英国の国民投票の結果、欧州の銀行セクターの債権全般に対して見通しを下方修正する。これは、過去にも見られたとおり、一連のボラティリティー上昇におよって銀行セクターが大きくアンダーパフォームすると見られるからである。
ソルベンシーの観点からいうと欧州の銀行に問題があるわけではないが、国民投票の結果が広範囲にもたらす影響が現状不確かで
ある以上、欧州の銀行セクターには厳しい状況である、と考える。英国の銀行にとって明らかに逆風であることに加えて、EU域内でさらなる分裂の芽がある以上、周辺国の銀行、ならびに、クロスボーダーのオペレーションが大きい銀行にとっても厳しい環境が待ち受ける、と我は考える。
リスクオフの流れのなか投票結果の余波を受けて、iTraxx Fin Seniorは絶対水準として200bpsを試すことになろう(訳注:6
月24日終値126bps)。もっとも、欧州の銀行のすべての債権種類(capital structure)においてワイド化が急激に進むとみているが。
AT1に関しては、大きな発行体である英国の銀行が率先して売られるであろうことに鑑みれば、マーケットはJPモルガンのAT1インデックスが85ポイントをつけた2月のセルオフ時を超えて下値を探ることもあり得るとして、オーバーウエイトからアンダーウエイトにダウングレードする。国内業務が大半をしめること、また、それ故に今後行われるであろうスコットラン
ドの国民投票の影響を受けやすいことから、RBSとLloydsがもっともネガティブな影響を受けるであろう。また、AT1ほどではな
いが、同様の理由により影響を受けるとの見方から、Tier2についてもオーバーウエイトからアンダーウエイトに変更する。ECB
は(国民投票の結果がもたらす)ネガティブな影響や市場のボラティリティーを緩和するための策を打つであろうが、こうした政策
は非金融セクターで社債の購入等が中心となろう。規制上、銀行セクターはそうした政策の枠外と考えられる。
我々はAT1のバリュエーションをリスクオフのシナリオではとりわけ影響を受けると考える。まだ初期段階であり、国民投票による
離脱の選択が具体的にどのような影響をもたらすか推測するのは困難であるが、前回の健全性監督機構(PRA)によるスト
レステストの結果をもとにそれらの計測を試みた。我々は、不動産市場のショックを想定した2014年のPRAストレステストは、
ワーストケースシナリオにおける損失の見通しとしては適当だと考えており、AT1投資家がかかえるリスクを軽量化する一助とな
ると考えている。我々の分析によると、今回の影響により規制資本比率はゆうにMDAゾーンに突入し、7%の(ハイ)トリガーの
危険レベルに近づく可能性がある。したがって、市場は第一四半期のセルオフよりもより厳しい想定を価格に織り込むことにな
ろうし、こうした規制資本商品は株式転換の要素がつよい(しかもさまざまな転換価格で)ことを意識するだろう。
我々は今回の英国の国民投票が、EU域内において更なる分断化のカタリストになるという意味において、英国外の欧州銀
行に対してもたらすであろう波及効果を懸念している。全般的に周辺国の銀行は、EU以外での分散が進んでいるBBVAを除いて、影響が大きいであろう。また、東欧にエクスポージャーが大きい銀行(オーストリアの銀行、UniCredit)のリスクも大きいとみている。
英国のEU離脱はグローバルな金融市場にショックを与えた。アジアのクレジットもグローバルマーケットのボラティリティーとは無
縁でないものの、今のところリアクションは大きなものではなく、また、そのような状態が続くとみられる。ほとんどが英国の離脱を
予測していなかったとはいえ、投資家は国民投票に向けてポジションを調整していたと我々は見ている。アジア地域と英国との
直接貿易の(低い)水準に鑑みれば、足元マクロ的なインパクトは限定的であろうと考えられる。中期的には、銀行の与信の
チャンネル、および、世界的な成長率の低下という経路を通じてBrexitはアジア地域に影響をもたらす可能性がある。グロー
バル金融市場の動揺は安全資産への投資資金の逃避をもたらす可能性があり、アジア各国の通貨にプレッシャーを与えるで
あろう。これはインドやインドネシアのクレジットに対してネガティブである。ドル高が進めば商品市況に圧力をかけることになり、
したがってコモディティ関連銘柄にとっては厳しいものとなる。他の二次的な影響としては、2012年に見られたように、欧州の銀
行が海外業務を縮小するとすれば、香港の企業による社債調達が増加する可能性がある。アジアの銀行セクターはこの二
次的影響に対処する必要がある。
投資家は国民投票前からリスク調整をすすめていた。JPMが先週実施したアジア投資家サーベイによると、多くの投資家は
Brexitでセルオフになればバイ・オン・ディップのチャンスをうかがうと回答した。リアルマネーの投資家は英国国民投票前に投資
を抑えており、したがって、現状はよりリスク選好を上げている。最近アジアクレジットの投資家としての存在感を増している商
業銀行は、ドルの流動性も確保しており、価格がおちれば買い増すというスタンス。もっとも弱気な層であるファーストマネーの
投資家は、強気のバリュエーションの中で弱まるファンダメンタルズというテーマの下で、国民投票前からポジションをショートにし
ており、現状は市場を動かす原動力ではない
市場の反応は限定的。幸か不幸か、今のところアジアクレジットではセルオフの動きは見られない。アジアのCDS5年は当初
20pbsほど広がったがその後半分戻した。同じように、投資適格銘柄では当初15pbsほどワイド化したものの、終値ベースで
5-10bpsの拡大に留まった。社債価格にいたっては、米金利の低下によってむしろトレードアップされる形となったが、アジアの
イールド重視の投資家にとってはもはや魅力的な水準とはいえない。唯一の例外は、最近発行されたハイイールド債くらいで、
利食いの売りで軟化した。ヘッジファンドの格好のショートの対象である中国銀行のAT1は、1.25ポイント低下したあとは値を
戻した。
アジアのEMに対するマクロのインパクトも限定的。少なくとも短期的には秩序ある離脱がEMアジアに与えるマクロ的影響は
少ないであろう。もっとも、資金移動が市場のボラティリティーに影響を与えることはあり得る。この点、英国の離脱決定がEM
アジア市場に影響を与える経路は二つある。一つが金融であり、もう一つは貿易である。一時的な市場の混乱はあるにせよ、
外国銀行の資金供給チャンネルは足元大きなリスクではない。EU危機の時点をことを思い起こせば、当時はEUの銀行から
EMアジアへの資金供給はゆっくりと減少していたものの、香港やシンガポールといった他の金融センターからの資金がそれを埋
め合わせた。貿易については、EMアジアから英国への直接貿易は、EMアジアの輸出量の2%程度であり、大きなものではな
い。事実、英国のみならず他のEU諸国はここ数年のアジアの貿易増加の原動力ではなかった。結局のところ、大きな問題は、
英国離脱の混乱がグローバルの経済成長の足かせとなるかどうか、ということだろう。
EMアジアの通貨に対しては圧力。市場ボラティリティーの増加によって安全資産への資金逃避が惹起される。これはエマージ
ングアジア諸国の通貨に影響を与えており、すでに0.4%(人民元)から2.46%(韓国ウオン)通貨安となっている。自国市場
にフォーカスを置き、かつ、ヘッジなしの為替ポジションを持つアジアのコーポレットに対して、この通貨の動きはネガティブである。
我々はインドネシアルピー(IDR)がもっとも影響を受けやすい考えているが、多くのインドネシア企業は概ね通貨のヘッジをして
おり、また、IDRの値動きも今のところ大きくはない。ただし、Gajah Tuggal、JapfaおよびNMC Investamaというところは例
外であり、これらの会社は通貨ヘッジを行っていない。同様に、インドルピーも影響を受けやすいと考えられるが、外国投資規
制の緩和といった最近の改革は緩和要因である。とはいえ、インドルピー安は、Bharti、RCOMおよび(より低い程度だが)
JSW Steelといった先にはネガティブであろう。中国のハイイールドセクターでは、不動産銘柄や少数の事業会社については、
その米ドル建て債務の大きさに鑑みれば、人民元に対するドル高は多少ネガティブな要素である(CAR、eHi、Geely、West
China Cement)。しかしながら、現実的には、市場テクニカルの強さ、および、国内調達の多様化(特に不動産会社向け)
に鑑みれば、影響は限定されるであろう。フィリピンでは、数社が親会社レベルで米ドル建て債務を有する(ICTSI、FirstPacific)ために、ドル高はある程度影響をもたらすと考えられる。別の側面からみると、ドル高傾向は、現地投資家のドルアセ
ットに対する需要を高めるであろう。
英国や欧州に対する直接的なエクスポージャーは限定的。我々がカバーするほとんどのアジア企業は英国および欧州に限定
的なエクスポージャーしかもたないし、エクスポージャーが相対的に大きい先のバランスシートは相対的に良好である。英国/欧
州への依存度が高い企業といえば、傘下企業での通信事業、インフラのエクスポージャーから、おそらくHutchやCKAが最大
であろう。このうちHutchの収益の60%は欧州からであるが、格付け機関の最近のコメントによると格付けが影響を受ける可
能性は低いと見ている。もっとも、同社の欧州での事業は公共性の強いローベータのものであるとしても、欧州のスローダウン
はクレジットに対してある程度の影響をもたらすと考えられる。これらを除けば、エクスポージャーが高いのは、現代自動車や気
亜自動車(20%程度が欧州)、HYセクターではSamvardhana Motherson(売上は100%欧州)
アジア企業に二次的影響はあるであろう。とりわけ、香港企業にとっては、当面の間欧州銀行が資本を地元に戻すことが予
想される。2012年の欧州の銀行が流動性危機に見舞われたときと同様に、香港の企業から資金調達が旺盛になるというシ
ナリオは考えられるが、中国の銀行のプレゼンスを考えれば、前回ほどの規模とはならないであろう。
ところで、結果的な米ドル高と英国/欧州の成長率低下は、原油やベースメタルといった商品価格に影響を与え、したがって、
石油関連銘柄(とりわけ、上流に位置する企業や採掘会社)やVedanta、Nobleといったコモディティ銘柄には多少ネガティ
ブに作用する可能性がある。しかしながら、生産規模が拡大する期待が強いVedantaは前年に比べEBITDAが増加するで
あろう。他方、Tata Steelが英国事業の売却を計画しているが、マクロ的な不確実性によって買い手を見つけることが困難に
なる可能性がある。
アジアの銀行は経済および金融の二次的影響のリスクにさらされるか。二次的な影響を予想するのは困難であるが、アジア
の金融セクターはグローバルな同業他社と比べれば良好な市場ポジションにある。とはいえ、ファンダメンタルズのピークアウトに
対しては追加的な悪材料となる可能性がある。この点、英国離脱の二次的影響がこれからどのように出てくるかモニターする
必要はあるものの、現状、アジアの金融セクターは相対的に良好なクレジットプロファイルを有しており、スプレッド拡大のドライ
バーにはなりにくいと見ている。もっとも、アジアの金融セクターは多少収益が影響を受けると思われる。中国の四大銀行のよう
に、英国でのプレゼンスが大きいところはポストBrexitの規制環境に適応するためのコスト増加を迫られよう(このことは英国お
よび欧州で業務を行う銀行すべてに共通する問題であるが)。他方、悪影響を和らげる材料もある。一つは為替トレード業
務であり、また、欧州の銀行がアジアでの業務を晴らしてくればアジアの金融機関はその分成長の機会を狙えるであろう。総
じて言えば、我々の見立てによると第一次的な影響は大きなものではない。今後の展開を注視していきたい。
ハイイールドより投資適格セクターを引き続き推奨。Brexitは米国債のラリーをもたらしたし、こうして市場のボラティリティが増
加するなか、我々はFedはよりハト派的なスタンスを強めるとみている。英国のEU離脱に伴う質への逃避は米国債のイールド
を低位にとどめるであろうし、これは、ファンダメンタルが良好な投資適格企業にとってはBrexit後のグローバルな景気低迷をし
のぐための一助となるであろう。一方、EMアジアの通貨への影響と景気後退のリスクに鑑みれば、ハイイールド企業は、米国
金利の低下の恩恵をそれほど享受できるわけでもなく、引き続き弱含みで推移すると我は考えている。結論としては、
Brexitそれ自体のアジア企業に与えるインパクトは対処可能であるが、それに伴う通貨安・グローバルな景気後退は懸念材
料である。こうしたことは、アジアクレジットにおいては、引き続きハイイールドより投資適格を選好する我々の見方を強めるもの
と考えている。
ソルベンシーの観点からいうと欧州の銀行に問題があるわけではないが、国民投票の結果が広範囲にもたらす影響が現状不確かで
ある以上、欧州の銀行セクターには厳しい状況である、と考える。英国の銀行にとって明らかに逆風であることに加えて、EU域内でさらなる分裂の芽がある以上、周辺国の銀行、ならびに、クロスボーダーのオペレーションが大きい銀行にとっても厳しい環境が待ち受ける、と我は考える。
リスクオフの流れのなか投票結果の余波を受けて、iTraxx Fin Seniorは絶対水準として200bpsを試すことになろう(訳注:6
月24日終値126bps)。もっとも、欧州の銀行のすべての債権種類(capital structure)においてワイド化が急激に進むとみているが。
AT1に関しては、大きな発行体である英国の銀行が率先して売られるであろうことに鑑みれば、マーケットはJPモルガンのAT1インデックスが85ポイントをつけた2月のセルオフ時を超えて下値を探ることもあり得るとして、オーバーウエイトからアンダーウエイトにダウングレードする。国内業務が大半をしめること、また、それ故に今後行われるであろうスコットラン
ドの国民投票の影響を受けやすいことから、RBSとLloydsがもっともネガティブな影響を受けるであろう。また、AT1ほどではな
いが、同様の理由により影響を受けるとの見方から、Tier2についてもオーバーウエイトからアンダーウエイトに変更する。ECB
は(国民投票の結果がもたらす)ネガティブな影響や市場のボラティリティーを緩和するための策を打つであろうが、こうした政策
は非金融セクターで社債の購入等が中心となろう。規制上、銀行セクターはそうした政策の枠外と考えられる。
我々はAT1のバリュエーションをリスクオフのシナリオではとりわけ影響を受けると考える。まだ初期段階であり、国民投票による
離脱の選択が具体的にどのような影響をもたらすか推測するのは困難であるが、前回の健全性監督機構(PRA)によるスト
レステストの結果をもとにそれらの計測を試みた。我々は、不動産市場のショックを想定した2014年のPRAストレステストは、
ワーストケースシナリオにおける損失の見通しとしては適当だと考えており、AT1投資家がかかえるリスクを軽量化する一助とな
ると考えている。我々の分析によると、今回の影響により規制資本比率はゆうにMDAゾーンに突入し、7%の(ハイ)トリガーの
危険レベルに近づく可能性がある。したがって、市場は第一四半期のセルオフよりもより厳しい想定を価格に織り込むことにな
ろうし、こうした規制資本商品は株式転換の要素がつよい(しかもさまざまな転換価格で)ことを意識するだろう。
我々は今回の英国の国民投票が、EU域内において更なる分断化のカタリストになるという意味において、英国外の欧州銀
行に対してもたらすであろう波及効果を懸念している。全般的に周辺国の銀行は、EU以外での分散が進んでいるBBVAを除いて、影響が大きいであろう。また、東欧にエクスポージャーが大きい銀行(オーストリアの銀行、UniCredit)のリスクも大きいとみている。
英国のEU離脱はグローバルな金融市場にショックを与えた。アジアのクレジットもグローバルマーケットのボラティリティーとは無
縁でないものの、今のところリアクションは大きなものではなく、また、そのような状態が続くとみられる。ほとんどが英国の離脱を
予測していなかったとはいえ、投資家は国民投票に向けてポジションを調整していたと我々は見ている。アジア地域と英国との
直接貿易の(低い)水準に鑑みれば、足元マクロ的なインパクトは限定的であろうと考えられる。中期的には、銀行の与信の
チャンネル、および、世界的な成長率の低下という経路を通じてBrexitはアジア地域に影響をもたらす可能性がある。グロー
バル金融市場の動揺は安全資産への投資資金の逃避をもたらす可能性があり、アジア各国の通貨にプレッシャーを与えるで
あろう。これはインドやインドネシアのクレジットに対してネガティブである。ドル高が進めば商品市況に圧力をかけることになり、
したがってコモディティ関連銘柄にとっては厳しいものとなる。他の二次的な影響としては、2012年に見られたように、欧州の銀
行が海外業務を縮小するとすれば、香港の企業による社債調達が増加する可能性がある。アジアの銀行セクターはこの二
次的影響に対処する必要がある。
投資家は国民投票前からリスク調整をすすめていた。JPMが先週実施したアジア投資家サーベイによると、多くの投資家は
Brexitでセルオフになればバイ・オン・ディップのチャンスをうかがうと回答した。リアルマネーの投資家は英国国民投票前に投資
を抑えており、したがって、現状はよりリスク選好を上げている。最近アジアクレジットの投資家としての存在感を増している商
業銀行は、ドルの流動性も確保しており、価格がおちれば買い増すというスタンス。もっとも弱気な層であるファーストマネーの
投資家は、強気のバリュエーションの中で弱まるファンダメンタルズというテーマの下で、国民投票前からポジションをショートにし
ており、現状は市場を動かす原動力ではない
市場の反応は限定的。幸か不幸か、今のところアジアクレジットではセルオフの動きは見られない。アジアのCDS5年は当初
20pbsほど広がったがその後半分戻した。同じように、投資適格銘柄では当初15pbsほどワイド化したものの、終値ベースで
5-10bpsの拡大に留まった。社債価格にいたっては、米金利の低下によってむしろトレードアップされる形となったが、アジアの
イールド重視の投資家にとってはもはや魅力的な水準とはいえない。唯一の例外は、最近発行されたハイイールド債くらいで、
利食いの売りで軟化した。ヘッジファンドの格好のショートの対象である中国銀行のAT1は、1.25ポイント低下したあとは値を
戻した。
アジアのEMに対するマクロのインパクトも限定的。少なくとも短期的には秩序ある離脱がEMアジアに与えるマクロ的影響は
少ないであろう。もっとも、資金移動が市場のボラティリティーに影響を与えることはあり得る。この点、英国の離脱決定がEM
アジア市場に影響を与える経路は二つある。一つが金融であり、もう一つは貿易である。一時的な市場の混乱はあるにせよ、
外国銀行の資金供給チャンネルは足元大きなリスクではない。EU危機の時点をことを思い起こせば、当時はEUの銀行から
EMアジアへの資金供給はゆっくりと減少していたものの、香港やシンガポールといった他の金融センターからの資金がそれを埋
め合わせた。貿易については、EMアジアから英国への直接貿易は、EMアジアの輸出量の2%程度であり、大きなものではな
い。事実、英国のみならず他のEU諸国はここ数年のアジアの貿易増加の原動力ではなかった。結局のところ、大きな問題は、
英国離脱の混乱がグローバルの経済成長の足かせとなるかどうか、ということだろう。
EMアジアの通貨に対しては圧力。市場ボラティリティーの増加によって安全資産への資金逃避が惹起される。これはエマージ
ングアジア諸国の通貨に影響を与えており、すでに0.4%(人民元)から2.46%(韓国ウオン)通貨安となっている。自国市場
にフォーカスを置き、かつ、ヘッジなしの為替ポジションを持つアジアのコーポレットに対して、この通貨の動きはネガティブである。
我々はインドネシアルピー(IDR)がもっとも影響を受けやすい考えているが、多くのインドネシア企業は概ね通貨のヘッジをして
おり、また、IDRの値動きも今のところ大きくはない。ただし、Gajah Tuggal、JapfaおよびNMC Investamaというところは例
外であり、これらの会社は通貨ヘッジを行っていない。同様に、インドルピーも影響を受けやすいと考えられるが、外国投資規
制の緩和といった最近の改革は緩和要因である。とはいえ、インドルピー安は、Bharti、RCOMおよび(より低い程度だが)
JSW Steelといった先にはネガティブであろう。中国のハイイールドセクターでは、不動産銘柄や少数の事業会社については、
その米ドル建て債務の大きさに鑑みれば、人民元に対するドル高は多少ネガティブな要素である(CAR、eHi、Geely、West
China Cement)。しかしながら、現実的には、市場テクニカルの強さ、および、国内調達の多様化(特に不動産会社向け)
に鑑みれば、影響は限定されるであろう。フィリピンでは、数社が親会社レベルで米ドル建て債務を有する(ICTSI、FirstPacific)ために、ドル高はある程度影響をもたらすと考えられる。別の側面からみると、ドル高傾向は、現地投資家のドルアセ
ットに対する需要を高めるであろう。
英国や欧州に対する直接的なエクスポージャーは限定的。我々がカバーするほとんどのアジア企業は英国および欧州に限定
的なエクスポージャーしかもたないし、エクスポージャーが相対的に大きい先のバランスシートは相対的に良好である。英国/欧
州への依存度が高い企業といえば、傘下企業での通信事業、インフラのエクスポージャーから、おそらくHutchやCKAが最大
であろう。このうちHutchの収益の60%は欧州からであるが、格付け機関の最近のコメントによると格付けが影響を受ける可
能性は低いと見ている。もっとも、同社の欧州での事業は公共性の強いローベータのものであるとしても、欧州のスローダウン
はクレジットに対してある程度の影響をもたらすと考えられる。これらを除けば、エクスポージャーが高いのは、現代自動車や気
亜自動車(20%程度が欧州)、HYセクターではSamvardhana Motherson(売上は100%欧州)
アジア企業に二次的影響はあるであろう。とりわけ、香港企業にとっては、当面の間欧州銀行が資本を地元に戻すことが予
想される。2012年の欧州の銀行が流動性危機に見舞われたときと同様に、香港の企業から資金調達が旺盛になるというシ
ナリオは考えられるが、中国の銀行のプレゼンスを考えれば、前回ほどの規模とはならないであろう。
ところで、結果的な米ドル高と英国/欧州の成長率低下は、原油やベースメタルといった商品価格に影響を与え、したがって、
石油関連銘柄(とりわけ、上流に位置する企業や採掘会社)やVedanta、Nobleといったコモディティ銘柄には多少ネガティ
ブに作用する可能性がある。しかしながら、生産規模が拡大する期待が強いVedantaは前年に比べEBITDAが増加するで
あろう。他方、Tata Steelが英国事業の売却を計画しているが、マクロ的な不確実性によって買い手を見つけることが困難に
なる可能性がある。
アジアの銀行は経済および金融の二次的影響のリスクにさらされるか。二次的な影響を予想するのは困難であるが、アジア
の金融セクターはグローバルな同業他社と比べれば良好な市場ポジションにある。とはいえ、ファンダメンタルズのピークアウトに
対しては追加的な悪材料となる可能性がある。この点、英国離脱の二次的影響がこれからどのように出てくるかモニターする
必要はあるものの、現状、アジアの金融セクターは相対的に良好なクレジットプロファイルを有しており、スプレッド拡大のドライ
バーにはなりにくいと見ている。もっとも、アジアの金融セクターは多少収益が影響を受けると思われる。中国の四大銀行のよう
に、英国でのプレゼンスが大きいところはポストBrexitの規制環境に適応するためのコスト増加を迫られよう(このことは英国お
よび欧州で業務を行う銀行すべてに共通する問題であるが)。他方、悪影響を和らげる材料もある。一つは為替トレード業
務であり、また、欧州の銀行がアジアでの業務を晴らしてくればアジアの金融機関はその分成長の機会を狙えるであろう。総
じて言えば、我々の見立てによると第一次的な影響は大きなものではない。今後の展開を注視していきたい。
ハイイールドより投資適格セクターを引き続き推奨。Brexitは米国債のラリーをもたらしたし、こうして市場のボラティリティが増
加するなか、我々はFedはよりハト派的なスタンスを強めるとみている。英国のEU離脱に伴う質への逃避は米国債のイールド
を低位にとどめるであろうし、これは、ファンダメンタルが良好な投資適格企業にとってはBrexit後のグローバルな景気低迷をし
のぐための一助となるであろう。一方、EMアジアの通貨への影響と景気後退のリスクに鑑みれば、ハイイールド企業は、米国
金利の低下の恩恵をそれほど享受できるわけでもなく、引き続き弱含みで推移すると我は考えている。結論としては、
Brexitそれ自体のアジア企業に与えるインパクトは対処可能であるが、それに伴う通貨安・グローバルな景気後退は懸念材
料である。こうしたことは、アジアクレジットにおいては、引き続きハイイールドより投資適格を選好する我々の見方を強めるもの
と考えている。