受賞のことば
このたびは、私どもチームが企画プロデュースした番組テキスト「100分de名著 アーサー・C・クラーク スペシャル」に星雲賞ノンフィクション部門の賞をいただきまして、本当にありがとうございます。
私自身、年来のSF好きで、本書の「はじめに」に瀬名秀明さんが書いてくださっている通り、高校時代にクラークの「幼年期の終わり」を読んで衝撃を受け、天文学者を志したことがあるほどの大ファン。いつかクラーク作品に関わる仕事をしてみたいと夢見ておりました。
「100分de名著 小松左京スペシャル」の回に瀬名さんにゲストに来ていただいたのですが、収録の合間にクラーク・ファン同士ということで話に花が咲き、企画が芽吹きました。そこからのクラーク再読体験は、めくるめくものでした。若き日に読んだクラーク作品が年月を経て読み直してみると、感動の質が尋常でないほど深まっていることに驚愕しました。年齢とともに「読み方」が大きく変貌し、新たな魅力を次々に再発見できる…これは、「名著」ならではの醍醐味です。
数ある名作のどれを取り上げるか悩みに悩みましたが、結果的に「太陽系最後の日」「幼年期の終わり」「都市と星」「楽園の泉」の四作に決まったのは、瀬名さんの「センスのよさ」あってのことと深く感謝します。これら作品はクラークのターニングポイントに当たっており、並べて論じることによって、さながらクラークの生涯をたどる一大絵巻ともなっています。とともに、SFというジャンルがどのように成長してきたかをかいまみることができる構成にもなっているのです。
企画当初の目論見として、「まだSFに興味をもっていない人」「SFに入門したいと思っている人」「そこまでディープではないライトなSFファン」に、この番組を通してSFの魅力の深さに開眼してほしいという思いがありました。瀬名さんによる情熱溢れる筆致、解説にクラークの人生を織り込む巧みな構成、科学することの喜びを伝えるメッセージ等々のおかげで、その目論見は100%以上叶えられました。どれが受賞してもおかしくないノミネート作品群の中で、審査していただいた方々の心を少しだけ動かすことができたとしたら、そんな思いを感じていただけたからかもしれません。
最後に、ファンの手によって選ばれる「星雲賞」を受賞できたことは、年来のSFファンの一人として光栄の至りです。小松左京さん、半村良さん、筒井康隆さんといった歴代受賞者は、私の思春期の感性を育ててくれた恩人というべき人々……この歴史ある賞の名に恥じないよう、これからもSF界の発展に貢献できるようなコンテンツを制作してまいりたいと思っています。すべての関係者に感謝を捧げつつ、受賞のことばを締めくくらせていただきます。本当にありがとうございました。
NHKエデュケーショナル
「100分de名著」
プロデューサー
秋満吉彦