12の短編集からなる青山美智子著「木曜日にはココアを」の第2話「きまじめな卵焼き」をご紹介(ネタバレ)。家事の苦手な女性が読めば安堵感に包まれるお話です。
広告代理店勤務の朝美はバリバリのキャリアウーマン。
同じ代理で働く年下の輝也と結婚。
輝也は絵を描きたいので会社を辞めて家事を受け持つと言い出した。
実家暮らしの朝美は茶碗も洗ったことがなく、内心ラッキーと思い、輝也は主夫に、朝美はますます仕事に精を出した。
子どもが生まれても輝也はぬかりなく育児も家事もこなしていた。
そんな輝也に、京都で絵画展の話が舞い込む。
お弁当作りをしなくてはならなくなった朝美。
息子が大好きな卵焼きを練習するが、何度やっても上手に焼けない。
卵焼きさえ満足に作れないなんて。
気がつくと泣いていた。
仕事なら自信があるのに。
これまで家計を支えているという自負があったのに。
プライドがぐしゃぐしゃになった朝美。
輝也の絵が売れるようになったらどうしよう。主夫をしてくれなくなったら…。
絵なんか売れないで。
ずっとそばにいて。
そう思ってまた涙が流れ落ちた瞬間、輝也から電話が。
「卵焼きも作れないこんなダメなお母さんじゃ、息子がかわいそうだよね」と、しゃくりあげながら伝えると、
輝也はピシャリと言った。
「どのフライパン使ってる?」
そう、卵焼き用の四角いフライパンで焼いたら、きれいな卵焼きが作れた。
「頑張ったね。素敵なお母さんじゃないか、ちっともダメじゃないよ。朝美のそういう
まじめで純粋なところ、好きだよ」
泣き止んだ朝美はゆっくりと言った。
「輝也の絵、たくさんの人に見てもらえるといいね」
そして、できそこないの卵焼きを息子が指差して言う。「これ食べていい?」
輝也さんみたいな旦那だったら、
すっかり縁遠くなった私でさえも、
今から結婚したいと思えるかも