5章

 「ちょっと待ちなさい。美人の話も悪くはないけど、私は女装さんの話を聞きに来たのですよ。話が違うじやありませんか?女装さんが出ないなら私は貴方をお迎えして帰らなければならないのです」

 ベッドの下でかしこまっていた死神が突然立ち上がると、私に骨だけの手を差し伸べてきたのだ。

 黒い洞窟のような目の下の真っ白な歯をカタカタさせて死神は叫ぶ。

 ああ~またか?私は死神の誘いにため息をつく。

 「どうして死神さんは毎度私の話に合いの手を入れて邪魔するのです。まだ話は始まったとこなのですよ」

 「そう言われても、貴方は私のお迎えを待つ代わりに美人の女装さんのはなしをするということが、私との約束ではなかったのですか?

 ところが美人は美人でも、ホントの女性は出てきたけど女装さんの姿など見えないじゃありませんか。これは約束違反です。だから私は貴方をお迎えするのです」

 もう、この死神、二言目には<お迎え>と私を脅す。たとえ死神相手でも私は脅しには屈する気はないのだから~。

 

 「一寸待って下さい。そうまで死神さんが言うなら私も言わしてもらいます。前にも私言ったでしょう。人間の寿命は短いけど、それであっても私は気長に死神さんに話をしていると言うのに、どうして寿命の心配のない死神さんがそう急かすのか?あなた、その私の言い分に納得したのではありませんか?」

 私の反論に死神はまた歯をカタカタ鳴らす。

 「そこまで言うなら死神も言わしてもらいます。93歳の貴方、いつも言っているそうですね。<93歳、明日のことは分からない。だから、今日を精一杯楽しく生きる>とね。だからこそ私心配なのです。

 そのことは明日、貴方を私がお迎えすることになるかも知れないと言うことでしょう?そしたらこれから展開する続きの話が聞けなくなるではありませんか。だからこそ女装さんの出る話を死神が早く聞きたくなるのは当然でしょう」

 「一寸死神さん、あなた今変なこと言いましたよ。私が死んだら話が聞けない?でもお迎えが仕事のあなたが私をお迎えしなかったら、話はゆっくり聞けるではありませんか。私が百歳まで死神さんのお迎えなしにすれば、私は明日の心配なしにゆっくりとお話できると思いますが」

 

 <もうああ言えばこう言う、人間はどうしてこう理屈ぽいんだ。私がお迎えに行けば、ありがとう、といえばいいのだ>

< あれ?死神がなにかぶつぶつ言っている。いや聞こえるわけでもないのに私の頭のなかに声が入ってくる>

 

 「分かりましたよ。百歳までとは私も辛抱できませんけど、とにかくここは貴方の話が終わるまではお迎え諦めます。でも女装さんは出てくるでしょうね?」

 この死神、よほど女装さんが執心のようだ。まあ、ここは愛想よくしないとね。

 「勿論ですとも、私も女装さんが出ないと寂しいですからね」

 言ったとき、あれ?死神の姿は消えていた。

 話は明日のようだ。

 <続く>