もち蔵のブログ

特定生殖補助医療法(案)のタイプ別影響

 石破総理の下、衆議院で一旦可決した次年度予算案が参議院で修正されるという、異例の経過を辿った予算案が、なんとか年度内に成立することとなった。予算が成立すると、通常はその後閣法の審議があり、その後に特定生殖補助医療法案をはじめとする議員立法の審議が行われるのだが、今回は国会の閉会による時間切れとなるのを危惧してか、閣法より優先しての審議を始めるつもりのようだ。異例だが、どうしても成立させるという何らかの意向を反映しているようで、何やら得体の知れない不気味さを感じてしまう。

 

 本稿では、特定生殖補助医療法案が成立することとなった場合にどのような影響が生じ得るのか、精子提供・卵子提供の(想定)利用者ごとに改めて記載してみた。すべてのパターンとは言わないが、概ね網羅はできているだろう。

 

 タイプとしては、以下の通りに分けている。

 1.同性カップル(女性同士)

 2.選択的シングルマザー

 3.事実婚の男女(精子提供、卵子提供)

 4.法律婚の男女(精子提供、卵子提供) 

 

 本当は男性同士の同性カップルや選択的シングルファーザーも考えられるのだが、これらのケースだと、絶対に代理出産(代理懐胎)の問題から逃れられない。前稿でも書いた通り、代理出産についてはまた異なる論点が生じ得るので、本記載では除いている。

 

 詳細については前回までの投稿をご覧いただきたいが、改めてこの法案の大きな特徴を述べると、
 ①他人の精子・卵子を用いた不妊治療(特定生殖補助医療)を受けられる日本人は、法律婚の男女のみ
 ②精子提供・卵子提供の商業利用は禁止
 ③子の出自を知る権利に関するルールを整備
 ④①〜③その他の本法律の規定に違反した場合は刑罰が科される

 ということである。

 

 そのため、同性カップルや自らの選択でシングルマザーとなろうとする者(選択的シングルマザー)はもちろん、事実婚の男女も医療機関で生殖医療(不妊治療)を利用することはできなくなる。法律婚の男女であれば引き続き精子提供・卵子提供といった特定生殖補助医療を受けることは可能なのだが、以下に記載する通り(基本的には非常に悪い)影響が生じ得ることに留意が必要だろう。

1.同性カップル(女性同士)

 このタイプの場合、当然ながら精子提供が必須となる。さらに、もし自分たちの(カップルのいずれかの)卵子を用いることができない場合は、卵子提供も必要になってくるだろう。

 

 前述の通り、この法律が成立し施行されると、医療機関で生殖医療を受けられるのは法律婚をしている夫婦のみとなる。現状、同性婚は法律上認められていない(足元で複数の裁判が進行中だが)ため、法施行後は医療機関での生殖医療からは完全に締め出されることになる(法を犯すことを承知で対応してくれるような医療機関は皆無といってよいだろう)。

 

 そうなると、SNSなどを利用した個人間の精子提供に流れていくことが容易に想像できる。この法案ではそういった精子の取引は規制されないから、地下に潜っての精子取引が活発化することになるだろう。ただし、医療機関を受診することはできないから、入手した精子を自宅などでシリンジ法で注入して妊娠を図る、といった手段がとられることになると想定される。当事者が医療従事者ならまだしも、そうでないならいっそのこと医療機関で正規の治療を受ける方がよっぽど安全なはずだが、そのような発想は法案作成者の頭にはなかったようだ。

 

 なお、法案によれば、禁止されるのは利益の授受を伴った精子・卵子の取引であるので、実費以外の対価を受け取らないマッチングプラットフォームなどであれば存続可能なのかもしれない。そうだとすると、精子バンクの担当者がそれほど声高に法案に反対していないのにも納得がいく。まるでその部分だけは抜け道を用意してもらったかのようだ。もっとも、そのせいで子を持つことを望む当事者としては大きな不利益を被ることになるが。

 

 さらに、もし自分たちの卵子を用いることができないということになると、卵子提供も必要になってくるのだが、こうなるともはや手段がなくなると言ってよい。なぜなら、卵子は精子と異なり地下で卵子だけを取引するといった行為があり得ないからだ。仮に卵子を地下取引で入手できたとしても、それに精子を受精させて受精卵にして、自身の子宮に移植し着床させることを医療機関抜きに行うことはできない。前述の通り医療機関は法律婚の男女以外に生殖医療を提供できないから、そんなことをしてくれる医療機関はなく、ゆえに八方塞がりとなってしまうということだ。

 

 あまり言及されないが、ここに精子提供と卵子提供の非対称性が生じているのである。実は精子提供のみであれば、地下取引でも構わないなら法施行後も手段がない訳ではない(自宅でシリンジ法を用いるという、非常に素人的で性感染症のリスクも拭えないような手段に頼らざるを得ないが)。一方で卵子提供の場合は、本法案の成立によって極めて大きな影響を受けることが予想されるのである。

2.選択的シングルマザー

 このタイプの場合も、当然ながら正規の医療からは締め出されることとなる。この人たちも精子提供は必須で、自分の卵子を用いることができない場合は卵子提供も必要になってくるが、置かれる状況は1の女性同士の同性カップルとほぼ同様だ。したがって、精子のみが必要な場合、地下取引で精子を入手して、自己流で妊娠を試みる、といった手段がとられることになるだろう。もしかすると、子ども欲しさに形式的に結婚する、といったケースも出てくるかもしれない。

 

 なお、最近は若いうちに卵子凍結を行う人が増えているようだが、この法案が成立したら凍結卵があったとしても未婚のまま子を持ち母親になることはできない、ということはよく理解しておく必要がある。

 

3.事実婚の男女(精子提供、卵子提供)

 この場合であっても、正規の医療を用いて不妊治療を行うことは不可能になる。これまで述べてきた通り、精子提供のみ必要であれば地下取引で精子を入手しシリンジ法で、といった手段も考えられるが、卵子提供が必要となる場合は実質的に手段が断たれることになる。同性カップルや選択的シングルマザーのみならず、事実婚の人たちからも生殖の権利を奪うことの合理性を、立案した議員たちはどう説明するのか、筆者には想像できない。「子を産み、育てる」ということは、人の人生において非常に重要な意味を持つ。単に生活上で何かしらの不便が生じる、といった程度の話とは訳が違うのだ。なぜ事実婚の男女は不妊治療を受けることを法律で禁じられなければならないのか、すなわち子を持つことを禁じられなければならないのか、その理由が自分には思いつかない。

 

4.法律婚の男女(精子提供、卵子提供)

 法律婚の男女の場合、医療機関を用いて、精子提供や卵子提供を受けて不妊治療を行うことは可能だ。ただ、この人たちは安全地帯にいると考えるは非常に早計である。以前も投稿した通り、そもそもあっせん機関やドナーがどの程度集まるのか、筆者には不安しか感じられない。精子ドナーはともかく、卵子ドナーは一体どの程度集まるのだろうか(この点でも、精子提供に比べて卵子提供は厳しい立場に置かれることになる)。どうせそうした供給予測もろくに行わないまま法案が作成され国会に提出されたのだろう。加えて言えば、ドナー情報も子が18歳になるまで開示されない(さらに18歳になり開示されたとしてもごく僅かな情報に留まる可能性もある)ので、そんな身元も分からないドナーから提供を受けるくらいなら、自分たちで見つけた信頼できるドナーから精子提供を受け、シリンジ法で妊娠を図る方が良いと判断する人もいるかもしれない(精子提供の場合はこの手段も取り得るが、卵子提供だと前述の通り不可能となる)。

 

 なお、この層には必ずしもリベラルな思想ではない人たちもいそうだが、そのような層の票は次の選挙では共同提出した4党(自民、公明、維新、国民民主)から他党に流れていくことになるだろう。

 

 このように見てきたが、結局のところ、法案が成立しても法律婚も含めて誰にとっても今よりよくなることは絶対にない、ということがよく分かる。そもそもSNSを通じた地下での精子取引は全く規制されないままで、最も早く対応すべきトラブルの元がさらに拡大することになろう。
 

 ひょっとすると、立案した議員たちはなんの疑いもなく、素晴らしい法案ができたと思って国会に提出したのかもしれない(※)。何年もかけて議論してやったんだから、ちょっとくらい不完全な部分があっても我慢しろ、国民から感謝されて当然とでも言いたいのだろう。もしもそうだとしたら"地獄への道は善意で舗装されている"という西洋の諺がこれほど似合う法案も、なかなかないといえよう

 

 ※なお、この法案作成を中心になって押し進めた、二人の医師免許を持つ国会議員である自民党の古川俊治、公明党の秋野公造の両氏は、そうした被害が出ることも十分織り込み済みなのかもしれない。彼らが夢見る理想の社会を作るためには、特定の人々に先に犠牲になってもらう必要があるとでも考えている節がある。このような社会実験的な発想は、人体実験を行う医師の思考と類似しており、いかにもサイコパス系医師が考えそうなことである。
こういった人種に政治権力を与えると国家的な悲劇を産むことは、国や時代が変わっても同じなのだと妙に感心してしまった。

「特定生殖補助医療法案」という名の奇妙な法案③

3.この法案の作成過程と国会への提出

 これまで、生殖補助医療(≒不妊治療)に関する議論は超党派の議員連盟である「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」が主体となってやってきたようだ。より具体的に言うと、自民党の野田聖子議員、古川俊治議員(医師・弁護士)、公明党の秋野公造議員(医師・元厚労官僚)、国民民主党の伊藤孝恵議員、立憲民主党の塩村文夏議員などがメンバーだという。”だという”というのも、議連のメンバーの詳細は国民には明らかではなく、議連自体には共産党も入っており、各党の議連への関与の仕方は様々であるようだ。実際のところ、今回の法案の中心メンバーは自民党の古川議員と公明党の秋野議員の医師免許を持つ2人であるらしい。彼らは現在参議院議員であり、古川氏は次の参院選で改選を控えている。

 

 この2人が医学に詳しいことは言うまでもないが、生命倫理、法律論にどこまで詳しいかというとよく分からない。というか恐らく詳しいとは言えないのではないだろうか。古川議員は弁護士資格も持ってはいるが、上で記載した通りこの法案は法律としては非常に不出来であり、仮に閣法だとしたらとてもじゃないが国会には出せないだろう議員立法の場合は衆議院や参議院に設置されている法制局が法案作成のサポートの役割をするのだが、恐らく必要最小限のことしか行っていなかった(というか行う能力もリソースも経験もなかった)ように思えてしまう。

 

 参議院議員の議員立法は衆議院議員の議員立法に比べて非常に少ないこともあり、参院議員の議員立法をサポートする立場の参議院法制局は経験が不足しているのだろう。実際、参院法制局がサポートして立法できた法律(参法)は1年に1~2本程度しかない。本来は憲法適合性や現行制度との調和、法政策の合理性も含めて参院法制局が補佐すべきなのであるが、恐らくは経験・能力不足でろくな審査がされなかったのだろう。加えていえば、本法律は公布から施行まで実質的に3ヶ月しかない(条文によって施行時期は異なっている)のだが、法案成立前に行うべき行政部局との調整も、法律の下に位置する命令(政省令)の検討も、当然のごとく全く行っていないに違いない。とすると彼ら参院法制局の存在意義は一体なんなのか、理解に苦しんでしまう。

 

 結果、国会議員は法律のプロである参院法制局の審査を経て国会に提出したと言い、参院法制局は議員の立法意図に沿って条文を書いただけと言い、まるで責任の擦り付け合いみたいなことが起こってしまっているように見える。こんな無責任な進め方で法案が可決され成立してしまっては、国民にしてみればたまったものではない

 

 あげく、今回は古川議員と秋野議員、中でも恐らくは古川議員が突っ走り、成立しても日本人の誰にとっても得にならないエキセントリックな法案が出来上がってしまった(天下り先を確保したい厚労省やこども家庭庁の役人はうれしいのだろうが)。この辺りの法律の作成・提出過程も旧優生保護法にそっくりだ(旧優生保護法も、戦後のどさくさに紛れて議員立法で成立した)。そして彼らの暴走を止めなかった(というか取り込まれてしまったのだろうか)野田、伊藤、塩村各議員も同様に罪深いといえる。

 

 このまま法案が成立してしまった場合、恐らく新設された制度はほとんど利用されず(そもそもあっせん機関の登録も(特に卵子の)ドナーも不足することになる上、こんなドナーガチャみたいな制度なら不安で子を持たない選択する人も多かろう)、少子化がさらに加速することも十分考えられる。精子提供や卵子提供でこれまでにも多くの子供が生まれているが、子供たちが、「親が何か悪いことをして自分が生まれた」といった罪悪感を感じてしまわないか、その点も気がかりだ。この法案がいかにポンコツで、これでは議論に値しないほどの欠陥ばかりであることに気づいてくれる議員や国民が増えてくれることを祈るばかりである。

「特定生殖補助医療法案」という名の奇妙な法案②

2.「特定生殖補助医療法案」の特徴

 では今回提出された「特定生殖補助医療法案」の特徴は何か、について述べてみよう。法案の作成過程や国会への提出経緯もかなり特異ではあるのだが、まずは法律そのものの特徴から。

①他人の精子・卵子を用いた不妊治療(特定生殖補助医療)を受けられる日本人は、法律婚の男女のみ

 これはつまり、事実婚の男女、レズビアンやゲイ(LGBT)のカップル、選択的シングルマザーは今後他人の精子・卵子を用いて子をもうけることはできなくなるということを指す。議論の過程の詳細は不明なのだが、結果的にLGBTはおろか事実婚の男女も含めて精子提供・卵子提供の枠組みから排除されることとなり、病院で不妊治療を受けることは不可(というか犯罪)になる。

 

 なぜこれほど厳しい規制を課すことにしたのかはよくわからないが、建前上は、法律婚の男女と異なり法律関係が複雑になる(=子供が不幸になる)、という理由らしい。法律関係が複雑になり得るということ自体を否定するつもりはないが、だったら不妊治療を受けてはならない、という論理がよくわからない。一説には法案作成に関与した議員の中に強固な家父長制的(伝統的)家族観を持つ者がおり、その家族観に適合しない、適応しようとしない人たちには子を持つ資格はない(というかこいつらが偉そうに子を持とうなんて犯罪行為である!)、という意見で押し切ったのだという。前時代的な発想だとは思うが、引き起こされるのは法律婚者以外の者への人権侵害である。また、どうせこんな形で法律で規制したところで地下に潜るだけで、より危険な状況が生じる可能性もある。さらにはマクロな視点でみれば一段の少子化が進む懸念もあろう

 

 このように特定の人々が子を持つことを妨害しようとすることは、ちょうど時期を等しくして報道が流れている、旧優生保護法ともそっくりだ。この法案(特定生殖補助医療法案)と違い、旧優生保護法については耳にしたこともある人も多いだろう。戦後日本における有数の悪法として、また憲法違反が認定された法律としてつとに有名だ。簡単に言うと、「障がい者が子を持つと障がい者(不良な子孫)が産まれてしまい国の文化レベルが下がってしまうため、障がい者には強制不妊手術を受けさせることにしよう」という法律である。当然すぎる帰結だが、この法律は後に人権侵害として国際的に相当な非難を受け、国内でも憲法違反(憲法13条の個人の尊重・幸福追求権、および憲法14条の法の下の平等に違反)という判断が下り、ちょうど最近になって補償立法がされ、国会で謝罪決議が行われることとなった。ここで胸に刻んでおくべきことは、どれだけ多額の金銭を受け取ろうと、丁重な謝罪があろうと、失った時間は絶対に戻ってこないということだ。一度の人生を、こんな立法によりめちゃくちゃにされてしまった被害者の気持ちを思うと胸が苦しくなってしまう。

 

 話はそれたが、この法案と旧優生保護法の共通点に戻りたい。旧優生保護法、特定生殖補助医療法案のそれぞれの立法目的の違いはどうあれ、得られる結果は「特定の人々を生殖から排除することによる人権侵害」という点で共通している(目的がどうのこうの、保護法益がどうのこうのというのは詭弁であり、論点のすり替えだと筆者は思っている)。「特定の人々」というのは、特定生殖補助医療法では事実婚・LGBT・選択的シングルマザーの人々が、旧優生保護法では障がい者が該当する。強制不妊手術を行うか、という点では確かにこの法案と旧優生保護法は異なるが、後述の通りこの法案には国外犯規定が置かれており、世界中のどの国であろうと(たとえ合法の国であっても)この法律に違反すると犯罪者となることを踏まえると、強制不妊手術を受けさせられるのと結果は大きく変わらないと言ってよい。

 

②精子提供・卵子提供の商業利用は禁止

 現在日本人向けに活動している商業エージェントやドナーは利益の授受を行った時点で犯罪となる。利益の授受がなければ(つまりボランティアなら)法には触れないが、ドナーはともかくさすがに商業エージェントがボランティアで活動するなんてことはまずあり得ず、事実上息の根を止められることになる。現状では、国内・国外ともに商業エージェントはある程度のお金(精子や卵子だけでなく、諸々の手数料も含まれる)を依頼者から受け取って活動している(台湾などは若干制度が異なるらしい)。それがどの程度の儲け(粗利)なのか筆者はよく知らないが、依頼者が破産寸前になるほど手数料が高額かというとそうではないらしいので、いわゆる「暴利をむさぼる」というほどではないようだ。

 

 また、ドナーにも謝礼が一定程度支払われているが、そこまで謝礼に差があるものではないらしい(多少の差があっても、それはIQや運動能力や容姿の差というよりは、以前のドナー実績(どれだけ妊娠につながったか)に基づくものとのこと)。

生殖医療の領域は、確かにアメリカ的な、なんにでも価格を付けてオークションをするといったやり方が馴染む世界の話ではない、というのは一理あると思う。ただ、完全に無償にすることが需給関係(「依頼者の需要」と「エージェントやドナーの供給」)に悪影響を及ぼすことは火を見るより明らかだろう。このミスマッチを国はどう解消するつもりなのだろうか(あるいは「金なんか一銭もいらないよ。自分は人助けができればそれでいい」、という心清らかなエージェントやドナーが多数いるとでも思っているのだろうか)。少なくとも報道ベースでは、国がどういった想定をしているのかを窺い知ることはできない。果たしてどの程度考えているのか、不安になってしまうのは自分だけだろうか。

 

 法案のポンチ絵を見たところ、認定供給医療機関(精子・卵子を供給する医療機関)・認定実施医療機関(治療を行う医療機関)・あっせん機関(これまでのエージェント的な役割を担う事業者)が置かれることになるようだ。これらは営利を目的としてはならず(目的としちゃうと犯罪になる)あくまで無償でなければならない。国公立の病院ならまだしも、民間病院で果たしてどの程度手を挙げるのだろうか。またあっせん機関も全く何の儲けも得られないこの取り組みにどれだけ手を挙げるのだろう。自分には不安しかないが、国は一体何を考えているのだろうか。

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 ここでいま一度整理しておきたいのは、国が排除したいのは商業主義なのか、それとも優生思想なのか。商業主義であれば有償取引は完全禁止(実費は依頼者が補填することが可能なのか、という論点はある)ということになるが、上記のようなあっせん機関や認定医療機関が間違いなく不足するだろう。一方で精子や卵子に価格差を付けることが優生思想につながるというのであれば、大きな価格差がつかないような規制をすれば良いのではないだろうか。①でも説明した通りだが、そもそもこの法案自体が旧優生保護法に非常に似通っており、法案作成に関与した議員には「どの口が言う」と言ってやりたくなる

生殖医療の経済取引化・商業主義化が好ましくないからと言って、さすがに全部を無償にして上手く回るとはとてもじゃないが思えない。このままだと早晩破綻することが目に見えており、立案した議員の想像力のなさには呆れてしまう。

 

③子の「出自を知る権利」に関するルールを整備

 この語感だけ聞けば今より一歩前進のようにも聞こえるが、これは事実上は現行よりも大幅に子が知ることのできる内容が制限されることとなるようである。現状、ドナーの情報は年齢・顔・性格・趣味・特技や本人や親族の病気やアレルギーの情報などが依頼者に開示されるようになっている(商業エージェントにもよるし、どこまで開示してよいかに関しては当然ドナーへの意思確認がある)。

 

 ただ、この法案が成立すると、基本的には年齢・身長・血液型といった情報(+ドナーが同意した情報)しか開示されず、しかも開示請求は子が18歳になってからやっと可能になるらしい。もちろん親が子のルーツを知ることのできるタイミングも同様に、自分の子が18歳になってから。

 

 精子・卵子の提供時点では、年齢、身長、血液型に加えて、顔も、人種も、髪質も、体重も、国籍も思想も一切明かされないまま依頼者(親になろうとする者)にはドナーをあてがわれることになる。ドナーの登録要件にも国籍や人種はないようなので、例えばの話、とても日本人には見えない様な海外ルーツの人もドナー登録が可能となるようである。もはや、言ってみれば国営の精子・卵子ガチャ、ロシアンルーレットのようなものである。もちろん、それが悪いというつもりはなく、それを許容するカップルは利用したらよい。ただ、今の日本でそれがどの程度需要があるかは疑問符が無数についてしまう。他の掲示板でも話題に上がっていたのを見かけたが、いつの間にか従来の日本人には見えないような人が増えてくるのかもしれない…ここまで考えて、ふと中国によるウイグルの人権侵害の報道を想起してしまった。ウイグルの文化を抹殺するために、漢民族とウイグル族との結婚を促し、徐々に同化していくことを目指す中国政府の政策だ。まさかとは思うが、海外のある国の役人が在日コミュニティに声を掛け、組織的に大規模にドナー登録を行わせるようになったら数十年後の日本はどうなるだろうと思ってしまった。今後定められるであろう省令や通達でそうした懸念は払拭される可能性はあるが、少なくとも今、法案を見る限りそうした不安を消すことはできない。

 

 そういえば、実に不思議で不気味に感じるのは、日本の保守系議員(主に自民党、特に安倍派)はほとんど懸念の声を上げないことである。①のような家父長制的家族観にはうるさいくせに、このような問題に懸念を示さないのはどういうことなのだろう。優生思想につながるなどという反発を恐れるようなタマではあるまい。彼らなら、「外敵のステルス侵入を防ぎ、日本人の純血を守り抜かなければならない!」みたいなことを堂々と(臆面もなく)言ってのけるだろう。どうもそういった声を全く聞かないことが筆者にとってはとても不可思議であり、奇妙に感じるのである。

 

④①~③その他の本法律の規定に違反した場合は刑罰が科される

 これは、行政罰だとか許認可の取り消しだとか、そんな生温いものではなく、逮捕されて、裁判で懲役XX年と刑が宣告され刑務所に入る可能性がある、ということだ。本来立法府(国会)に属する者(国会議員)はむしろ行政(政府)が刑罰規定を課そうとすることの歯止めを行うべき立場である。それなのに、今回は議員立法で、刑罰を科すことを規定した法案を国会に提出している。これは立法論の立場からは非常に慎重になるべきなのである。これまで刑罰規定を加えた議員立法もない訳ではないが、非常に稀である。特に今回は生命倫理という、黒か白かをはっきりとつけにくい論点を扱っている中で、刑罰規定を加えるということにどうしても違和感を持たざるを得ないのである。

 

 さらに驚くべきことに、本法案をよく読むと国外犯規定まで存在している。日本で出来ないなら海外のエージェントを頼って…ということまで封じられ、世界中で犯罪者として日本の警察から追われる、ということである(初めて法案を見たときは唖然としてしまい、子どもを抱えながらインターポールに追われるルパン三世を想像して苦笑すらしてしまった)。これは治療をした海外の国では合法であろうとなかろうと関係ない日本国籍を持つものにはこの国外犯規定が適用されることになるという、俄かに信じがたい条文構成になっているのである。どうもこれは、過去に制定された臓器移植法を参考にしているようである。ただ当然、臓器移植のブローカーと精子提供・卵子提供のエージェントとは全く異なっている。これでは法案を立案した議員の現場の解像度が著しく低いと言わざるを得ないだろう。

 

 ここからは筆者の私見となるが、法律婚以外の人々に対し積極的な法的保護を行わない(または税制などで積極的な優遇をしない)という程度であれば、国民の代表者である国会の議決を経てそういう法律が制定されることも、(自分は賛同しないが)まだ理解できないわけではない。法的保護の外に置かれて、法律婚以外の人は勝手にすればいい、民間の医療機関や海外で不妊治療をすること自体は罰しないし、関知もしないというのであれば、それは国家としての一つの価値判断ともいえるかと思う(もちろん一個人としては賛同していない)。

 

 しかしながら、この法案はそうした一線を大きく、完全に踏み越えてしまっているように感じてしまうのである。精子・卵子に値段を付けることも、法律婚以外の者に生殖補助医療の機会を与えないことも、決して世界共通の規範ではない。アメリカにおけるpro-lifeとpro-choiceの論争(人工妊娠中絶を認めるか否かという論争)でもそうだが、こうした生命倫理に関する議論は過去何十年と続けられており、未だに決着している訳ではない。にもかかわらず、日本ではたったの4年程度の議論で決着をつけ(議論していた議員連盟では十分時間をかけたつもりのようだが)、それを世界中の日本人に適用しようとするのは、さすがに筆者には理解できないし、これでは世界中で過去に行われてきた議論への冒涜ともいえるのではないだろうか。