それから2週間ぐらいでしょうか?

 とにかく私と富子さんにとっては時間は無意味でした。

 新居のマンションでの新婚夫婦です。

 そして仕事は二人でスナックで夜中までお客相手をするのです。

 女装スナックですから、女装さんが来るのは勿論、女装さん目当ての男性のお客も来ます。

   でも美人の富子さんに引き寄せられるのか、男性はもとより、女装さんまで入れ替わり立ち代わり富子さんのもとにやってくるのです。

 それは私も経験した、引き寄せられた一人かも知れないと分かってきたきたのです。

 富子さんと面と向かって向かい会うと、磁力のようなものを感じて引かれて富子さんを抱きかかえようとする衝動にかられてしまう、そんな魔力のようなものを富子さんは持っているのです。

 多分客たちが富子さんに引き寄せられるのはそれだと気が付いたのは、バーテン修行で富子さんのそばに居るようになってからです。

 私は内心気が気でないのだけど、バーテンの立場です。客たちのそんなありようを

知らぬ顔で居るしかないのです。考えたら良くぞバーテン志願して富子さんと一諸に仕事したものと思います。

 さすがに客たちも私と富子さんとの関係は思いもよらないみたいです。小男、ぶ男の見本みたいな私です。

 それが夫婦だなどだれが思いますか?

 でも私は女装さん達が美女となって男性と接するのを見ていると、私だって~と思うのです。

 私は富子さんの手でメイクしたとき、思いもよらない美人に変身しているのですから自信はあるのです。

 思い付きみたいに私はその願望を富子さんに打ち明けたのです。

 ところが富子さんの反応は思いもよらないことでした。

 「亮さんそれは絶対ダメ。貴方が女装してお客の相手するなんて、そんなこと私は耐えられない。亮さんは私だけのものなのだから~」

 まさしく富子さんの反応は嫉妬の表れそのもでした。

 でも反対されて私は最高の喜びを感じたのです。<富子さんはこの私を本当に愛していてくれている>富子さんの想いを感じ取ることできたからです。

 私は幸せでした。

 

 ㉕

   愛さんから<木村さんが愛さんの家で会いたい>と連絡あった時も、なんだろうと一舜思ったけど気にもしませんでした。

 富子さんとの生活に私は毎日がうきうきだったからです。

 この想いを愛さんにも伝えたい、そんな気持ちでいたぐらいです。

 何の心配もなくなったとの思いで、富子さんを家に置いて私は時間に愛さんの離れの家に行ったのです。

 木村さんはもう先に来ていました。

 父からのことづけを聞いて木村さんは来たのです。

 愛さんも同席して話を聞きました。

 「じつは海野がお屋敷にやってきました。社長に面会を要求したのです。愛さんが応対して亮さんに言われた通り上がらせて、応接室に通しました」

 やはり海野は来たかと予想通りだと私は思ってうなずきました。

 終始立ち会ってきた木村さんの話を要約すると~

 

 さすがに屋敷の雰囲気に圧倒されたのか?海野はかしこまって応接室ですわっていました。

 父が木村さんを従え応接間に入ってくるのを見ると、海野は慌てて立ち上がったのです。最敬礼する海野にも無視して父は座ると、いきなり海野に問いかけたのです。

 「なにか川村亮に用件があってのことと聞いたが~」

 「はい、社長の息子さんの川村亮さんに私の内縁の妻富子を取られました。富子は亮さんの指図に従い、私と縁を切る、住んでいたマンションから出ていくこと、女装スナックので働いていた私のバーテンの仕事も首切られました。

 そのために私は住む家もなく収入もなくなり暮らしていけなくなりました。本来なら亮さんにその保証して頂きたいのですが、まだお若くその資力もお持ちでないので

親御さんの社長さんに肩代わりお願いに参りました」

 「ほう私に責任取れと言われるか?生憎だが亮はこの家を出て行ったもので、私とは関係ありません。当然、申し出の件はお受けできません。返事はそれだけです」

 「社長それは酷じゃありませんか?いやしくもわが子の後始末もできない社長と吹聴されることになれば天下の川村工業の名前が泣くと言うものです。それでもよろしいのですか?」

 「脅しているのか?」

 「脅していません。お困りになるのではと言っているだけです」

 「別に困ることではない。おい、お帰りだ」

 「社長さん拒否されるのですか?いいのですか?」

 「だれだ、このカスのアポ許したのは?」

 応接室から出ていく社長に追いすがる海野の腕を木村さんがつかんだのです。

 「社長がお帰りと言っておられるのだ、帰ってもらおう」

 大男の木村さんに引きずられるようにして、海野は屋敷の外に押し出されたのです。

 「覚えておけ~」

 海野がわめきながら屋敷から離れたときです。

 降ってわいたように10人ばかりの男たちが海野を取り囲んだのです。

 「よくも川村工業の社長さんを脅したな~社長さんが許してくれても俺たちは許さん」

 襟首つかまれ寄ってたかって殴るけるの暴行です。

 「助けて~殺される」悲鳴を上げる海野です。

 本当にそのままでは殺されるような状況になった時です。

 「止めなさい。暴力はダメです社長を困らせることになります。止めてください」

 木村さんが割って入ったのです。

 すると、その木村さんの一声であっという間に男達は散ったのです。

 木村さんは道路に伸びて血だらけ、あざだらけ、服もボロボロ髪はさんばら無残な姿の海野を抱き起したのです。

 「大丈夫か?あなたも馬鹿なことをしたものだ。脅す相手を間違ったようだ。言っておくが、亮さんの目の届くところに居ないことだ。今度見つけられたら私は助けてあげられないからな。そのときはどうなろうと知らないから覚えておくことだ」

 木村さんは海野の耳元でささやくと、治療代だと封筒を海野の懐にねじ込んだのです。

 

 「まあそういうことで、海野は這うようにして帰りました」

 木村さんはにやりと笑み浮かべて、海野も亮さんに近づくことはないでしょうね。

と言うのです。

 「私の話はそこまでですが、実は私は社長の言付けを持ってきました。社長は亮さんのことを心配されて、念のため海野が亮さんにし返ししないか気にかけられ、安全のため一週間ほど屋敷の愛さんの離れににとどまっているようにということです。

 この社長の指示には絶対従ってもらいます」

 なにか今までの木村さんの態度と打って変わった口ぶりです。

 「でも一度富子さんに説明して納得してもらうのでマンションに帰ります。心配は私だけでなく富子さんもです」

 「それはダメです。今から愛さんのところに居るようにということですから言われる通りにお願いします。それじや私の判断ですが、富子さんがスナックで居るときは客の目があるから大丈夫です、家に帰るとマンションの鍵かけていれば万一海野が来ても開けない限り大丈夫です。ただ夜遅くスナックからの帰り道の道中が心配でしょうから、私が車でお送りしましょう。これでどうですか?」

 「いや木村さんそんな面倒かけるより、私が富子さんのそばに居ている方が安心なのです」

 私より富子さんが心配、その気持ちに私は捕らわれて木村さんに言い返すのです。

 確かに木村さんの話で海野が相当ひどい目に会ったようなのです。それだけに逆恨みでも仕返しは、私だけでなく富子さんも海野の標的されるのではないのか?その心配をするのです。

 「亮さん、そのぐらいでおやめなさい」

 横から口挟んだのは愛さんでした。

  「木村さんはお父さんの言付けを伝えに来られたのよ。木村さんに言葉返しても仕方ないでしょう。言っておきますが、亮さんはお父さんの期待を裏切ってこの家から出て行ったのよ。それでもお父さんは貴方のために海野の後始末したのは、貴方を愛しておられるからでしょう。それに海野の仕返しで貴方に万一のことがあってはと、親心で亮さんを私に預けることまで言われているのよ。

 だからね亮さん今貴方がするべきことは、ここまで貴方を大事に思うお父さんの言いつけに従うことではないの?わずか一週間のことでしょう。辛抱しなさい。頭が良くて物わかりの良い亮さんはどこへ行ったの?」

 母親のような愛さんにここまで言われると、もう返す言葉がないのです。

 「分かりました。言われた通りにします。木村さん富子さんのために夜中まで出て面倒見てもらうなんて申し訳ないけど、よろしくお願いします。」

「良いですよ気使わなくても、これも社長の代わりの仕事ですから」

 笑顔で答える木村さんに頭下げるしかないのです。

「亮さんに代わって富子さんには事情はちゃんと伝えておきますから、安心してください」

 その言葉を残して木村さんが帰った後、愛さんにお茶でも呑んでおしやべりしましよう。と言われて、テーブルに向かい会ったのです。

 

 私を前に愛さんはおもむろに口開くのです。

 「木村さんの前では言えなかったけど、なぜお父さんは亮さんのことを心配しても富子さんのことを触れなかったか?と思うでしょう。実は、お父さんは富子さんを信じていないのよ。いえ、富子さんと会いもしないでなぜ?と思うでしょう。

  実はお父さんは私には打ち明けたの。亮さんがお父さんと会社で話しあった時、貴方が美人の富子さんにのめり込んだ話しをしたでしょう。そのときお父さんは亮さんが自分と同じ道歩んでいることに気が付いたのよ。美人に憑りつかれてわがものにしょうとしている自分と同じと知ったのね。

 お父さんは奥様に憑りつかれて、好きな男性が居るお母様を力づくで奪い取ったの。だからお母様はお父さんを許すことできなかったのね。それでもお母様は貴方を生んだ。だけどお父さんと同じ容貌の貴方を愛することできなかったのではないかしら?

 亮さんをピノチオと呼んだのはそのせいでは?私は思う。そんな関係のなかでお父さんは奥さんに愛されていないことを若い女中の私に打ち明けるようになったわけ。

 そしてお定まりの道になって、私はお父様の者になったのよ。いえ、私は後悔はしていない。たとい日陰の女になってもお父さんに愛されているのは自分だけとおもうと、悔いはなかった。

 女は愛されていることが全てなのだからね。

 でもそれは奥様には許せないことだと思う。あれだけわがものにするため手段を択ばず私をわがものにしながら、今度は女中に手を付けるとは。それはもう奥様のプライドを傷つけることでしかなかったにせよ、奥様は許せなかったのね。だから貴方を置いたまま恋人のもとに駆け込んだのよ。」

 愛さんの告白は、なんとなく私が感じ取っていたことを裏付ける話でした。そういえば母は私に<自分の気持ちに忠実になってやりたいことやった実績がある>と告げたのはそのことだったのかと分かってきたのです。

 でも私が言うのも変だけど、奥様の悲劇はそこからなの。

 この村はお父さんの会社で成り立っているの。村の人々の生活はお父さんが居ての生活が維持できているのは亮さんも知っているでしょう?

 だから奥様の行動はお父様に楯突くことで許せないことだったから、両親はもとより身内が寄ったたかって奥様をお父様のもとに帰らしたの。それはまったくお父さんの要望に応えて奥様をお父さんの嫁に差し出したことと同じだった。

 あとは分かるでしょう。お母様は帰るなりすぐに正さんを生んだ。成長するにつれ好男子そのもの。だからお父さんに似ていない正さんを村の人は恋人の子を宿したと陰では言うのよ。果たしてそうなのか?お父様は何言うこともなく、正さんを自分の子としてそれを受け入れたのだから、だれも表立って口にはしないけどね。」

 愛さんの長い話を聞きながら、思い当たることに気が付いたのです。

 母に私が家を出て富子さんと暮らすこと、そして父の跡を正に継がせることが、正を陰から出してやることが、つぐないになると私がうっかり口に出したことに、母が

驚きの反応示したことに思い当たるのです。

 多分、母は今、愛さんが話したことを私が知っていると思ったのです。そのことが背中押しになっては母は私の提案を受け入れたのに違いないのです。

 母が<やりたいことを一度するのも二度するのも同じこと>と言ったことことの意味がそれで解けてくるのです。

 私の弟、正が誰の子か?それは誰も知ることはできません。父も母も口にしないのですから。だから私も口を閉ざしておこうと思います。

 

 そして愛さんの話は、長い話だけどそれは入口で本題はあとの話だと後で私は気づいたのです。

 「そこで亮さん初めの話に戻るけど、お父さんがなぜ富子さんを信じていないか?ということだけど、じつは先にも言ったように、お父さんは亮さんが自分と同じ道を歩んでいると危惧したのは、お父さんは美人の誉れ高い奥様に憑りつかれて嫁にしたけれど、結局は奥様に愛されることはなかった。不幸の源を自分が作ったようなものだと、私に打ち明けられたのです。

 もうわかるでしょう。お父さんは亮さんが自分のしてきたことを亮さんもしていると判断して、美人の富子さんとは幸せになれない、そう結論したから、富子さんを信じることができないのでしょうね。会うこともしない、話し合うこともしないのにね」

 「でも僕は父がどういおうと富子さんとは離れない。そう決心しています」

 「だからお父さんは亮さんの固い決心に、富子さんを一時の遊びとして亮さんとが富子さんと暮らすことを許しているだけなの。お父さんは富子さんが亮さんをいずれ思うようにならないと知ったら、亮さんのもとを離れると判断しているようね」

 言われて私は矢張り父には勝てないと思ってしまいます。

 「ということは愛さんこの一週間の意味は?」

 「わかってきた?さすがに亮さんね。そう、富子さんを試しているのよ。富子さんが亮さんと引き離されてどういう態度をとるか?亮さんに理用価値がないと知って富子さんは離れると、いうのがお父さんの読みなのよ」

 ここまで愛さんが父のてのうちを話すと言うことは、愛さんもまた母と同じように父に反乱しているのか?愛さんの言葉に瞬間私の頭にその疑問が駆け巡ったのです。

 でもなぜ愛さんが父に反乱するのか?私は知ったのです。愛さんはわが子のようにしている私のために父に反乱したのだと。

 「愛さん僕は父がどういおうと、判断しょうと、僕は富子さんを信じています。富子さんは私を裏切りません」

 「そうでしょうね。私も亮さんと同じ気持ちでいます」

 そうです。愛さんは父よりも私を味方する道を選んだのです。

 それだけに私は愛さんに告げていたように、愛さんの生涯面倒見ると決意したのです。<最終章、後編に続く>