(48) 変身のロマン | Beatha's Bibliothek

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メディカルハーブやアロマの事、       

様々な本の紹介など色んな事書いてます。
                         
※本の紹介には連番がついています。

今回は、澁澤龍彦さん編の「変身のロマン」です。


エッセイなど、たくさん出版してらっしゃるんですが、


読む度に、膨大な知識量に驚かされます。


自分が読書にはまったのは、この方のせいですニコニコ


何冊あるか、わからないくらい、澁澤さんの文庫が・・・・。


この本は、澁澤さんが、変身をテーマに短編を


集めたものです。泉鏡花さん、カフカさん、太宰治さん、


蒲松齢(←この間、紹介したばかりですね)他、計14名の


作品が入っています。その中の、ギョーム・アポリネールの


「オノレ・シュブラックの失踪」を、ご案内しますね。



綿密な捜査を極めた探索にも関わらず、警察は、


オノレ・シュブラックの失踪の謎を明らかにする事は


できませんでした。彼は、私の友人であり、私は、彼の事件の


真相を知っていたので、事の顛末を裁判所に知らせるのが


私の義務だと思いました。判事は、私の話を聞き終わると、


唖然とし、彼が私を狂人だと思っていると感じました。


私は強いて、言い張ったりしませんでした。オノレの失踪事件は、


真実が嘘に思えるほど、奇妙なものだったからです。


シュブラックが、変人で通っている事は、新聞でも報じられました。


彼は非常な金持ちでしたが、年中、ガウンのようなものをひっかけて


いるだけで、素足に突っかけ靴をはいていました。ある日、私は、


彼にその服装の理由を尋ねてみました。「必要な時に、早く裸に


なれるからだよ」と、彼は答えました。私は、“一体、なぜオノレは、


そんなに着物を早く脱ぐ必要があるのだろう?”と、考えました。


或る夜更けに、家に帰って来ると、誰かが小声で、私の名を


呼んでいるのが聞こえました。それは、私がすれすれに歩いている


壁の中から聞こえてくるようです。その声は続けて、「往来にはもう


だれもいないかね?俺だよ、オノレ・シュブラックだ」と、言いました。


「一体、君はどこにいるんだ?」、辺りを見回しましたが、友人の


隠れていそうな場所が判らず、私は叫びました。私はただ、おなじみの


ガウンと突っかけ靴が、歩道に脱ぎ捨ててあるのを見つけただけでした。


“これこそオノレが、一瞬の間に着物を脱ぐ必要に迫られた場合なんだな。


素晴らしい秘密を知る事ができそうだ”と、思いました。「往来には誰も


いない。出てきても大丈夫だ」と大声で言うと、今まで影も形も見えなかった


壁の辺りから、剥がれるようにオノレが現れたのです。彼は、全裸でした。


彼は言いました。「君も驚いたろうね。しかし、今度こそ、なぜ僕がこんな


妙な格好をしているか解ったろう?」



冒頭の部分を、ご紹介しました。


変身にまつわる、不思議な話です。


ご興味のある方は、読んでみて下さいね。


次回は、イルサ・シグルザルドッティルの「魔女遊戯」を、ご案内します。


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