”名も無きカルテット”のコンサートが始まる。
私はただステージを客席から見下ろすだけだ。
最前席ではなくほどよく高いところの真ん中ぐらいにある席の列、
そしてその列の端にあたる左から2番目の席に位置取っている。
ここが個人的には一番見やすい。
後ろの人には申し訳ないな、俺は身長が2m近くあるから・・・座高はそうでもないけれど。
まぁ、それもコンサートが始まるまでの辛抱だ、我慢してくれ後ろの人。
少しずつ人が多くなってきた。
コンサートと言えどパンフレットなど無いので、始まるまでの時間を
小声で話をして過ごしているようだ。
私も誰かと世間話でもできるのならこの退屈から逃れられるのだが。
「やあ、お隣失礼するよ」
そう言いながら、その人は左端の席に座ってくる。私は快く返事をした。
指定席でも無いのにわざわざ人が居る横に座るなんて変わった人だとは思ったが、調度いい。
私も退屈していた所だ。適当な話をして時間を潰してしまおう。
「このコンサート」
最初の言葉を考えていたら、向こうから話かけてきた。
「・・・メンバーの名前しか知らないんだが、
よかったらこの人達について知ってるだけでいいから教えてくれないか?
事前情報がある程度無いと、親近感が湧かないというか、あまり入り込めないタチでね」
お安いご用だ、このメンバーは良く知っている。
『それでは、まず誰の話からしようか』
「確か・・・ロレッタ、という女性が居たな。この人物は?」
『あぁ、ロレッタさんか。このカルテットの団長を務めている』
「たった4人組なのにわざわざ団長がいるのか?大仰なもんだな」
『何、便宜上そうなってるだけだ。団長としての権限も一応あるにはあるんだが
同じようなものを他の3人も持っている。そういう意向なんだ』
「なるほどね、そのほうが活動しやすいのかね」
『あと、トリオを組む時に言い出したのがロレッタさんじゃなかったかな?
ただそれだけのことだったような気がするよ』
「トリオ? 最初はカルテットではないのか?」
『そうだ、最初は3人で組んでいたが、
どこからか迷い込んできた黒人が押しかけてきて結果としてカルテットとなったらしい』
「黒人? ちなみに担当パートは何なんだ?」
『ドラムスだ』
「おいおい、カルテットという少数編成にドラムを持ち込んだら
音量バランスが酷いんじゃないか」
『気にすることはない、ロレッタさんは長銃だ
あとの二人はランチャーとロッド』
「え、なんだって?」
『オシリーナだ』
「そういう楽器の名?」
『団長の二つ名だ』
「えっと・・・?」
「なんでオシリーナなんだ」
『オシリが大好きだかららしい、本物のお尻はもちろん、青果屋にある桃や、
バーミヤンの看板ですら視界に入ると頬を赤らめるという。そして・・・おっと!!』
「どうした」
『い、今、鋭い視線を感じた! このままじゃ俺の尻がアブダクション!!』
「(何を言ってるんだこの人)」
『危ない、と言いたかったんだ、取り乱してすまない。
このまま話し続けると俺の尻にWB(ウィークバレット)を打ち込まれる所だった。
そうなると座っただけでダメージを受けてしまうからな。強制的に痔にされるようなもんだ』
「そうなのか、よく解らないがそれはつらいな・・・」
『そうだ、今は何時だ? 俺は随分と前からここに居るんだが、時計を持ってないんだ。
外が暗くなっているぐらいかな、そのくらいは何となく解るんだが』
「おいおい、もう深夜の1時だぞ。どれほど前からここに居たんだ」
『ん、途中で少し寝てたのかもしれんな。
それより、なるほど・・・さっきの視線の正体は”ナイト・ロレッタ”か・・・』
「それも二つ名か? いや、そうだとしたら三つ名になるのか
とりあえず”ナイト・ロレッタ”って何なんだ」
『彼女は2つの人格を持っているんだ。
通常時はとても常識的で社交的な人物なのだが、夜になり、日付がかわってしばらくするころに
もう一人の”彼女”が現れる。性格はドSで、攻撃的。従って危ない発言も多くなる。
通常と全く逆な性格、それがナイト・ロレッタだ』
「今日のコンサートはその状態なのか、出来れば普通であってほしかった・・・」
『俺の知り合いにとあるかわいこちゃんが居たんだが、その子もナイト・ロレッタの
餌食になりかけた。おのれナイト・ロレッタ!覚えておけよ!
おっと、興奮して立ち上がってしまった、よいしょっと』
ズキュン!
『~~~~~~~~~~ッッ!!』
「おい、大丈夫か!」
『オシリが・・・』
「なんかオシリに赤色の十字が付いてる」
『いつの間にかWBを打ち込まれてた・・・』
「たぶんあんた色々喋り過ぎたんじゃないかな」
『ふぇえ』
「それじゃあ次は、ティティスって人だ」
『あの子はロボットだ、正しくは”キャスト”だな。尤も、改める必要は無いかもしれない。
彼女はロボットと言えど、性格はそこらの人間よりよっぽど人間らしい』
「ロボットというのは、一応噂では聞いている。だが、偶然彼女を見かけた時は
普通に服を着て、ロボットにありがちな球体関節なども見当たらなかった」
『何だか、特定の服を着ると人間の体になる特異体質みたいなんだ』
「そうなのか、変わった仕様だな」
『ああ。 ただ、それ以外の服はそもそも着ることが出来ないらしく、
オシャレが好きでありながらもロボットである自分を顧みて、
時々、人間でありたかったと嘆くそうだ』
「可哀想に。彼女の開発者は全ての服を着られるようにしてあげればいいのに」
『あえて制限を加える事で、人間とロボットの境界を明確にさせているのだろう。
人間とロボットが限りなく近くなってしまうと、倫理というものの根底に関わってくる』
「(何もそんな微妙な所で差異をつけなくても・・・)」
『少し話が逸れたな。そんなティティスさんだが、ランチャー担当だ』
「え、何だって?」
『ランチャー担当だ』
「数分前のは聞き間違いじゃなかったのか・・・」
『ランチャーの爆発音はとてもいい、爽快だ。日々の鬱憤を爆散してくれるようだ』
「このコンサートって、もしかしてまともなコンサートじゃない?」
『何を言っているんだ、コンサートはコンサート。
それに、爆発音や銃撃音、電撃音やモノが凍る音なども立派な音楽の素材だ。
もっとも、このコンサートでは、音が素材ではないだろうけどね』
「どういうことだ?」
『まぁ始まれば解るさ、他にティティスさんについて質問は?』
「・・・やはり、ロレッタさんのように、何か変わった所もあったりするのか」
『ロレッタさんを変人扱いすると、あんたのオシリにもWBが飛んでくるぞ。
ティティスさんの変な所か、そうだなぁ、うーん』
「いや、無いならいいんだ。 むしろそのほうが安心する」
『うもぅ・・・』
「おい、いきなり何を言い出すんだ」
『ジョイフルジョイフルぽよんぽよん!!!』
「おいやめろ! いきなり大声を出すな!
周りの人達がこっちを見てるじゃないか!」
『おっと、これは失礼』
「今度は頭の中にでもWBを打ち込まれたのか?」
『いや、彼女になりきってみたんだ、今のは』
「まさか、今あんたがやったことを彼女もやるのか」
『ああ、ただ場所は選ぶよ、安心しな』
「場所は選ぶにしても、意味の分からない文をいきなり言い出すなんて・・・
これも開発者の狙いなのか?」
『俺も一緒にやるけどね』
「あんたは人間だから手の施しようがないな」
『このコンサートの楽しみ方の一つだ、あまり固く考えなさんな。
試しに”面白い”と思いながら言ってみな?』
「面白い・・・面白いぞ・・・うもぅ」
『(本当に言ったぞコイツ)』
「何でちょっと笑ってるんだよ」
『い・・・いや・・・まさか本当に言うとは・・・ヒグッ!?』
「変な笑い方をしないでくれるか」
『・・・・・・・・・』
「あ、頭に赤い十字がついてる」
『ティティちゃん・・・ハ・・・可愛くて・・・オシャ・・・レ』
『ティティちゃんは可愛くてお洒落ティティちゃんは可愛くてお洒落
ティティちゃんは可愛くてお洒落ティティちゃんは可愛くてお洒落』
「ちゃんと説明をしないから本当に頭の中にWBを打ち込まれたんだな、ご愁傷様」
「それじゃあ、次の人物、えーと、名前がテル」
『先生だ』
「いや、名前はテ」
『先生だ』
「ちょっと」
『先生だ』
『先生だ』
『先生だ』
「わかったから。先生でいいよもう」
『(ゴメン先生、ここでも既成事実化させちゃった)』
「で、この方は何で先生って呼ばれてるの」
『先生だからだ、説明不要!』
「何この投げやり感。さっきまでと全く違う」
『いいのか?先生について解説すると長くなるぞ』
「なるべく適度に切ってくれると助かる」
『わかった。それでは話をしよう。』
『彼とは船の中で会った。四人乗りの船で、
ある目的地へ行く為に同じような船が沢山出ているのだが、その時偶然に乗り合わせたのだ。
それが彼とのファーストコンタクトだ。ちなみに先生は眼鏡だ。コンタクトではない。
その後、これが切っ掛けになり時々交流を行なっていたが、他愛もない話をするぐらいで
普通の顔見知り程度の関係だった。先生の顔はとても知的な顔立ちです。
先生が先生たる所以はここからだ。
とても寒い場所に生息していると言われる、つがいのけものを倒す必要があった。
奴らは冬眠をせず常にエサを探している。
時々自分の縄張りを出てまで飯にありつこうとするから被害が大きかったんだ。
俺が退治をしてやろうと思い勇んで行ったまではいいんだが、
何せ一対二だ。極寒の環境の中というのもあり、あっけなく追い返されてしまった。
このことを先生に相談してみると、返答は予想外なものだった。
「楽勝だよ」
このように何とも簡単に言ってのけたのだ。
私はすぐさま先生に助力を求め、さらにもう一人の友人と一緒に三人構成でリベンジへと向かった。
つがいのけものは、極寒の地域の最奥に寝床を構えている。
その道中にも小型のけものが無数に生息して、実際にはそれらの相手だけでも骨が折れるのだ。
いや、そうなるはずだった。
実際には私と友人はただ走るだけだ。目の前に小型のけものなど居ない。
先生が全て焼き払っているのだ。処理をするように、淡々と。
私が、けものが居ると認識したなら次の瞬間には塵となっている。
本人は涼しい顔をしていた。あ、環境が寒いから涼しい顔とかそんなんじゃないです。
そのようにしてると、あっという間につがいのけものの居城へと着いた。
先生が傷ついた私達を手当してくれている。
気づけば、つがいのけものは見るも無残な姿へと変わり果てていた。
あれほど鋭利だった爪は痛々しく折られ、立派だったはずの尻尾やたてがみも全て焼き払われている。
「ほらね」
その表情は微かな笑顔を湛えていた。
私は、畏怖の念を込めて彼を”先生”と呼ぶことにした。』
「おい・・・おい!」
『・・・ん?』
「さっきから呼びかけてたんだが気づいてなかったのか」
『あぁ、すまない、先生のことになるとつい夢中になってしまってな・・・』
「白目を向きながら早口で喋ってたから怖かったぞ」
『早口なのは許してくれ、ほら、もうすぐ・・・』
「話の中で気になったのは、先生とあんたが知り合いみたいだったことだ、
それはどういう・・・」
『始まるぞ、コンサートが』
「本当だ、暗くなってきた・・・」
『因みに四人目は君の既に知っている人だ、それではまた会おう』
「おい、そういえばあんたの名前を聞いてなかったな、
それに四人目についてまだ詳しく聞いてないが、私が既に知っているとはどういう事だ」
「・・・あれ、居なくなってる。どこに行ったんだ」
私は黒い肌を生かし闇に紛れ、彼らの元へと急いだ。
暗闇の中でも階段の縁に塗られた白の目印は微かに見えている。
そこを踏み外さないように、軽やかなステップで降りていく。
また先生に「子供か」と呆れられるだろうか?
問題ない、ムーンライト・ステッパーは誰にも理解されないのが普通だ。
ステージに到着した。
3人と目を合わせて私はニコッと笑ってみせる。
ゆっくりと幕が開く。
そして、私は高らかに叫ぶ。
『レディース・アンド・ジェントルメン!』
『アンド、エブリシング・イン・イッツライトプレイス!』
『”Concerto”イズ・スタート・フロム・ナウ!』
傍の3人は状況を飲み込めずに立ち尽くしている。
それもそうだ、私がここに来るように頼んだのだ。
紹介してもいいかと尋ねると快諾してくれたので、詳しいことは伝えないまま呼んだ。
この場のセッティングも1週間かけて私一人で行った。
もっとも、事前に紹介もしてしまったからこの後することがなくなってしまったんだが。
『ロレッタさん、ティティスさん、先生、実は紹介はもう終わってるんだ。
正直に言うと、この後何もすることは無い』
3人は呆気に取られた顔をしている。
『とりあえず格好良いポーズをしてこの場をしのごうか』
簡単に位置取りを説明し、陣をとる。
客席から向かって右にロレッタさん、ティティスさんがセンター、左に先生。
ティティスさんが「何でセンター」という顔をしたが、だって、ティティス・レッドだもの。
私はと言うと、先ほどステージに来る時にほぼすべての服を脱いできてしまった。
そうしないと闇に紛れられないからね。
なのでしょうがなく、後ろ向きに立つことにした。
さあ、決め台詞だ。
『先生、わかってますね?』そう念じながら、無言でカウントを数える。
ロレッタさんはただじっとしている。まだお尻のWB残ってるんですがこれ強力すぎます。
ティティスさんは恥ずかしいのか、赤くなっている。いや、元々ボディは赤い。
先生はいつもと変わらない涼しい顔をしている。この気持ち、届いてますか?
3、2、1・・・
『僕らのConcertoは、これからだ!!』
「次回作にご期待ください!!」
先生のレスポンスは流石と言うしかない。
そんなことを思いながら、”名も無きカルテット”のコンサートはひとまず閉幕した。
おしりおわり
本当ならこのあたりに集合絵を載せたかったんですが
前回からモチベーションが全く上がらなかったので、出来たらこっそり貼っときます
代わりに合間に描いてた落書きを貼っ付けときますね
