうかは残念ながら沢山の原石を見て経験を積むしかないですが、
ちょっと慣れればすぐに判るようになるかと思います。
さて、もし石英=水晶であれば、条線は柱面に横向きに入ります。 ところがこれを
90度回せば横になりますね。 殆どの結晶面が見えていれば縦横は判断できますが
このサンプルについては決定的な判別とはなりません。
そこで下の面を見てみると・・・
綺麗に平面で割れていて、真珠のような光沢が見られます。
これが劈開で割れた面です。 まず水晶には劈開がなく、割れるとガラスのように
波打つような特徴的な割れ方になります。(貝殻状断口といいます)
トパーズは、柱面に対して縦に条線が入り、その垂直方向に完全な劈開があると
いう特徴があります。良く見れば最初の画像にも横に白い線(クラック)が入って
いますよね。 厳密に言えば上記のような特徴をもつ鉱物が他にもあるのですが、
結晶面の角度とか、この産地で地質的に産するであろうという複合的判断で特定
出来るわけです。
この時代においてそんなアナログな判別方法・・・と言われても仕方ありません。
例えば採集品であろうと、ルースやアクセサリーになった加工品の石であろうと
正確な鉱物種の判断をしようと思ったら成分分析に頼るしかなく、尚且つ非破壊では
限界もあります。 極端な話ですが、「この指輪の大きな石が本物かどうかちゃんと
調べて!!」「判りました。 では試料を採りますので隅っこを少々削りますね」という世界です。 ある程度までは蛍光X線解析等の非破壊手段もありますが、それでも
当然コストはかかりますので・・・。
閑話休題、先に紹介した劈開の程度は「完全な」というものでしたが、その下には
「不完全・明瞭・不明瞭・なし」等に分けられています。 このへんは分子構造上の
根拠があるので、例えば1つのサンプルを見て「これは明瞭ではなくて不明瞭だから
~だろう」みたいな微妙な部分は肉眼判定ではまず出来ません。 概ね「完全?何となくある?ない?」と「どの方向にある?」くらいで実用的には十分だと思います。
天然で産する元素鉱物で有名・高価な物に「ダイヤモンド」と「金」がありますね。
ダイヤは炭素(C)、金は金(Au)という単一元素で出来た鉱物であり、古来より
価値のある石だとされてきました。 どちらも綺麗なものですが、重要視されたのは
「不変性」でしょう。 ダイヤはご存知の通り天然鉱物での最高硬度があるので傷が
付きにくいし、金は金属元素中の酸化還元率が最小という事です。 つまりどちらも
「美しさを不変的に保てる」という条件を満たした鉱物です。
ダイヤモンドには4方向に完全な劈開があります。
とはいえ、雲母や蛍石の劈開と比較すれば割れにくいです。 劈開の程度というのは
あくまで「割れた面が平面になる程度」であり、割れやすさ=堅さとは区別します。
ダイヤをカットする際には、テーブル面と呼ばれる最上部の一番大きな面については
劈開を利用するのが近代の主流となっています。 それでは、他の元素鉱物である
金はどうでしょうか・・・。
金には劈開はありません。 これは前出の通り分子構造によるものですが、金は
硬度が2.5である上に展延性に富むので、そもそも割れるという認識をしにくいと
いう事もあります。 ダイヤと比較するのは、元素の性質や生成のプロセスなどの
事情から根本的にナンセンスなのですが、ちょっとでも、漠然とでも「あ、そうか。」と思ってて頂ければ・・・。
これは金じゃなくて自然胴です。(汗) 金と同様に金属元素鉱物で展延性に富み、母岩を割った
際につられて立ち上がったサンプルです。(愛知県産)
そういえば、オリンピックで良く見る光景に金メダルを齧(かじ)るシーンが見受けられますが。 金メダルは当然合金で作られるのである程度の硬度があるです。
しかし、ご年配の昭和世代の方なら見た記憶があると思いますが、江戸時代の時代劇ドラマで小判がでてくるシーンでは本物かどうか確かめるのに齧ってます。 これは当時の小判に使われた金の純度が高い為、歯の主成分であるハイドロキシアパタイト(水酸燐灰石。表面のエナメル質は硬度6くらい)によって、簡単に変形したり傷がつく為にあみ出された判別方法です。
かたさや割れ方という説明からは徐々に逸脱しつつありますが(汗
どうも他の要素と交錯しがちなので、いろいろ説明しだすとキリが無くなりますね。
鉱物の名前についてでも紹介したかったですが「加熱すると割れる」とかいう性質で
学名が付いた鉱物などもあるです。
是非探してみて下さい (´-`)