<信じなさい>と言いながら私はなんの手を打つこともなく、富子さんと会い続けました。日曜だけでは私は辛抱できませんでした。

 平日の昼過ぎまでは彼がパチンコに行くのが日課と富子さんに聞いてから、その時間でもスナックの店で会うようになりました。

 外で会うのは危険だと富子さんが言い張るので場所を変えることはしませんでした。

 そして私はその時は大学に行くのもやめ、家には大学に行く時間にでるように見せて実はスナックに行って、富子さんにもらった合鍵で開けて入り、富子さんを待ち続けるのでした。

 会いたい会いたい~その想いに耐えきれず、若さが富子さんを求め続けたのです。

 

 富子さんもまた、ダメです~言いながら、私を拒むことができず流され私を受け入れてしまうのでした。富子さんはそれでも私と会うたびに、口癖のように<もう会わないで~>言いながら、矢張り私と会ってしまうようでした。

 

 <会っていたら絶対ダメです。彼がきます。ここで亮さんと会っているときに彼が入ってきたらどうするつもりです?バーテンダーですから、彼もここの鍵を持っているのですよ>

 富子さんがあまりおののくので、私は彼が行くパチンコ屋をのぞいて彼のそばに陣とったのです。私は悪友に誘われてスナックで一度会って、話は交わしたけど気づかないだろうと読んでのことでした。

 それがです。昼前ごろでした。玉が景気よくでて溜まっていると言うのに、突然彼は打つのを止めて台の皿で盛り上がっている玉を箱に移しだしたのです。

 なにか考えられない行動です。球が溜まりだしたら止めることなどできないのが当たり前なのに?

 不審に思いながら私は彼が玉の交換所に行く間に、隣のおじさんに残っていた球を

あげて外に出て物陰から彼を待ち受けたのです。

 ところが、また彼は私の予想と違った行動をするのです。

 大きなビニール袋を提げているのは、球を景品に代えたようです。これが不思議でした。

 普通は彼のようなパチンコの常連は、外の景品所でお金に替えるのが普通なのです。彼はそれをせずに、家族のお土産に景品を持って帰るおじさん達と同じ行動をとったからです。

 袋いっぱいの景品。どんな景品が入っているのか分かりませんが、まさか富子さんへのお土産とは考えられません。

 彼の行動の意味は分からないままに、私は後をつけます。

 大通りから裏通りに入り、さらに細い路地のような通りに入ると、2階建ての木造アパートが建っています。彼はアパートの外の階段を上がると並んでいる扉の二軒めの扉をノックします。

 内から扉が開いて顔を出したのは女性?と思ったけど、待てよ?どうも見た顔の可愛い女性と思いながら見上げていると、彼が持っていた景品の入った袋を女性に渡します。

 ニコリ笑顔を見せて袋を受け取る女性。

 それで気がつきました。

 悪友に連れられて富子さんのスナックに行ったとき、悪友に先着された可愛い女性、後で悪友に教えられたのが、女装さんだったということでした。

 スナックのスタップの一人なのです。

 その彼女が彼の愛人?

 彼はパチンコと言いながら、じつは彼女のもとに通っているのだと気が付いたのでした。

  女装さんの後に続いて部屋に入って扉を閉める彼を見届けて、私は確信します。

 バーテンと女装スタップ。富子さんに隠れての行為だと。

 怒りが次第に私のなかで立ち上ってきます。

 

 富子さんの内縁の夫と称して、富子さんに言い寄る男性を脅していながら、実は彼には愛人がいたのです。彼にとって富子さんは単に金づるの女性でしかなかったのです。

 多分富子さんはそのことを知らないにしても、女性の直感でそれを感じとって彼と別れようとしているのだと私は見抜いたのです。

 許せない。怒りに震える思いでした。私の理想の女性の富子さんを彼は利用し汚したのです。

 もう富子さんとの逢う瀬を楽しむ楽しんでいる時ではないと覚悟しました。富子さんとの約束を果たすために彼を富子さんと切り離す計画を実行すると決めたのです。

 

 あくる日富子さんと約束していたのでスナックに出掛けました。

 早いめにスナックに入って、何時もの席、ソフアーに座って富子さんを待ちます。

  今日はいつものような富子さんとの激情のときを交わすのは止めて、しっかりと話し会うことをしょう。自分に決めました。

 その富子さんはスナックに入って来るなり、私に駆け寄るといきなり私に抱き着き唇を合わせにきたのです。

 さすがに私も驚きます。

 富子さんはいつも控えめで、私の求めを受け止めるのがつねなのです。それがどうしたことか?でも、何時もの私ならこんな富子さんの積極性に流されてしまうに違いありません。

 でも踏みとどまりました。

 「どうしたのです?富子さん」

 首に巻きついた富子さんの腕をほどくと冷静に問うたものです。

 「亮さん私、もう逃げるのを止めます。貴方と暮らすことを決めました。でも恐ろしいのは彼が貴方に危害加えるのでは?それが恐ろしいのです。だから貴方のこと彼に知らせたくないのです。だから私のすることを絶対従ってもらいます。お願い」

 何時もの私に見せる笑顔ではなく、きりりと引き締まった厳しい表情の富子さんです。

 「どうしたのです富子さん。富子さんの言うことだから僕は従いますよ。でも、なにをする気なのです?」

 「黙って~」

 富子さんは手を差し伸べ私の唇に指をあてるのです。

 バックから次々出されてきたのは、化粧品でした。

 それで富子さんが私に何をしょうとするのか分かりました。

 驚きました。とんでもないことです。

 女装スナックです。男性が女装してくるスナックですから、富子さんが私に女装させようとするのが分かります。

 でも不細工な男性として引け目の虜の私です。女装すればどんな女装の女になるのか?想像するだけでも息が止まる思いです。

 <止めてください>叫びたい声は、富子さんの厳しい表情に気押されて声もだせません。

 

 頭にストッキングのよう物をかぶせられて髪を隠すようです。

 脱脂綿で顔をふき取られます。冷たい感触でふき取られるのは化粧水です。顔の汚れをふき取って、フアンデーション、パウダー、目元に炭をいれられ、眉をなぞり、

つけまつげ、口紅などなど顔を上げた私に手を入れられます。

 こんなにも手間をかけるのか?思うほど丁寧なメイクを仕上げると、最後に茶髪のウイッグをかぶせられます。

 初めての経験です。一体どんな女性にさせられるのか?好奇心と不安が織り交ぜて私を襲うのです。

 富子さんはジャンバー姿の私の服をはぎ取ります。

 下着もすべて脱がされ裸体の私に富子さんは、ビニール袋から女性のインナーを取り出します。真っ白な女性の小さなショーツをはかされました。

 ブラジャーも真っ白です。胸につけられ盛り上がる自分の胸を見下ろしたとき私の興奮は最高度に達しました。

 動悸で胸が高鳴ります。

 その私に富子さんは私の耳元に口を寄せささやくのです。

 「亮さんたら~これ何~?」

 嫣然と笑みを浮かべる富子さんの表情は、どきりとするような色気を称えているのです。そしてその指がテントを張った私のショーツを上からなぞるのです。

 「止めてください富子さん。爆発しそうです」

 思わず声上げた私に富子さんはにやりと妖婦の笑み見せてささやくのです。

 「亮さん貴方、女装願望があるのね?」

 言われた言葉に私は反応したのです。自分の顔が真っ赤に染まるのが分かったのです。

 富子さんは私の反応に凄く嬉しそうでした。喜々として私の女装を進めるのです。

滑らかなサテンのスリップを着せられ、最後は真っ赤なドレスです。

 「こんな真っ赤なのは恥ずかしいです。もっとおとなしいドレスにしてください」

 私の哀願に富子さんは首を振るのです。

 「大丈夫、亮さんは若いのだからこれが似合うの」

 嬉し気に返事する富子さんはまるで聞き入れないのです。

 そしていつ私の足のサイズを知ったのか?富子さんは幅広のかかとのパンプスを私に用意していたのです。

 背の低い私のためにかかとを高く、歩きやすいように幅広のかかとで私の女装を完成させるつもりだと分かります。

 何のために、こうまでして富子さんは私の女装に執着するのか?

 不思議に思います。でも私のなかではそれが嫌ではなく、なにかわくわくする気持ちで占められているのを抑えられなくて、矢張り富子さんのいう私には女装願望があるみたい。思ってしまうのです。

 

 富子さんは女装姿で立つ私を下からなぞるように、視線を上から下まで見上げ見下ろし一人うなずいてみせます。

 「亮さん綺麗よ~すごくきれい」

 富子さんは嬉しそうに私に頷いて見せるのです。

 本当かな~?ぶさいくな男の自分が、いくらメイクで綺麗にした女装になっても知れている。私には、まだその想いはぬげきれないのです。

 「ふふふ~」なにか嬉しそうに笑う富子さんです。

 「いらっしやい亮さん」

 私の手を握ると富子さんは洗面所に連れて行きます。

 「見てごらんなさい」

 洗面所の鏡の前に私を押し出したのです。

 こわごわ鏡を見たのです。

 真っ赤なドレスを着た、髪の赤い女性は鼻ガツンと高くとがって、赤い髪と相まって外人の女性と思うばかりの美人です。

 息呑みました。

 まさか?まさか?信じられない気持ちです。

 これが?この美人が自分なのか?まるで夢みる気分です。

 

 鏡の中で微笑んでいる富子さんを見て振りかえり問いました。

 「富子さん本当にこの美人が僕なの?」

 問わずにはおれません。

 「そうよ亮さん貴方は男より女の方が身についているみたいね。でも、もう僕は止めてくださいネ。今の貴女は女性なのだから」

 笑み見せた富子さんに、嬉しさのあまり思わず抱きついていました。

 私は女性になったのだ。今まで心の奥底で眠っていた女装願望が富子さんの手で引き出されたと知ったのです。

 

 <この私の姿を、美しさを父に母に、正に見せたい>内心思います。

 母は私のとんがり鼻をピノチオと醜いように言いました。でも、今、鏡に映る私は高い鼻の外人の女性と見間違う美人の柱に鼻はなっているのです。

 私のピノキオは美人なのです。

 

 「これで私は安心して亮さんと堂々と外を歩けるでしょう。今から亮さんでなくて亮子さんと女のおしやれの買い物に私は一諸に行くのよ」

 叫ぶように私に告げる富子さんは満面の笑顔に包まれて、最高の嬉しさに満ちているようでした。

 私もそれにつられました。

 「はいお姉さま、お願いします。ご一諸します」

 その私にはまだ似合わない女言葉は、私の初めて発した女装姿になった女性の言葉だったのです。

 <続く>

 

 新年あけましておめでとうございます。本年も愛読よろしくお願いします。

 93歳<冬野あき>愛称<とくみ>