「今日もよろしくお願いします」

軽く頭を下げた私はここでルーティーンのスイッチが入る。

M市O町のH広場にはオープン当初から来ているが、こうしてルーティーンになって、やはりいくばくかの感慨が毎回あるものだ。

「ケンちゃん。おはよう」

ミドリちゃんは私をみつけるといつも明るく挨拶をしてくれる。彼女は特に何ということはなく普通のカンジで普通のことをしているのだろうが、私にとってはそれがたいへんに嬉しい。先に来ていたのか。今日の梅雨空と同じような色合いの薄手のパーカーに、つばの広いタイプの明るい色の帽子姿だ。今日もスワちゃんといっしょだった。

「おはよう」

「おはようございます」

紺色に一輪の花模様のTシャツを着てスポーツキャップをかぶっている、先日に2回目の接種を済ませたスワちゃんに挨拶を返すと、ふたりはそのままトラックのウォーキングを始めた。

彼女たちと会うようになったのは去年の後半だったか。寒くなってくる時期で、一度、某衣料品量販店の緑色のジャケットを着ていたから、私は勝手にミドリちゃんと呼んでいる。スワちゃんはミドリちゃんがそう呼んでいたから。私は名前の話になったときに、「健一です」と答えたら、すぐさまミドリちゃんが「じゃあ、ケンちゃんだ」と、それからケンちゃんになっている。

準備体操をしてからトラックを4周。感染対策のためにマスクをしているのと、そんなに体力に自信があるわけではないので、毎度のことだがちょっといっぱいいっぱい。あー、終わったあーと思っていると、ミドリちゃんが、

「ケンちゃんといっしょに走るー」

と走る構えを合わせてきたので、急遽プラス1周。あー、もう、勘弁してと思ったが、走り切るときには爽快感が満ちていた。

「はーい。ソラ」

ミドリちゃんが、今にも飛び付こうとしてリードをいっぱいに飼い主を引っ張っている柴犬に手を差し出した。

「おはようございます」

飼い主と挨拶をすると、いつの間にか広場には数組の犬と飼い主のペアが来ていた。

「はーい。おはよう」

気がつくと、トキコちゃんも来ていた。東京の会社に勤めているので、東京はトキオだからトキコちゃん。テレワークで在宅勤務になったため、こうして暇をみては来てくれるようになった。

「お菓子はないよ」

ソラの飼い主が、おすわりをして待っている愛犬に必ず言うひと言だ。残念そうな雰囲気を全身で放っているソラのカンジがまた私たちの笑いを誘う。

「あ、じゃあ、行ってみますか?」

15分が解散の時間。私たちは交互に「またね」「ごめんください」「はーい」を言い合い、それぞれの次の予定に進む。

今朝も良かった。暑くなく寒くなく、正直をいうとちょっと蒸し暑いか?
まあ、私の心は「RUN」になる。大事にしていきたいいつものメンバー、「いつメン」とのひと時。

「今日もありがとうございました」

広場に一礼すると、ハコネウツギの紅白の花が私の気持ちに沿うように温かく語りかけてくるのだった。

(了)