102回
「正人さん、私、ミカちゃんに秘密の箱渡したとき、正人さんと別れるなど思っていませんでした。ただ、お母様に説得されてミカちゃんをお母様のもとに預けるのにミカちゃんを納得させるために私の大事にしているものを秘密の箱に入れたのです。
指輪はミカちゃんが成人した時、ホントのママの形見としてミカちゃんのものになると思っていましたから。だからミカちゃんが開けたとしても私に会えると言ったことは、お母様と田舎に行くことを嫌がる、ミカちゃんを言いくるめることでしかなかったのです。でもほんとのところは私には、秘密の箱はミカちゃんには到底開けられない箱だと分かっていましたけどね」
「私の母が僕と別れるようにあきさんを説得というか、哀願したのがあくる日母が社宅に来ての話だから、箱の中の指輪は僕に探して欲しいというメッセージではなかったと言いたいのだね。でも、実際は違うのだよあきさん」
笑みを浮かべて否定する正人さんに私は不審に思いながら見返します。
「だって正人さん確かに私はお母様に説得されて、正人さんと別れることを承知して正人さんと繋がりのあるものはすべてきってしまいました。
でも悲しくて耐えられずせめて正人さんにお別れだけでもしたいと、お母様との約束破って頭の中にある正人さんの電話番号はつながらないから、会社の庶務に連絡お願いに行ったのです。でもそれは断られました。会社にとっては私は正人さんの奥さんではなく他人でしかないということだったのです。正人さん女装子は奥さんにはなれないのです」
そのときの悲しかったこと思い出すと、さっきの正人さんと会えた時の嬉しさの涙ではなく、悲しさの涙があふれてしまうのです。
「泣かないであきさん僕もそれを嫌というほど経験して、ぼくもあきさんと同じ思いしたのだから、もうあきさんを悲しまさないようにと解決してきたのだから安心して。そのため遅くなってしまったけどあきさん迎えにきたのだからね」
「でも正人さん、迎えに来たと言ってもどうして私がここに居ることを突き止めましたの?」
問いながら思うのです。
私は正人さんにとっては他人でしかない、奥様ではないと宣告されて、その悲しさにお母様との約束に従って頭の中にある正人さんの電話番号さえ忘れてしまったと言うのに、正人さんは私を迎えに来てくれた。どうして私の居所が分かったのか?
聞かずにおれないのです。
「ふふ~あきさん気が付かないままに僕にメッセージ送っていたんだよ」
「そんな、お母様との約束があるから、正人さんと会うためのメッセージを送ることなどしていませんけど」
「そうだろうね~」
笑み浮かべて正人さんはうなずいてみせると、ポケットから出したカラー刷りのチラシを見てすぐわかりますした。
打ち上げ花火が大きく開いたカラー写真の下に、活字で花火大会の日時と場所が印刷されているチラシです。
「正人さんそのチラシ~」
「そう、あきさんにはめたその指輪を包んでいた花火大会のチラシですよ。ミカがママと会うために秘密の箱を開けるのだと懸命にしていたから、僕も手伝って箱を開けたんだ。そしたら指輪とともに包んでいたチラシ見てあきさんからのメッセーと分かった」
「でもそのチラシがどうしてここの医院の場所を知らす、私のメッセージになりますの?」
「あきさん花火大会でのこと覚えているでしょう?僕と熱いキッス交わして、僕が女装子のあきさんと知ったけど、共に暮らそうと僕が心に決めた日を~」
「ルージュの屋上~」思わず叫びます。
一気に謎が解けてきました。前畑先生が、いえ、静さんが自分の身元をあえて明かして、ルージュとメイクの先生に私の身を寄せている場所を知らしていたことです。
そして花火大会の見物に行ったとき、ルージュの屋上で正人さんにキッスをされたことは忘れられぬ私の経験なのです。
そして今、初めて正人さんから聞いた<私が女装子と知った>とき、という言葉は、やっぱり由美さんや優子さんに冷やかされ、笑われたように正人さんはキッスの興奮の嵐のなか私が正人さんに身を寄せたとき、正人さんは浴衣姿の夏の薄い衣装を通して私の女装子を知ったのだとわかったのです。
「ああ、あきさん真っ赤になって~分かったのだね。僕はルージュにすぐに行ったよ。だってあきさんだけでなく、僕にもルージュの屋上での花火大会でのあきさんとのことは、忘れることのできない夜だっただからね」
正人さんは私を忘れていなかった。私を愛していてくれたのだと、私は改めて実感するのです。
<信じるのよ>静さんの言葉がよみがえってきます。
「でも正人さん一諸にまた住むなんて~私不安なのです。会社での正人さんの立場が悪くなると、お母様に言われていることです」
「それは母から聞きました。母が僕を守ろうとして心無い仕打ちをあきさんにしたことも理解できた。それで僕も覚悟を決めたのです。あきさんを受け入れできない会社は、僕にも受け入れできないと会社辞めたんだ。
あとは自分で会社作った。仲間たちとね」
「私のためにそこまで~」
正人さんの決意に胸が熱くなります。
「気にしないで、もともと僕は独立する気持ちが前からあったからね。あきさんとのことが後押しされただけだからね」
「お母様は納得されてますの?
「僕の決意に従うほかなかったというか、あきさんには申し訳ないと、会わす顔がないと後悔しているよ」
「私はいいお母様だと思っています。私達今も仲良しなんです。お母様は正人さん守るためにされたことで、だから私も正人さんを守るお母様に従っただけなのですから正人さん」
「良かった僕はもうあきさんは僕を愛してくれなくなったのか心配だったのだよ」
「もう、私は花火大会の時からずう~と正人さんを愛していますよ。正人さんから離れることになってからでも正人さんを好きでいたのですからね」
「わかったわかった~僕だって同じですからねあきさん」
「それじやミカちゃんを安心させに行きましょうか」
「ミカもしっかりしてきたからね。多分ケーキ食べながら僕らのこと気にしていると思うよ」
「ミカちゃんとまた一諸の家族復活ですもの喜ぶでしょう」
答えたとき、いきなり正人さんに引き寄せられました。
私は正人さんのすることは分かっていました。
首をあげ正人さんを見上げます。
正人さんの顔が近づき唇合わせます。
正人さんの首に手をまわし自分から正人さんに体を寄せていきました。
長い時間が過ぎたと思うほどのキッスが終わると、正人さんと手をつないで奥に入ります。診察室の前に来た時キッチンから話し声です。
「ミカちゃんここへきておじさんの子供にならない?そしたら毎日ケーキ食べさせるけどね。どうだい?」
前畑先生の声です。
「だ~め~ミカはママと一諸だからね」
はっきりしたミカちゃんの返事に私は思わず正人さん見て笑うと、正人さんも笑みを返します。
そうなのです。女装子だった私が家族を得たのです。ミカちゃんのママになったのです。<続く・次回最終回>