鉱物に興味を持った人が、少しづついろいろ覚えだした頃に結構

悩みやすいところが「鉱物の呼び方」ではないかと思います。

・・・さて。 長くなりそうなので御覚悟を。(笑)

 

「水晶」といえばクォーツ(Quartz)という学名は結構知られていますが、

クリスタル(Crystal)とも言われるです。 クリスタルは本来「結晶」という

意味の英単語なのですが、あまりにもありふれた結晶する鉱物なので

呼ばれ始めたようです。 転じて、玻璃(ガラス質)のように透明感のある

物もクリスタルと呼ばれますね。 このあたりはまだ判りやすいですが(汗

他の種類についてもこのような情報を全て覚えないといけないのでしょうか?

 

鉱物の名前は、国際的な標準としてIMAが定める学名の他に和名がありますが

やっかいなのは「宝石名」です。 「鉱物の色について」でも少し触れましたが

分子構造の一部の元素が置き換わって違った色や特性を示す物を別の名称で

呼んでしまうのです。 それだけなら、ちょっと頑張って調べればいいのですが(汗

 

宝石名の中には、「この産地で出た物をこう呼ぶ」とか、「こういう特徴があったら

こう呼ぶ」みたいな事も多々あるです。 これについては国際的にも明確な判断

基準は整備されていない(一部の鉱物種を除く)ので、名前だけでそれが本当に

自分の認識した物かどうかは正直なところ不明瞭だと言わざるを得ないのです。

 

「ハーキマー・ダイヤモンド」という有名な石があります。
これはアメリカのハーキマーという所で採れるのですが、鉱物的には単なる

「水晶」です。 何故ダイヤモンドなどという名前が付いたのかと言いますと・・・。

普通、水晶というと六角柱の先端に尖った頭があるという物が一般的ですが、

この産地の物は柱面が極端に短くて、その両端が尖っています。 それに加え

水晶の柱面に良く見られる「横に入る条線」もなく、透明感はバツグンです。 

 

逆にダイヤモンドの場合、原石だと表面に接触痕やダメージがあってカットされた

時ほど綺麗なものはほぼありません。  ハーキマー産の水晶の美しさの例えで

地面にダイヤモンドの原石とハーキマーを置いておいて、「ダイヤモンドが

落ちてるよ」と言うと、普通の人は大抵ハーキマーのほうを拾う。
という逸話から「ハーキマー・ダイヤモンド」と呼ばれるようになったとか。

今では、柱面に条線があろうが内包物があろうが呼ばれていますね。 極端な話

短柱状両垂ならハーキマー産でなかったとしても、そう言われて見せられた際に

判断しかねてしまいます。 ま、個人的にはあくまで「綺麗な水晶」ですかねぇ。

ハーキマー・ダイヤモンド(所持品の画像)。 もっと綺麗なものが存在するのを

お断りしておきます。

 

私は採集が趣味ですので、基本的には国内で採れる鉱物がメインになるのでまず

和名から覚えます。 標本ラベルには学名や産地なども書くのである程度英名も

覚えますが、やはりいきなり英名で言われるとどんな鉱物だったかピンとこないと

いう事が良くあります。 実はどちらもネーミングの特徴として「見た目・性質・

産地・発見者」などなのですが、日本に鉱物学の知識が入ってきたのが欧米より

かなり遅かったため、翻訳の整合性よりも判りやすさを優先した結果、ギャップが

できてしまったのでしょう。

 

例えば、鉱物学が日本に入りだす前後には、価値のあるような石には「玉」という

名前が付きました。 以下に少し紹介すると・・・

コランダム=鋼玉 (サファイアは青(蒼)玉、ルビーは紅玉)

トパーズ=黄玉

エメラルド=翆玉

アクアマリン=藍玉

ジェイド(翡翠)=硬玉

ネフライト=軟玉

カルセドニー系=~玉髄(色が前に付く。 ジャスパーのみ碧玉という)

という感じです。 そういえば、日本刀などに使われる品質の高い精練鋼を

「玉鋼 (たまはがね)」なんて呼びますね。 他には「黒玉(ジェット)」

言われる石もあります。 これは本来石炭化した化石なのですが、鉄電気石

(ショールトルマリン)や黒曜石(オブシディアン)等と混同しているところも

あるので注意が必要です。

 

それ以外の物や、近代に見つかったものは~石とか~鉱となっています。

英名に~iteという語尾が多いのは、古代ギリシャ語のλίθος(lithos)

語源で、意味は(加工する素材としての)石」です。(笑)

「リトス」と読むのが、英語読みだと「ライト」になる訳ですね。

 

「黄鉄鉱(Pyrite)」は硫化鉄です。 和名では黄色(金色)の鉄という、色や

元素で名前が付いていますが、英名はというと・・・実はこの鉱物、鉄製の

ハンマーで叩くと火花が出ます。 こちらも古代ギリシャ語で火花(武器関連の

火)を表す πυρ(Pyr=ピル)を、上記の~iteと合わせた名前になるです。

 

英名と和名だけでも混乱するのですが、英名でも似たような名前があって結構

混乱します。 和名も同様なので、両方理解できていればかなり認識は

出来そうですけど・・・多少は、ネーミングの由来なんかも判ると理解しやすい

場合もあるようです。

 

英名で、マグネタイト(Magnetite)と、マグネサイト(Magnesite)という鉱物が

あります。 前者は和名で磁鉄鉱、後者は菱苦土石なので和名のほうが区別は

しやすいですね。 まず、マグネタイトはFe2+Fe3+3O4という組成の通り鉄がかなり

多く、強い磁性があるです。 一方マグネサイトは、カルサイトやロードクロサイト

のカルシウムやマンガンがマグネシウムに置き換えられた炭酸塩鉱物です。

つまり、マグネットかマグネシウムかの違いでネーミングされたという事ですね。

なかなか面倒ですが、命名の由来まで調べておくと名前を聞いた時に直感的に

どんな鉱物なのかイメージは湧きやすいのかも知れません。

左; マグネタイト(磁鉄鉱)   右; マグネサイト(菱苦土石)

 

因みに、含まれる元素が和名になる場合、鉄や銅、鉛などは判りやすいですが

他の物も知っておくと理解はしやすいです。 例えば上記の菱苦土石の苦土は

マグネシウムです。 加えて菱形の結晶をする為こう名付けられました。

鉱物名で使われる元素を表す漢字表記いくつかを紹介しておこうと思います。

尚、燐(リン)や錫(スズ)など、元素の和名が直結したものは除きます。

 

フッ素      =弗 (フッ)

ナトリウム    =曹 (ソウ)

マグネシウム =苦【土】 (ク【ド】)

アルミニウム =礬 (バン)

カルシウム  =灰 (カイ)

マンガン    =満 (マン)

モリブデン   =水鉛 (スイエン)

アンチモン   =安 (アン)

タングステン =重 (ジュウ) 【重晶石の重はバリウムを表す】

ビスマス    =蒼鉛 (ソウエン)

 

だいたいこんな感じでしょうか。 フッ素をあえて紹介したのは、沸石という

鉱物グループの意味と間違えない為です。 見ると漢字も違いますよね?

沸石(ゼオライト)は、私の知る限りフッ素を含む種はありません。 主たる

珪酸基と含まれる水(H2O)の結合が少ない為、加熱すると水分が抜けやすい

という性質を、感覚的に「沸騰しやすい石」という意味で付けられました。

これはギリシャ語のゼオ=沸騰する、という直訳での命名という事ですね。

 

日本新産鉱物、つまり海外では発見されていたが国内では見つかっていなかった

ものは概ね英名をカタカナ表記で「~ite」の部分を「石」にすることが多いよう

です。

それに対して、世界中で初めて国内から発見された鉱物も意外にあったりします。

国内で新鉱物を発見できた場合、IMA(国際鉱物学連合)という機関に申請する

のですが、その際に申請者がその鉱物が認められた場合の「命名権」を持ちます。

 

これまでの国産新鉱物の名前は概ね

①人名    ②地名    ③特徴

となっていますが、特徴的なのは人名です。 普通に考えると大抵発見した人の

名前が付きそうなものなのですが、国産新鉱物は発見者の師匠やその産地を

研究した先達など、尊敬される人の名を冠するような慣例になっていました。

奥ゆかしい日本人らしいと言えばそれまでですが、発見者にとっては、「この方の

知識と経験のオコボレで発見できたのだ。鉱物界にこの方の名前を残さねば」

いう思いが強かったのでしょう。 勿論、発見者自身の名を申請してはいけないと

いうルールは一切ありません。

左; 「逸見石」 岡田久、中井泉らにより岡山県布賀より発見・発表された鉱物。 

   名前は原産地を発見・研究された逸見吉之助と娘の千代子に因んでいる。(敬称略)

右; 「中宇利石」 愛知県新城市中宇利鉱山より鈴木重人らにより発見された。こちらは

   原産地がネーミングされた例。

 

一方、英名と和名のギャップを憂慮してネーミングされた方も。

鉱物科学研究所を創設された堀先生が発見されたストロナルサイトは長石の

一種ですが、これは含まれる元素(ストロンチウム・ナトリウム・アルミニウム・

珪素)の名前で出来たノタリコンです。 これが現在和名でどう呼ばれているか

知りませんが、堀先生の著書では「ストロナルシ石か、ストロナ長石か・・・」と

言われるように、英和どちらでも特徴が判るようにとの配慮であったそうです。

 

菱苦土石マグネサイトと紹介しましたが、「苦土」が「」に置き換わったものが

「菱マンガン石」です。 学名はロードクロサイトですが、加工品など商用ベースに

なると俗に「インカローズ」と呼ばれます。 かつて南米で濃紅色の美品を多産した

為ですが、学名についてもギリシャ語で「ロード=薔薇」「クロス=色」という感じで当たらずとも遠からず、といったところでしょうか・・・。

 

今回も十分長くなりました。(笑)

最後に一つ。 英名で「クリソ~(Chryso~)」という名前の鉱物がしばしば見受け

られますね。 クリソベリル、クリソコラ、クリソプレーズ、クリソタイル・・・。

語源としてはこれまたギリシア語の(chrysos=なのですが、クリソベリルなどは

ともかく他の鉱物に「金」とは一体どういうネーミングなのでしょう・・・?

 

もしご興味がありましたら、是非調べたり想像してみたりして下さいね。

 

 

【 追記 】

私が昔、何度かお会いして採集もご一緒したことのある丹羽君が採集した鉱物が

新種浅葱石(Asagiite)として2022年に記載されました。 おめでとうございます。

こちらは日本語の色をそのまま学名として申請したという、ある意味画期的な試み

だと思います。 詳しい経緯はこちらをご一読下さい。

尚、産地は既に本鉱及びその他の貴重な種の採集は絶望的であり、過去には崩落等に

よる死者が何人も出ている危険な場所です。 絶対に立ち入らないで下さい。